食中毒の潜伏期間は、原因となる食品を口にしてから症状が現れるまでの時間である。東京都多摩府中保健所は、食中毒には短時間で発症するものと数日後に症状が現れるものがあるとして、直前の食事だけを原因とみないよう説明している。嘔吐や下痢が始まる直前の一食だけを疑うと、調査すべき時間帯を外すおそれがある。

潜伏期間と症状は候補を整理する材料にはなるが、原因食品や病因物質を確定する検査ではない。最初に救急性を見極め、その後に発症前の食事、共食者、購入記録を時間順に残す。

最初に確認する119番と早期受診

成人で突然の激しい腹痛、激しい腹痛の持続、吐血、血便または真っ黒い便、支えなしでは立てないほどの急なふらつき、呼吸困難、意識の異常がある場合は119番へ連絡する。 食後の症状でも下痢や嘔吐だけを前提にせず、厚生労働省が示す救急車要請の目安に当てはまれば、原因や潜伏期間を調べる前に救急要請を優先する

子どもが激しい下痢や嘔吐で水分を取れず、食欲がなく、意識がはっきりしない場合は119番を呼ぶ。 嘔吐が止まらない、激しい腹痛で苦しむ、血便が出る場合も同じである。乳幼児で水分が取れない、唇や舌が乾く、尿が半日以上出ない、尿が少なく濃い、血液・粘液・黒っぽい便が出る、けいれんがある場合は至急受診する。こども家庭庁の感染症対策ガイドラインは、これらを乳幼児の下痢で脱水などを疑う兆候として挙げている

119番の兆候がなく、意識がはっきりして水分を飲み込めるなら、水分摂取を優先する。飲んでも吐いて保てない、尿が明らかに減る、口が乾く、ぐったりする、血便や強い腹痛がある場合は日数を待たず医療機関へ連絡する。厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」は、急性下痢症では原因の推定より緊急度と脱水を評価し、水分摂取と脱水への対応を優先するとしている。自己判断で下痢止めや抗菌薬を使わない。

乳幼児、妊婦、高齢者、持病・常用薬のある人

乳幼児と子ども。 成人の様子見を当てはめない。水分、尿、唇や舌、便の色、意識と活動性を確かめ、前段の兆候があれば受診を急ぐ。

妊婦、高齢者、持病や免疫機能低下のある人。 農林水産省は、乳幼児、高齢者、妊婦のほか、肝臓疾患、がん、糖尿病の治療中の人や免疫機能が低下している人を、食中毒で症状が重くなる可能性がある層に挙げ、疑う症状があれば医師の診察を受けるよう案内している。受診時には該当する状態を伝える。

常用薬のある人。 嘔吐や下痢が続いても、薬を重ねて飲む、減らす、中止する判断を自分で行わない。処方した医師か薬剤師へ薬の名称、最後に飲んだ時刻、嘔吐と下痢の回数を伝える。

潜伏期間──数時間から数日まで

東京都多摩府中保健所が2024年10月に公表した資料は、黄色ブドウ球菌を1〜5時間、ウェルシュ菌を6〜18時間、サルモネラを6〜72時間、ノロウイルスを24〜48時間、カンピロバクターを2〜7日という代表的な潜伏期間で整理している。厚生労働省の腸管出血性大腸菌Q&Aは、おおむね3〜8日の潜伏期を置いて発症する場合があるとしている。

代表的な原因 代表的な潜伏期間 主な症状の例
黄色ブドウ球菌 1〜5時間 吐き気、嘔吐、下痢
ウェルシュ菌 6〜18時間 下痢、腹痛
サルモネラ 6〜72時間 腹痛、下痢、発熱
ノロウイルス 24〜48時間 嘔吐、下痢、発熱
カンピロバクター 2〜7日 下痢、吐き気、発熱
腸管出血性大腸菌 おおむね3〜8日 水様便、激しい腹痛、血便

表は診断表ではない。発症時刻が範囲に収まっても、その原因を示すとは限らず、範囲から外れた食品を無関係とも断定できない。厚生労働省は、腸管出血性大腸菌の潜伏期間をおおむね3〜8日とする一方、血便には同菌以外の感染症や疾患もあるため、医療機関で原因を調べる必要があるとしている

厚生労働省の食中毒調査マニュアルは、多くの食中毒が原因食品の摂取後数時間から1週間程度で起きる一方、肝炎ウイルスなどでは潜伏期間が1か月を超える場合もあると記している。自然毒、化学物質、寄生虫も含め、表にない原因を時間だけで除外しない。

嘔吐、下痢、腹痛、発熱と神経症状を並べた食中毒症状の比較図

症状の組み合わせだけでは原因を決められない

嘔吐、下痢、腹痛、発熱は複数の食中毒と感染性胃腸炎で重なる。発熱がないことも食中毒の否定材料にはならない。食後すぐの激しい嘔吐は食品中で作られた毒素を調べる手掛かりになるが、本人が黄色ブドウ球菌などと決める根拠にはならない。

血便は原因当てに使わず、救急性と受診を判断する兆候として扱う。物が二重に見える、ろれつが回らない、飲み込みにくい、力が入らない、呼吸が苦しい、意識がおかしいといった神経・呼吸の異常も、下痢がないからと待たず119番へ連絡する。

食事と発症時刻は7日間を一人ずつ記録

厚生労働省の調査マニュアルは、共通食が特定できない場合、原則7日間、必要ならさらに前まで遡り、三食に加えて間食と飲料も調べるとしている。発症者と無症状者の喫食状況を比べるため、同席者は症状のある人だけを記録するのではなく、食べた品目と発症の有無を一人ずつ分ける。

  1. 発症時刻を決める:最初の吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱が始まった日時と、その後の回数や変化を記す。
  2. 7日間を遡る:自宅の食事、外食、弁当、テイクアウト、間食、飲料、旅行先で口にした物を日付と時刻で並べる。
  3. 料理を分解する:主菜名で終えず、付け合わせ、ソース、薬味、氷、共通の飲料まで書く。
  4. 人ごとに分ける:誰が何を食べ、誰が食べず、誰がいつ発症したかを別々に残す。
  5. 追跡資料を保管する:包装、商品名、ロット表示、レシート、注文履歴、献立や料理の写真、食品残品を捨てない。

農林水産省は、食べた物、食品の包装、店のレシート、残っている吐物を原因調査の資料として保管するよう案内している。疑わしい残品を食べて確かめない。冷蔵か冷凍かを全国一律に示す一般向け資料は確認できていないため、品目と現在の状態を保健所へ伝え、移動や保管の指示を受ける。

食事記録、レシート、食品包装、写真と残品を並べた食中毒調査資料の図

医療機関と保健所へ伝える内容

食事との関連が疑われる場合は、医療機関を受診し、地域の保健所へ相談する。東京都保健医療局は、保健所が症状と数日間の食事を聞き取り、必要に応じて検便、食品残品の検査、飲食店や製造元の調査を行うと説明している。居住地を担当する窓口は、厚生労働省の「保健所所管区域案内」から都道府県別に確認できる

伝える項目は、発症者の年齢、最初の症状と時刻、嘔吐・下痢・発熱の経過、飲水と排尿、受診状況、7日間の食事、共食者の喫食と発症、包装や残品の有無である。家庭の記録は調査の入口であり、特定の料理や店の責任を決めるものではない。保健所の調査前に事業者名を公に断定しない。

よくある質問

最後に食べた物を最有力と考えてよいのか
最後の一食には限らない。代表例でも潜伏期間は1〜5時間から2〜7日まで開き、腸管出血性大腸菌ではおおむね3〜8日の場合がある。原則7日間の食事、間食、飲料を時刻順に書き出す。

同じ物を食べた一人だけが発症しても食中毒なのか
人数だけでは肯定も否定もできない。食べた品目と量、体調、潜伏期間には差がある。発症者と無症状者を分けて記録し、医療機関と保健所に伝える。

下痢止めや抗菌薬を先に使ってよいのか
自己判断で使わない。農林水産省も、食中毒が疑われる時は自分で薬を決めず医師の診察を受けるよう案内している。常用薬の追加、飲み直し、中止も医師か薬剤師へ確認する。

食品残品はどう扱うのか
捨てず、食べて確認せず、包装やレシートと一緒に残す。保管方法は品目と状態を保健所へ伝えて指示を受ける。