腹痛の受診先は、痛む位置だけでは決まらない。発症が突然か、強くなっているか、出血や嘔吐があるかを先に分け、救急徴候がなければ内科・消化器内科を通常受診の起点とする。排尿症状が中心なら泌尿器科、月経や性器出血、妊娠に関係する症状なら産婦人科が候補になる。

日本消化器病学会は、腹痛の原因を絞る問診では、痛む場所と種類、急か徐々にかという発症の仕方、持続時間、食事・運動・飲酒・月経での変化、伴う症状を確認すると説明している。腹部には消化器のほか、腎臓、膀胱、子宮、卵巣、血管、筋肉、腹膜があり、上腹部痛が心臓や肺の病気に由来する場合もある。部位図は診断表ではない。

診察室の机に置かれた腹部模型と問診票(イメージ)

突然・持続する激痛、吐血・血便・黒い便は119番

厚生労働省は、成人の突然の激しい腹痛、激しい腹痛の持続、吐血、血便または真っ黒い便を、迷わず救急車を呼ぶ症状に挙げている。腹痛に急な息切れ・呼吸困難、支えなしでは立てないほどの急なふらつき、明らかに悪い顔色が重なる場合も119番を優先する。診療科を探して外来予約を待つ段階ではない。

明らかな119番の兆候はないが、救急車を呼ぶか、今すぐ受診するか迷う場合は、地域の救急安心センター事業♯7119が相談先になる。総務省消防庁によると、♯7119では医師、看護師、救急救命士が緊急性を判断し、受診先を案内し、必要なら119番への転送やかけ直しを求めるが、実施地域と受付時間は全国一律ではない。上記の119番の兆候があれば、♯7119への相談を待たない。

病院の救急入口と赤い警告灯(イメージ)

救急徴候がなければ内科・消化器内科を受診の起点に

東京都保健医療局の診療科案内は、腹痛に内科・消化器内科・産婦人科、排尿困難・血尿・排尿時痛に泌尿器科、妊娠中の腹痛・張り・出血に産科・婦人科を挙げ、受診科が分からない場合は総合診療科としている。救急徴候がなく、排尿や性器出血など特定の症状が前面に出ていなければ、内科・消化器内科またはかかりつけ医から診察を始める。

  • 上腹部・みぞおちの痛み:内科・消化器内科が候補になる。胸痛、呼吸困難、冷汗が重なる場合は、胃の症状と決めず救急判断を優先する。
  • 右下腹部で強くなる痛み:虫垂炎など緊急評価を要する原因が含まれる。当日の診察先へ連絡し、突然の激痛または激痛の持続なら119番を選ぶ。
  • 下腹部痛と排尿症状:頻尿、排尿時痛、血尿が中心なら泌尿器科が候補になる。高熱、強いだるさ、背部痛が加われば速やかに受診する。
  • 下腹部痛と月経・性器出血:月経周期との関連、不正な性器出血、妊娠中の症状が中心なら産婦人科へ連絡する。
  • 場所が定まらない痛み:総合診療科、内科、かかりつけ医が入口になる。診察後、必要な専門科へつなぐ。

この案内は東京都が公表した目安であり、全国一律の振り分けではない。医療機関によって診療科名、受付時間、腹痛への対応範囲が異なる。厚生労働省の「医療情報ネット(ナビイ)」では、現在診療中か、診療科目、診療時間、対応可能な疾患・治療内容などから全国の医療機関を検索できる。向かう前に腹痛を受け付けるか電話で確かめる。

腹部を上腹部、右下腹部、下腹部に分け、内科・消化器内科、泌尿器科、産婦人科への受診目安を示す図

右下腹部痛──虫垂炎は典型像が出ない場合も

右下腹部痛が続いて強くなる場合は、発熱や嘔吐がそろうまで待たない。米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)は、虫垂炎の腹痛がへそ周囲から右下へ移り、動作、深呼吸、せき、くしゃみで悪化し、数時間で強くなる場合がある一方、特に小児では典型症状を欠く例があると説明している。同資料は虫垂炎を直ちに処置が必要な救急疾患としており、疑う症状があれば医師の診察または救急外来を急ぐよう求めている。

痛みが右下にあるという一点では虫垂炎と確定しない。日本消化器病学会の資料も、右下腹部痛の候補に虫垂炎と大腸憩室炎を挙げ、下腹部痛では消化器疾患に加えて婦人科・泌尿器疾患を考えるとしている。診察では発症時刻と痛みの移動を伝え、医師が腹部診察や必要な検査から原因を絞る。

排尿時痛・血尿は泌尿器科、性器出血は産婦人科

下腹部痛に頻尿、排尿時痛、血尿が重なる場合は、泌尿器科へ連絡する。日本泌尿器科学会は、頻尿、血尿、排尿時痛を急性膀胱炎でみられる症状として挙げ、高熱、全身のだるさ、背部痛を伴う場合は重症化するおそれがあるため速やかな受診が必要だと説明している。症状だけで感染症、結石、ほかの泌尿器疾患を区別しない。

月経と異なる性器出血、出血を伴う下腹部痛、月経に合わせて繰り返す強い痛みは産婦人科の対象になる。日本産科婦人科学会は、不正な性器出血には妊娠に関連する流産・異所性妊娠、炎症、良性・悪性腫瘍など複数の原因があり、繰り返す場合は産婦人科を受診するよう案内している。出血が腟、尿道、肛門のどこからか本人には分からない場合もあるため、色、量、始まった時刻を伝える。

病院の外来廊下と複数の診療科を示す案内表示(イメージ)

診察前は開始時刻、移動、食事・排泄との関係を記録

受診前の記録は病名を推測するためではなく、経過を医療者へ正確に渡すために使う。日本消化器病学会の腹痛資料が挙げる問診項目に沿い、次を分かる範囲で時系列にする。

  • 開始と経過:始まった日時、突然か徐々にか、痛みが続くか波があるか、強くなっているか。
  • 場所と移動:最初と現在の位置、背中・脇腹・鼠径部など別の場所へ広がったか。
  • 変化する条件:食事、運動、体勢、せき、排便、排尿、月経で強まるか軽くなるか。
  • 伴う症状:発熱、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹部の張り、血便・黒い便、尿や性器からの出血。
  • 背景:妊娠の可能性、持病、腹部の手術歴、処方薬・市販薬、直前の外傷。

119番を呼んだ場合は、住所と年齢、普段どおり呼吸・会話ができるか、冷汗や顔色、詳しい症状を指令員へ伝える。厚生労働省は、救急車を待つ間に保険証、診察券、普段の薬またはお薬手帳を準備するよう案内している。記録を完成させるために救急要請を遅らせない。

腹痛の開始時刻と随伴症状を記録したノートと聴診器(イメージ)

小児、妊婦、高齢者、持病・常用薬がある人

小児。 成人向けの診療科分けを当てはめず、小児科または小児救急へ相談する。厚生労働省は、激しい腹痛で苦しがる、水分が取れず意識がはっきりしない、嘔吐が止まらない、血便が出た場合を119番の目安に挙げている。明らかな救急徴候がなく、休日・夜間に受診の要否を迷う時は、全国共通の子ども医療電話相談♯8000から、小児科医師・看護師へ対処と受診先を相談できる

妊婦・妊娠の可能性がある人。 妊娠中の下腹部痛や性器出血は、通常の腹痛として内科だけで分けず、健診先または産婦人科へ連絡する。日本産科婦人科学会は、妊娠初期に月経のような量の出血または強い腹痛があれば、夜間や休日でも産婦人科へ連絡するよう案内している。突然または持続する激痛、呼吸・意識の異常など119番の兆候があれば、産婦人科からの返答を待たない。

高齢者。 厚生労働省は高齢者の119番目安を別立てし、突然の激しい腹痛と吐血を挙げている。本人が痛みの場所や強さを説明しにくい場合は、家族や介護者が発症時刻、食事、排便・排尿、会話や歩行の変化を伝える。説明が整うまで受診を遅らせない。

持病・常用薬がある人。 病名、腹部手術歴、薬名、最後に使った時刻を受診先へ伝え、お薬手帳を持参する。薬を変えた後に痛みが始まった場合も時間関係を記録する。担当医から個別の連絡基準を示されている場合は、その基準を優先する。

よくある質問

腹痛は最初から消化器内科でよいのか
119番の兆候がなく、排尿、月経、性器出血との強い関連もなければ、内科・消化器内科またはかかりつけ医が起点になる。受診科が分からなければ総合診療科や地域の♯7119へ相談し、夜間・休日はナビイで診療中の医療機関を確認する。

右下腹部痛なら虫垂炎なのか
右下腹部痛は虫垂炎でみられるが、その一点では診断できない。へそ周囲から痛みが移る、数時間で強まる、動作やせきで悪化する場合は早急に診察を受け、突然または持続する激痛なら119番を優先する。

黒い便が出た時は内科を予約すればよいのか
厚生労働省は真っ黒い便を119番の目安に挙げている。腹痛と黒い便、血便、吐血があれば通常外来の予約を待たず、救急車を要請する。