納豆は大豆を納豆菌で発酵させた食品で、納豆キナーゼ(Nattokinase)は発酵の過程で生じる酵素だ。「納豆で血圧が下がる」という話を検討するときは、普段の納豆と、納豆キナーゼ量をそろえた試験用カプセルを分ける必要がある。現在の臨床研究が主に評価しているのは後者であり、食品の納豆を毎日食べた場合の降圧効果を直接示すものではない。

血圧の管理は、複数日の家庭血圧、生活習慣、持病、処方薬を合わせて判断する。納豆や納豆キナーゼ製品を始めても、降圧薬を自己判断で減らしたり中止したりしない。

先に確認する救急の兆候

突然、顔の片側がゆがむ、片腕に力が入らない、ろれつが回らない、言葉が出ない、経験したことのない激しい頭痛が起きた場合は119番を急ぐ。国立循環器病研究センターは、片側の顔や手足の麻痺、言葉の障害、突然の視覚異常や激しい頭痛を脳卒中の典型症状として挙げ、可能な限り早い救急搬送を求めている

胸の中央部に締めつけられるような痛みや圧迫感が起こり、冷汗、吐き気、息苦しさを伴う場合も緊急対応が要る。同センターは、冷汗を伴う強い胸痛や圧迫感、15分以上続く症状、軽減と増悪を繰り返しながら悪化する症状を危険な状態として挙げている。食品やサプリメントを試して様子を見る場面ではない。

1 納豆と納豆キナーゼ製品は同じではない

糸引き納豆には、たんぱく質、食物繊維、ビタミンKなど複数の成分が含まれる。文部科学省の食品成分データベースでは、糸引き納豆100g当たりのビタミンKを600μg、たんぱく質を16.5g、食物繊維を9.5gとしている。一方、臨床試験のカプセルは納豆キナーゼの酵素活性をFUという単位でそろえた製品だ。

食品ごとの納豆キナーゼ量はこの成分表に載っておらず、市販品の発酵条件や保存状態も一様ではない。カプセルで得られた数値から、「納豆1パックなら同じ効果」とは計算できない。納豆に含まれるビタミンKの情報と、納豆キナーゼ製品の血圧試験も別の論点である。

納豆キナーゼと血圧に関する仮説上の経路を示す模式図

2 小規模試験では血圧低下、別試験では差なし

2008年の無作為化二重盲検比較試験は、未治療で収縮期血圧が130〜159mmHgの20〜80歳86人を登録し、納豆キナーゼ2,000FUまたはプラセボを8週間投与した。73人が試験を完了し、対照群との差は収縮期血圧でマイナス5.55mmHg、拡張期血圧でマイナス2.84mmHgだった。

ただし、1試験の結果だけでは再現性や長期的な利益は決まらない。2021年に公表された無作為化比較試験では、健康な男女265人が納豆キナーゼ2,000FUまたはプラセボを3年間摂取したが、血圧を含む検査項目に有意な効果は認められなかった。対象者の血圧や試験期間が違うため単純な優劣はつけられないが、結果が一貫していないことは分かる。

3 統合解析の平均差は小さく、発症予防は未確認

2023年の系統的レビューは無作為化比較試験6件、計546人をまとめ、プラセボ群に比べて収縮期血圧が平均3.45mmHg、拡張期血圧が2.32mmHg低いという結果を報告した。著者らは脂質への効果が用量で一貫しないことや、適切な摂取量を決める追加研究が要ることも記している。

この解析が扱ったのは主に血圧や血液検査値で、心筋梗塞、脳卒中、死亡を減らすかを確定した試験ではない。小幅な平均差が出たことを、特定の人の血圧が必ず下がるという予測に変えてはならない。試験で使った納豆キナーゼ製品と、食卓の納豆の効果は同一ではない。

2008年試験と2023年統合解析で報告された血圧差の比較図

4 ワルファリン服用中は納豆を避ける

納豆のビタミンKは、血液を固まりにくくする薬ワルファリンの作用を弱める。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、ワルファリン服用中は納豆を控え、納豆の影響は数日続くため間隔を空けても食べないよう案内している。「少量ならよい」「服薬時刻とずらせばよい」と自己判断しない。

ほかの抗凝固薬や抗血小板薬はワルファリンと仕組みが異なるため、同じ説明を機械的に当てはめられない。ただし、納豆キナーゼ製品は血液凝固に関係する作用をうたう商品があり、処方薬との併用や手術前の中止時期は製品広告で決めず、薬の名称と製品表示を医師または薬剤師へ示して確認する。

小児・妊婦、持病や常用薬がある人

小児、妊娠・授乳中の人に、成人の小規模試験をそのまま当てはめない。出血しやすい病気、腎臓病、肝臓病がある人、降圧薬、抗凝固薬、抗血小板薬を使う人、手術や処置を予定する人は、納豆キナーゼ製品を使う前に医師または薬剤師へ確認する。普段から納豆を食べている場合も、食事内容を伝えたうえで個別に判断を受ける。

5 「1日1パック」「夕方がよい」は試験から導けない

2008年試験の2,000FUは試験用カプセルの条件であり、食品の重量へ換算する根拠にはならない。夕方に食べるとよいという説も、朝に心血管イベントが多いという一般論から、納豆の最適な摂取時刻まで確定するものではない。手術前2週間という一律の中止期間も、薬、製品、処置の種類を問わず適用する公的指針は確認できていない。

消費者庁は、錠剤やカプセル状の健康食品を医薬品のような効果を期待して利用せず、医薬品との併用を自己判断しないよう注意を促している。血圧を下げる目的で製品を選ぶ前に、家庭血圧の記録と現在の治療を医療機関で確認するほうが先になる。

よくある質問

納豆を毎日食べれば降圧薬をやめられるか
やめられない。食品の納豆を使った降圧試験ではなく、納豆キナーゼ製品の小規模試験が中心で、結果も一致していない。薬の変更は家庭血圧、持病、副作用を基に医師が判断する。

血圧が正常なら納豆キナーゼ製品を予防目的で使うべきか
心筋梗塞や脳卒中を防ぐ利益は確定していない。2021年の3年間試験では血圧や検査値に有意な効果がなかった。薬との併用や製品品質も確認が要る。

ワルファリン以外の血液を固まりにくくする薬なら納豆を食べられるか
薬ごとに作用機序が違うため、ワルファリンの禁忌を一律に広げず、反対に安全とも決めない。薬の一般名と商品名を医師または薬剤師へ示して確認する。

納豆と納豆キナーゼのサプリメントは同じか
同じではない。納豆は複数の栄養成分を含む食品で、臨床試験用の製品は納豆キナーゼ活性をFUでそろえている。試験用カプセルの数値を納豆1パックへ換算できない。