排便時の出血、肛門の腫れや脱出があっても、直ちに手術が必要とは限らない。痔核の治療は生活・排便指導と薬物療法から始めることが多いが、症状の強さと脱出の程度、ほかの病気を除外する必要性によって受診や処置の時期が変わる。
出血を「痔だろう」と自己診断するのは危険だ。痔核は肛門鏡で確認し、裂肛、直腸炎、ポリープ、直腸がんや肛門がんなどを除外して診断する。保存的治療が担う範囲と、医療機関で調べるべき境界を分けて考える必要がある。
先に確認する受診の警告サイン
肛門からの出血が止まらない、便器の水が赤くなるほど出る、大きな血の塊が見える場合は、救急要請を含めて直ちに医療につなぐ。英国の公的医療サービスNHSは、止まらない肛門出血、便器が赤くなるほどの出血、大きな血の塊を救急受診の目安に挙げ、黒い便は消化管出血で生じる場合があると説明している。同じくNHSは、黒色・暗赤色の便や、発熱を伴う強い肛門痛を急いで医療へ相談する兆候としている。
出血が繰り返す、便が細い・軟らかい状態や便秘など排便習慣の変化が続く、理由の分からない体重減少、腹痛や腹部のしこり、強い倦怠感がある場合も受診が必要だ。血便の色だけで原因部位や病名は決められない。
妊娠中、小児、高齢者、持病や常用薬がある人
妊娠中や授乳中は、フラボノイド系を含む内服薬や外用薬を自己判断で使わず、産婦人科または診療を担当する医師、薬剤師に相談する。日本大腸肛門病学会のガイドラインは、フラボノイド類の妊婦に対する安全性は十分ではないとしている。小児の血便は成人の痔核を前提に扱わず、小児科へ相談する。
高齢者、出血しやすい持病がある人、抗凝固薬や抗血小板薬を服用している人は、出血量が少なく見えても処方元へ連絡する。薬を自己判断で中断すると血栓症の危険があるため、中止や継続は医師が判断する。糖尿病や免疫機能に関わる病気があり、肛門周囲の強い痛み、腫れ、発熱が出た場合も早めの診察が要る。
内痔核の4段階分類──見るのは脱出の程度
内痔核は、肛門からどの程度脱出し、自然に戻るかを基に4段階へ分ける。日本大腸肛門病学会の2020年版ガイドラインは、1度を脱出なし、2度を排便時に脱出して自然に戻る状態、3度を手で戻す必要がある状態、4度を常に脱出して戻せない状態と定義している。
| 分類 | 脱出の状態 | 治療を考える際の位置づけ |
|---|---|---|
| 1度 | 肛門管内で膨らむが脱出しない | 症状と診察所見を基に保存的治療を検討 |
| 2度 | 排便時に脱出し、自然に戻る | 保存的治療で改善しなければ外来処置も選択肢 |
| 3度 | 脱出し、手で戻す必要がある | 外来処置や手術を含めて医師が評価 |
| 4度 | 常に脱出し、手で戻せない | 外科的治療を含む専門的評価が必要 |
この分類は脱出を測る物差しで、出血量や痛みを表す重症度表ではない。内痔核では痛みのない鮮血がみられる一方、血栓性外痔核では肛門の外側に急に痛む腫れが生じることがある。同じ「痔」でも位置と病態で対応は異なる。
保存的治療で変えるのは便と排便行動
日本大腸肛門病学会のガイドラインは、十分な水分と食物繊維を取り、強くいきむこと、便器に長時間座り続けること、長時間の座位を避けるよう示している。便意を我慢せず、硬便と下痢の双方を減らすことが目標になる。食物繊維を急に増やすと腹部膨満が出る人もいるため、食事内容と便の変化を見ながら調整する。
米国結腸直腸外科学会の2024年版指針は、食事と排便行動の修正を症候性痔核の第一選択とし、7件の無作為化比較試験をまとめたレビューでは食物繊維群で症状の残る割合と出血が減った一方、脱出、痛み、かゆみの改善は限定的だったと整理している。食事の見直しは、戻らない脱出を元に戻す治療ではない。
血栓性外痔核や嵌頓痔核の痛みと腫れには、入浴や温水で局所を温める方法がガイドラインに記載されている。ただし、強い痛みが続く、腫れが急に大きくなる、発熱がある場合は、座浴を受診の代わりにしない。
薬は症状を和らげても慢性的な脱出は消さない
痔核の薬物療法には内服薬、軟膏、坐薬があり、腫れ、痛み、出血などの緩和を目的に使われる。日本大腸肛門病学会のガイドラインは、薬物療法で腫れ、痛み、出血の緩和が期待される一方、慢性的な脱出を消失させる効能はないと明記している。ステロイドを含む外用薬は長期使用で皮膚炎や肛門周囲の白癬を生じる場合があり、漫然と使い続けない。
ジオスミン(Diosmin)はフラボノイド類の一種だが、製品ごとに成分、承認された効能、用法が異なる。ジオスミン単剤を痔核に自己使用する際の国内の統一的な公的基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。妊娠・授乳中、出血傾向がある、抗血栓薬を服用している、ほかの薬を常用している場合は、購入や使用の前に医師または薬剤師へ確認する。
手術や外来処置を検討する境界
保存的治療で改善しない出血や、手で戻す必要がある3度以上の脱出は、外科的治療を検討する目安になる。日本大腸肛門病学会のガイドラインには、ゴム輪結紮法、硬化療法、結紮切除術などが記載されているが、対象になる痔核の位置と脱出度、合併症は同じではない。
3度だから全員が同じ手術を受けるわけではない。出血、痛み、外痔核や血栓の有無、これまでの治療、抗血栓薬、生活への影響を診察で確認し、外来処置か手術かを決める。処置には術後出血、痛み、感染などの負担があり、保存的治療にも再発や脱出が残る限界がある。
血便を痔核と決めつけない
米国結腸直腸外科学会の2024年版指針は、直腸出血を自動的に痔核のせいにしてはならず、腹痛、腹部膨満、新たな便秘や進行する便秘がある場合、明らかな肛門部の出血源がない場合、痔核治療後も血便が続く場合は大腸の検査を検討するとしている。日本のガイドラインも、診断には直腸炎、ポリープ、直腸がん、肛門がんなどの除外が必要だとする。
厚生労働省の2026年3月資料では、市町村が行う大腸がん検診は40歳以上を対象に年1回、問診と便潜血検査を行う。これは症状のない人を主な対象とする検診であり、目に見える血便や排便習慣の変化がある人が次の検診まで待つ根拠にはならない。症状がある場合は医療機関で診断のための検査を受ける。
よくある質問
出血が鮮やかな赤なら痔核と考えてよいか
色だけでは確定できない。痔核や裂肛で鮮血が出る場合はあるが、ほかの直腸・肛門疾患でも血便は生じる。繰り返す出血は診察を受け、止まらない出血や大量出血は救急受診につなぐ。
2度や3度なら必ず手術になるのか
必ずではない。脱出度に加え、出血、痛み、外痔核、血栓、保存的治療への反応を診察して決める。3度以上の脱出や改善しない出血は、外科的治療を検討する目安になる。
薬を使えば痔核そのものがなくなるのか
薬物療法の目的は腫れ、痛み、出血の緩和であり、慢性的な脱出を消失させる治療ではない。症状が軽くなっても、便通と排便行動の見直しは続ける必要がある。
便潜血検査を受けていれば、目に見える血便は様子を見てよいか
様子を見てよい根拠にはならない。対策型検診と、症状がある人の診断は目的が異なる。目に見える出血が繰り返す場合は医療機関へ相談する。
出典・参考資料
- 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版 改訂第2版(日本大腸肛門病学会)痔核の診断、脱出度分類、保存的治療、薬物療法、外科的治療の適応を示す国内ガイドライン
- The American Society of Colon and Rectal Surgeons Clinical Practice Guidelines for the Management of Hemorrhoids(American Society of Colon and Rectal Surgeons)血便を痔核と決めつけないこと、食事・行動調整を第一選択とすることを示す2024年版指針
- Bleeding from the bottom (rectal bleeding)(NHS)止まらない出血、大量出血、血の塊、黒い便などの受診緊急度を示す公的医療情報
- Anal pain(NHS)強い肛門痛に発熱を伴う場合など、急いで医療へ相談する兆候を示す公的医療情報
- 大腸がん検診について(厚生労働省)日本の対策型大腸がん検診の対象年齢、受診間隔、検査方法を示す2026年3月資料