世界母乳育児週間(World Breastfeeding Week)は、毎年8月1日から7日まで続く国際的な啓発週間だ。母乳育児の継続は出産施設、地域、家庭、職場の支援に左右されるため、単日の広報よりも支援のつながりが問われる。
2026年は、その支援が実際に届き、結果につながったかを測る年に位置づけられた。日本では2025年に10年ぶりの乳幼児栄養調査が実施されたが、結果はまだ公表されていない。制度の有無を数える段階から、利用状況と効果を確かめる段階へ移れるかが焦点だ。
2026年の主題──実証された支援を広げる
世界保健機関(WHO)は2026年のテーマを「Breastfeeding for a sustainable start in life: strengthen what works」とし、進捗の追跡、効果の評価、成果が確認された取り組みの拡大を求めている。対象は政府や保健医療機関に限らず、職場、地域団体、家族まで含む。
WHOが挙げるのは、専門職による乳幼児栄養の相談、赤ちゃんにやさしい病院運動(Baby-Friendly Hospital Initiative)、母乳代替品のマーケティング規制、有給の出産休暇、職場での授乳支援などだ。2026年の主題は新しい手法の提案ではなく、効果が示された支援への投資と実施規模を点検することにある。
目標値も更新されている。WHOと国連児童基金(UNICEF)の政策概要によると、2025年の世界保健総会は、生後6か月未満の完全母乳率を2030年までに少なくとも60%へ引き上げる目標を採択した。従来の「2025年までに50%」を延長したのではなく、期限と水準の双方を改めた目標である。
日本の現在地──最新の全国結果は公表前
日本で公表済みの全国調査は2015年の乳幼児栄養調査までさかのぼる。厚生労働省の結果では、母乳のみで育てていた割合は生後1か月で51.3%、3か月で54.7%だった。混合栄養を含めて母乳を与えていた割合は、それぞれ96.5%と89.8%だった。
この51.3%や54.7%をWHOの60%目標と直接比べることは適切ではない。日本の数字は生後1か月と3か月という特定時点の回答で、WHOの指標は0〜5か月の乳児を対象にした完全母乳率だからだ。調査年も10年以上離れており、日本が国際目標に達したかどうかを旧調査だけで判断できない。
こども家庭庁は2025年9月、6歳未満の子どもがいる約6000世帯を対象に乳幼児栄養調査を実施し、0歳以上2歳未満では授乳状況、父母の就労、育児休業、世帯の経済状況などを尋ねた。結果は2026年9月末までに公表する予定である。世界母乳育児週間の時点では結果が出ておらず、直近10年の変化はまだ評価できない。
職場での支援は、利用できる時間に加え、プライバシーを保てる場所や運用の確認も課題になる(イメージ)。
医療と地域──母乳だけを成果にしない支援
支援の成果を母乳率だけで評価すると、本人の意思や母子の状態が抜け落ちる。こども家庭庁の2019年版「授乳・離乳の支援ガイド」は、母乳だけにこだわらず必要に応じて育児用ミルクを使い、その選択を尊重するよう医療・保健の支援者に求めている。母乳を希望する人が無理なく取り組める環境と、別の方法を選んだ人が否定されない支援は両立する。
同ガイドは、妊娠期から子育て期までの継続支援、出産施設での個別対応、退院後の相談先、家族への情報提供を一つの流れとして示す。2026年の国際テーマに照らせば、資料を配った件数より、相談へつながった割合や、本人が望む授乳方法を続けられたかを追う必要がある。
職場──法律が確保する時間と残る設備の論点
日本には復職後の時間に関する規定がある。厚生労働省は労働基準法第67条に基づき、1歳未満の子を育てる女性が、休憩時間とは別に1日2回、各30分以上の育児時間を請求できると案内している。取得する時刻は当事者間の調整に委ねられる。
一方、第67条が直接定めるのは時間であり、搾乳場所、冷蔵設備、利用時のプライバシーまでを一体の基準として示す条文ではない。育児時間の請求件数や、こうした設備の整備状況を全国で継続的に示す公的統計も、本稿執筆時点で確認できていない。制度があることと、現場で使いやすいことを分けて測る必要がある。
2025年10月からは、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者に対し、始業時刻の変更、テレワーク、休暇、短時間勤務など5種類から二つ以上の措置を事業主が用意する制度も始まった。ただし主な対象年齢は乳児期より後であり、1歳未満の育児時間や産後の復職支援とは役割が異なる。
「強化する」前に必要な三つの確認
日本で優先したいのは、第一に2025年調査から完全母乳、混合栄養、育児用ミルクの実態を同じ定義で読み直すことだ。第二に、出産施設、地域、職場の支援を受けた人と受けなかった人の差を確かめる。第三に、母乳率だけを成功指標にせず、本人の選択、相談へのアクセス、復職後の利用しやすさを評価に加える。
家族の支援も、母乳量を監督する形では逆効果になりうる。授乳を母親だけの仕事にせず、家事や育児を分けながら、本人の希望と母子の状態に応じて専門職へつなぐ視点が要る。国際週間を一時的な啓発で終わらせず、制度、現場、結果を結ぶ検証が求められる。
よくある質問
2026年の世界母乳育児週間はいつか
8月1日から7日までである。テーマは「Breastfeeding for a sustainable start in life: strengthen what works」で、進捗の追跡、効果の評価、実証された支援の拡大を掲げる。
WHOの完全母乳率の目標は50%か
50%は2025年までの目標だった。2025年の世界保健総会で、2030年までに少なくとも60%へ引き上げる新しい目標が採択された。
日本の最新の母乳率は分かっているか
2025年に全国調査が実施されたが、結果は本稿執筆時点で公表されていない。公表済みの2015年調査は生後1か月と3か月の割合を示しており、WHOの0〜5か月指標との単純比較には使えない。
出典・参考資料
- World Breastfeeding Week 2026(世界保健機関(WHO))2026年のテーマ、期間、実証された支援策の例を示す公式ページ
- Global nutrition targets 2030: breastfeeding brief(世界保健機関(WHO)・国連児童基金(UNICEF))2030年の完全母乳率60%目標と2024年の世界推計を示す政策概要
- 令和7年乳幼児栄養調査(こども家庭庁)2025年調査の対象、調査項目、実施時期、公表予定を掲載する公式ページ
- 平成27年度乳幼児栄養調査 結果の概要(厚生労働省)2015年調査の生後1か月・3か月の栄養方法と就業状況別の集計
- 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)(こども家庭庁)母乳に限定せず、母子の状態と本人の選択を尊重する授乳支援の公的指針
- 育児時間(厚生労働省)労働基準法第67条に基づく育児時間の対象と時間を説明する公式ページ
- 柔軟な働き方を実現するための措置(厚生労働省)2025年10月施行の柔軟な働き方に関する措置と対象年齢を説明する公式ページ