家庭の食中毒対策は、原因となる細菌を食品に「付けない」、温度管理で「増やさない」、加熱で「やっつける」という流れで考える。夏は気温と湿度が上がり、買い物から食卓までの短い放置も積み重なるため、保存温度と経過時間を一緒に管理する必要がある。

見た目に異常がなくても、安全とは限らない。家庭で確認すべきなのは、手と器具が清潔だったか、生の肉や魚の汁が加熱済み食品へ触れなかったか、中心まで加熱したか、常温に置く工程を短くしたかという履歴である。

先に確認する受診の警告サイン

食後に腹痛、下痢、発熱、嘔吐が出て、呼びかけても反応がない、普段どおりに話せない、顔や唇の色が悪い、冷や汗が出ている場合は119番が必要になる。総務省消防庁の救急受診ガイドは、これらを救急車などで直ちに受診する共通項目に挙げている

突然の強い腹痛が続く、吐いた物や便に血が混じる、嘔吐を繰り返す、尿量が減る、尿が濃くなる、口や唇が乾く、立ちくらみが出る場合も、待たずに医療機関へつなぐ。嘔吐が2日以上続くことも同ガイドの受診判断項目である。原因は最後に食べた物とは限らないため、食べた物、包装、レシート、発症時刻を記録しておく。

乳幼児、妊婦、高齢者、持病や常用薬がある人

乳幼児

子どもでは、水分を少量与えても吐く、半日以上尿が出ない、泣いても涙がほとんど出ない、ぐったりしている、血便がある場合に早い受診が要る。成人と同じ回数や待ち時間で経過を見ない。

妊婦、高齢者、免疫機能が低下した人

厚生労働省は、リステリアが4℃以下でも増殖し、妊婦、高齢者、抗がん剤治療中など免疫機能が低下した人では、少量でも重い状態になる場合があると説明している。冷蔵を過信せず、期限と保存方法を守り、開封後は速やかに食べる。妊娠中に発熱や消化器症状が出た場合は、産科を含む医療機関へ早めに相談する。

持病や常用薬がある人

農林水産省は、乳幼児、高齢者、妊婦のほか、肝疾患、がん、糖尿病の治療中の人や、ステロイド薬を服用している人などを重症化しやすい人として挙げ、食中毒が疑われるときは医師の診察を受けるよう示している。持病や常用薬がある人全員に共通する受診時間や食事再開の基準は、本稿の執筆時点で国内の公的資料から確認できていない。成人一般の目安を機械的に当てはめず、主治医の指示を優先する。

WHOの「食品を安全にする5つの鍵」

世界保健機関(WHO)は、食品を安全にする5つの鍵(Five Keys to Safer Food)を2001年にまとめた。WHOが示す5項目は、清潔を保つ、生の食品と加熱済み食品を分ける、十分に加熱する、安全な温度を保つ、安全な水と原材料を使う、である

5つの鍵家庭で確認する作業
清潔を保つ調理前、食事前、生の肉や魚に触れた後に手を洗い、器具と作業台を清潔にする
生と加熱済みを分ける包丁、まな板、皿、トングを分け、肉汁や魚の汁をサラダや果物へ付けない
十分に加熱する表面の色ではなく、食品の厚い部分や中心の温度を確認する
安全な温度を保つ持ち歩きと室温放置を短くし、すぐ食べない食品は表示に従って冷蔵する
安全な水と原材料を使う飲用に適した水を使い、期限、要冷蔵表示、包装の状態を購入時に確かめる

日本の家庭で使う温度の目安

農林水産省は、食中毒菌が増えやすい温度を約20〜50℃とし、持ち帰り食品をこの温度帯に置く時間を極力短くするよう案内している。これは安全と危険を一律に分ける境界ではない。食品の種類や菌、最初の汚染量、実際の温度で増え方が変わるため、「あと何分なら安全」と逆算する使い方は避ける。

日本の家庭向け公的資料で、あらゆる調理済み食品に共通する室温放置の一律上限は、本稿の執筆時点で確認できていない。買った物は寄り道せず持ち帰り、帰宅後にすぐ食べない場合は冷蔵する。車内、屋外、冷房のない台所では、受け取りから食べるまでを一続きの時間として扱う。

厚生労働省は、家庭の冷蔵庫を10℃以下、冷凍庫をマイナス15℃以下に保ち、加熱する食品は中心部75℃で1分以上加熱することを目安としている。残った料理は清潔な浅い容器へ小分けし、中心まで早く冷える形で保存する。冷蔵庫へ詰め過ぎず、冷気が回る状態を保つことも必要になる。

弁当、冷蔵品、魚介、バーベキューの確認点

弁当と持ち帰り食品

農林水産省は、弁当のおかずを中心まで加熱し、温かいまま詰めずに冷ましてからふたをし、長く持ち歩く場合は保冷剤や保冷バッグを使うよう案内している。持ち帰り弁当も日なたや車内へ置かず、受け取った後は早く食べる。すぐ食べない場合は、容器の表示を確認して冷蔵する。

冷蔵品と冷凍品

冷蔵品と冷凍品は買い物の最後に取り、保冷剤があれば帰宅まで使う。要冷蔵、要冷凍、開封後の保存条件を包装で確認する。アイスクリームや冷たい総菜も、低温だから無期限に安全になるわけではない。

魚介類とバーベキュー

食品安全委員会は、生の肉や魚介類を加熱せずに食べる食品から離し、交差汚染を避けるよう求めている。一般的な食中毒菌の加熱目安を中心75℃で1分以上とする一方、黄色ブドウ球菌が作る毒素は耐熱性があり、加熱しても無毒化されないと説明している。生肉を載せた皿へ焼けた肉を戻さず、生肉用と食事用のトングや箸を分ける。魚介類も汁がほかの食品へ触れないよう、袋や容器を分けて運ぶ。

見た目、におい、再加熱だけでは判定できない

農林水産省は、におい、色、味から食中毒菌がどの程度いるかは判断できず、冷蔵庫内の低温でも増えたり毒素を作ったりする菌があると説明している。異臭や膨張があれば廃棄する一方、異常がないことを安全の証明には使えない。保存方法や温度履歴が分からない食品を、味見で確かめない。

再加熱は、適切に保存した残り物を食べる際の工程であり、長い室温放置を帳消しにする手段ではない。黄色ブドウ球菌の耐熱性毒素のように、菌が増えた後では加熱だけで除けない危険がある。時間や温度の履歴が分からない食品は、再加熱を安全確認の代わりにしない。

家庭での5項目チェック

  1. 清潔:調理前、食事前、生の食品に触れた後に手を洗い、手指に傷がある場合は食品へ直接触れない。
  2. 分離:生肉と魚介類の袋、保存容器、包丁、まな板、皿、トングを加熱済み食品用と分ける。
  3. 加熱:加熱する食品は厚い部分を選び、中心75℃で1分以上を目安に確認する。
  4. 温度:約20〜50℃に置く工程を短くし、すぐ食べない物は保存表示に従って冷蔵する。
  5. 水と食材:飲用に適した水を使い、期限、包装、要冷蔵表示を確かめ、購入後の温度履歴を途切れさせない。

よくある質問

日本の公的資料が示す、菌の増えやすい温度帯は何℃か
農林水産省は約20〜50℃としている。範囲内へ入った時点で直ちに危険になるという線ではなく、置く時間を極力短くするための目安である。

弁当を室温に何時間置けるのか
すべての食品に共通する国内の一律上限は確認できていない。食品の内容、実際の室温、調理と運搬の履歴が違うため、早く食べ、すぐ食べない場合は表示に従って冷蔵する。

においに異常がなければ食べられるのか
におい、色、味から食中毒菌の量は判断できない。異常がなくても、期限、保存温度、室温に置いた経過を確認する。

温め直せば安全に戻るのか
中心までの再加熱は必要だが、長い室温放置をなかったことにはしない。黄色ブドウ球菌が作る耐熱性毒素など、加熱後も残る危険がある。