オーストラリア・ビクトリア州の週2日在宅勤務法案は、成立まであと一院を残している。州の法令公式ページによると、「Equal Opportunity Amendment (Work from Home) Bill 2026」は2026年7月30日に州議会下院を修正なしで通過し、同日、上院で二読審議に入った。法案は9月1日施行を掲げるが、8月9日時点では成立済みの法律ではない。
法案がつくるのは、誰もが自動的に週2日在宅勤務できる制度ではない。職務や事業への影響を踏まえ、在宅勤務が「合理的」と判断される範囲で権利を認める。従業員が希望を文書で通知し、雇用主が理由を付けて応答する手続を州の「Equal Opportunity Act 2010」に組み込む設計だ。
週2日の対象──38時間未満は比例配分
法案本文の102J条は、週38時間以上働く対象従業員について週2日、38時間未満なら勤務時間に応じて比例配分した期間を上限とし、合理的な場合に在宅勤務する権利を定める。フルタイム、パートタイムという雇用区分だけで決まる仕組みではなく、定期的かつ継続的に働くカジュアル従業員も対象になりうる。
一方、試用期間中の従業員、見習い、研修生、インターン、卒業者向け研修や職場体験の参加者、不定期のカジュアル従業員などは対象外だ。豪州連邦の「Fair Work Act 2009」に基づく柔軟な働き方の申請権を持ち、その事情を理由として勤務変更を求める人も、この州法案ではなく連邦制度を使う整理となっている。
雇用主の回答期限は21日
対象従業員は、在宅勤務を予定する曜日と時間を書いた通知を雇用主へ提出する。日程を事前に決めるのが現実的でない場合、その記載は要らない。雇用主は通知を受けてから21日以内に、希望どおりの在宅勤務が合理的かを書面で回答する。
希望した曜日や時間が合理的でなくても、同じ長さを別の時間帯で認められるなら、雇用主はその代替日程を示す。それも難しい場合は、合理的な範囲で短い在宅勤務時間を認める。全面的に拒む場合を含め、希望どおり認めない理由の説明が要る。
合理性の判断材料は法案に列挙されている。出勤しなければ果たせない職務、職場の設備、対面での顧客対応、生産性や効率の大幅な低下、安全への影響、監督・研修・人材育成、顧客との関係、情報の機密性、過大な費用、勤務体制の変更や新規採用の現実性などだ。単に経営側が出社を好むという事情だけで決まる構造ではない。
費用負担と紛争処理も法案の対象
下院を通過した法案の102N条は、在宅勤務に必要な合理的費用を雇用主が負担すると規定する。例として、ハードウエアやソフトウエアなどの必須機器、社内情報システムへ安全に接続するための費用を挙げる。この条項を含め、上院で法案が修正されれば最終的な義務は変わる。
州政府の制度説明では、当事者間で解決しない紛争はビクトリア州平等機会・人権委員会(Victorian Equal Opportunity and Human Rights Commission、VEOHRC)が調停し、まとまらなければビクトリア州民事行政審判所(Victorian Civil and Administrative Tribunal、VCAT)が審理する。法案本文も、在宅勤務を認める命令や、雇用主に規定の順守を求める命令をVCATが出せるよう関連条文を改める。
従業員15人未満の雇用主には経過措置がある。法案全体の施行予定日は2026年9月1日だが、小規模事業者とその従業員への適用は2027年7月1日からとなる。人数の計算には関連企業の従業員を含め、カジュアル従業員は定期的かつ継続的に雇われている場合に数える。
連邦制度との違い
オーストラリアには、連邦法に基づく柔軟な働き方の申請制度がすでにある。Fair Work Ombudsmanの公式案内では、同じ雇用主の下で12か月以上働き、就学年齢以下の子を養育する人、介護者、障害のある人、55歳以上の人、妊娠中の人、家庭内暴力の影響を受ける人などが申請できる。勤務地の変更には在宅勤務も含まれ、雇用主の回答期限は21日である。
ビクトリア州法案は、こうした特定の事情を申請資格の入り口にせず、対象従業員へ広く週2日までの権利を設ける点が違う。ただし、州法案でも職務上の合理性が条件となり、試用期間や研修期間などの除外がある。既存の連邦法上の権利を置き換えるものでもない。
事業者側は規制負担を問題視
争点は在宅勤務そのものの是非より、どこまでを法的な権利とし、拒否の理由や設備費を誰が負うかに移っている。下院では修正されなかったが、上院の採決日と最終条文は8月9日時点で確定していない。9月1日の施行予定は、法案が成立することを前提に読む必要がある。
日本では労使のルール整備が軸
日本で週2日の在宅勤務を労働者一般の法的権利とする公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。厚生労働省のテレワーク総合ポータルは、在宅勤務を円滑に実施するため、労使で協議したルールを就業規則に定めて周知することが望ましいと説明する。勤務場所、労働時間制度、賃金、費用負担などは労働契約や就業規則との整合が要る。
このため、ビクトリア州法案の「週2日」や「21日以内の回答」を日本の会社と従業員の関係へそのまま持ち込むことはできない。日本国内では、まず労働契約、就業規則、労働協約や社内制度に何が定められているかが判断の出発点となる。
よくある質問
ビクトリア州では9月1日から必ず週2日在宅勤務できるのか
まだ決まっていない。法案は下院を通過したが上院の審議中で、成立が施行の前提となる。成立しても、在宅勤務が職務と事業の事情に照らして合理的であることが条件だ。
雇用主は在宅勤務を拒否できるのか
拒否の余地はある。ただし、職務の本質的要件、生産性、安全、顧客対応、情報保護、過大な費用など、法案が定める事情から合理性を判断し、21日以内に理由を書面で示す必要がある。別の曜日や短い時間なら合理的な場合は、その代替案を認める。
従業員15人未満の会社にも適用されるのか
適用対象だが開始時期が異なる。法案どおり成立した場合、従業員15人未満の雇用主には2027年7月1日から適用される。
出典・参考資料
- Equal Opportunity Amendment (Work from Home) Bill 2026(Victorian Legislation)下院での可決日、上院での審議段階、下院では修正されなかったことを確認した州法令公式ページ
- Equal Opportunity Amendment (Work from Home) Bill 2026 — Introduction Print(Parliament of Victoria)対象者、週2日または比例配分、合理性の判断要素、21日以内の回答、費用負担、施行日と小規模事業者への経過措置を確認した法案本文
- Work From Home Protected In Law From 1 September(Premier of Victoria)州政府が示した施行予定日、小規模事業者への適用時期、VEOHRCとVCATによる紛争処理の説明
- Flexible working arrangements(Fair Work Ombudsman)豪州連邦法上の柔軟な働き方の申請資格、在宅勤務を含む申請例、21日以内の回答義務を確認した公式案内
- 「Simple change」or「overreach」: legislating for working from home(Parliamentary Library & Information Service, Parliament of Victoria)在宅勤務の法制化をめぐる労働側と事業者側の主張を整理した州議会図書館の調査報告
- テレワークのうち在宅勤務を導入する場合、労働契約や就業規則を見直す必要はありますか。(厚生労働省 テレワーク総合ポータルサイト)日本での在宅勤務ルールについて、労使で協議し就業規則に定めることが望ましいとする公式説明