「ニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide mononucleotide、NMN)」「幹細胞」「エクソソーム(exosome)」「ペプチド(peptide)」は、研究対象や物質の種類を示す言葉であって、商品ごとの抗老化効果を示す評価結果ではない。日本でサプリメントの表示を読む際は、成分名の新しさより、販売区分、経口摂取した人での根拠、実際の含有量を分けて確かめる必要がある。
消費者庁の「健康食品Q&A」は、特定成分の研究結果が製品の効果を保証するわけではなく、動物実験、培養細胞への作用、注射や点滴で得た結果を、口から摂る製品へそのまま移せないと説明している。抗老化を連想させるバイオ用語も、この原則から外れない。
摂取後の異変──急な呼吸困難や意識障害は119番
サプリメントの摂取後に急な息切れや呼吸困難、呼びかけに反応しない状態、けいれん、持続する激しい腹痛が出た場合は、摂取を中止して119番へ連絡する。 厚生労働省は、急な呼吸困難、意識の障害、けいれん、持続する激しい腹痛を、すぐに救急車を呼ぶ症状として挙げている。軽い発疹、かゆみ、下痢、だるさでも使用を続けず、製品名と摂取時刻を控えて医師か薬剤師へ相談する。
日本の表示制度──「サプリメント」は効能の区分ではない
日本で機能を表示する食品には、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の三つがある。消費者庁によると、特定保健用食品は国の個別許可、栄養機能食品は定められた栄養成分と表示の基準、機能性表示食品は事業者責任による届出という違いがある。機能性表示食品も医薬品ではなく、疾病の治療や予防を目的に摂取する食品ではない。
「サプリメント」「健康補助食品」という名称だけでは、国が製品の機能を認めたことにならない。厚生労働省の医薬品該当性の基準は、「老化防止」「回春」「若返り」を食品がうたえば医薬品的な効能効果に当たりうる例として挙げている。研究用語を並べた包装と、制度上認められた表示の範囲は別に読む必要がある。
NAD+とNMN──原材料区分は若返りの承認にあらず
医薬基盤・健康・栄養研究所の素材情報によると、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide adenine dinucleotide、NAD+)はエネルギー産生に関わる物質で、NMNはその生成経路に位置する中間代謝物である。研究で扱われる代謝経路が実在することと、市販品が人の老化を遅らせることは同じ主張ではない。
厚生労働省は2020年、NMNを「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質」の例示リストへ収載した。これは販売時の医薬品該当性を整理したものだ。同省は、この非医薬品リストを食品としての安全性が評価された原材料一覧と受け取らないよう明記している。若返り、寿命延長、疾病予防の有効性を認めた制度ではない。
幹細胞とエクソソーム──医療研究を食品へ移さない
エクソソームは細胞から分泌される細胞外小胞の一部を指し、幹細胞培養上清には細胞が分泌した物質が含まれうる。だが「幹細胞由来」「エクソソーム配合」という言葉だけでは、原料の由来、精製方法、含有量、品質、投与経路を特定できない。
厚生労働省は2024年7月31日、幹細胞培養上清液やエクソソーム等を用いる医療について、当時は有効性・安全性が示され、薬事承認を得て製造販売されている医薬品が海外を含め存在しないと通知した。日本再生医療学会も同年12月、アンチエイジングを掲げるiPS細胞由来エクソソーム治療の臨床的根拠は確立していないと注意を促した。
二つの資料が扱うのは医療として投与する場合であり、食品原料の可否を決めた文書ではない。注射や点滴の研究があっても、経口製品は消化、吸収、体内分布を別に確かめる必要がある。本稿の執筆時点で、エクソソームを含むと称する食品を網羅し、原料の同一性、含有量、抗老化効果を評価した日本の公的資料は確認できていない。「日本で一律禁止」とも、「国が安全性を認めた」とも読めない状況だ。
ペプチド──消化された後の行き先まで確かめる
ペプチド(peptide)は複数のアミノ酸がつながった物質の総称で、由来や長さ、性質は一つではない。成分名がペプチドであることから、皮膚、関節、筋肉など特定の部位への効果は導けない。
医薬基盤・健康・栄養研究所はコラーゲンについて、摂取後にアミノ酸や短いペプチドへ分解されて吸収される一方、それらが皮膚や関節で再びコラーゲンになるかは定かでないと説明している。この資料が扱うのはコラーゲン由来成分だ。別の由来や配列のペプチドへ結論を広げず、製品と同じ原料、同じ摂取経路、同じ目的を調べた人体試験を確認する必要がある。
高齢者、子ども、妊娠・授乳中、持病・常用薬がある人
食品安全委員会は、健康食品の多くが健康な成人を対象としており、高齢者、子ども、妊婦、病気の人では同じ量でも影響を受けやすく、安全性が調べられていない場合があると注意を促している。授乳中の人も成人一般の情報をそのまま当てはめず、使用前に医師か薬剤師へ確認する。
持病や常用薬がある人は、商品名、全成分、含有量を医師か薬剤師へ示す。消費者庁は、錠剤・カプセル製品を複数重ねることや、医薬品と自己判断で併用することを避け、不調時は医師・薬剤師へ相談するよう案内している。サプリメントを理由に処方薬を減らしたり、診療を中断したりしない。
広告から根拠へたどる五つの確認
第一に、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、その他の食品のどれかを見る。第二に、広告の大きな言葉ではなく、原材料名、機能性関与成分、1日当たりの含有量、注意事項を読む。第三に、示された研究が細胞、動物、人のどれを対象とし、経口摂取で商品と同じ原料を使ったかを確かめる。
第四に、研究が測った項目を見る。血中濃度や細胞の反応は、しわ、筋力、病気の発症、寿命と同じ結果ではない。第五に、製造者、問い合わせ先、資金源、利益相反を確認する。消費者庁は、キャッチコピーや体験談だけを信用せず、成分の安全性と有効性、個別の含有量、製造者と問い合わせ先を確かめるよう求めている。価格の高さやバイオ用語の新しさは、人体での効果を示す根拠にならない。
よくある質問
NMNは日本で食品に使えるのか
医薬品的な効能効果をうたわない限り医薬品と判断しない原材料の例示リストに入っている。ただし、食品としての安全性や若返り効果を国が認めたという意味ではない。製品ごとの表示区分と届出内容を別に確認する必要がある。
エクソソームの医療研究は、飲むサプリの根拠になるのか
そのままでは根拠にならない。医療での投与と経口摂取では、製剤、経路、消化、吸収が異なる。食品と同じ原料を口から摂った人体試験で、広告と同じ評価項目を調べたかが必要だ。
「幹細胞由来」とあれば幹細胞そのものが入っているのか
その表示だけでは判断できない。細胞、培養上清、抽出物など何を指すか、由来、製法、含有量を原材料表示と事業者資料で確かめる。確認できない場合は、根拠との照合もできない。
動物実験で抗老化作用が出ていれば十分か
十分ではない。動物と人では代謝が異なり、培養細胞へ直接加える条件も経口摂取と違う。人を対象に、商品と対応する原料、摂取経路、評価項目で調べた結果が要る。
機能性表示食品なら国が効果を審査したのか
機能性表示食品は事業者の責任で根拠を届け出る制度で、国が個別製品を審査する特定保健用食品とは異なる。パッケージの届出表示を読み、広告がその範囲を広げていないか確認する。
出典・参考資料
- 健康食品(一般の方向け)(消費者庁)広告、含有量、複数製品、医薬品との併用、体調不良時の相談に関する消費者向けの確認点
- 保健機能食品について(消費者庁)特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品の違いと表示の読み方
- 健康食品Q&A(消費者庁)成分と製品、動物と人、培養細胞と経口摂取、注射・点滴と経口摂取を分けて評価する考え方
- 食薬区分における成分本質(原材料)の取扱いの例示(厚生労働省)NMNを医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない原材料の例示リストへ収載した通知
- ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)NAD+とNMNの関係、およびNMNの食薬区分を整理した素材情報
- 医薬品の範囲に関する基準の一部改正について(厚生労働省)非医薬品の例示リストが食品としての安全性を評価した一覧ではないことと、若返り等の効能表現の扱い
- 幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)(厚生労働省)2024年7月31日時点の薬事承認状況と、エクソソーム等を用いる医療の安全性への注意
- iPS細胞由来エクソソームの臨床応用について(注意喚起)(日本再生医療学会)アンチエイジングを含むiPS細胞由来エクソソーム治療の臨床的根拠が確立していないとの注意喚起
- コラーゲン(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)コラーゲンの消化・吸収と、皮膚や関節への効果を分けた一般向け解説
- いわゆる「健康食品」に関するメッセージ(食品安全委員会)高齢者、子ども、妊婦、病気の人へ健康な成人向け情報を当てはめる際の注意
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)急な呼吸困難、意識障害、けいれんなど救急要請を急ぐ症状