ヘンリー王子ら7人がAssociated Newspapers Limited(ANL)を相手取った訴訟は、7月7日に原告側の全面敗訴となった。ANLは「デイリー・メール」「メール・オン・サンデー」などの発行元である。争いは7月29、30日の審理で訴訟費用へ移り、ANLは自社が負担した費用を3450万ポンドと報告した。ただし、この全額が7人の支払額として確定したわけではない。

46日間の審理、7人の主張を退ける

原告はヘンリー王子、ドリーン・ローレンス男爵夫人、エリザベス・ハーレイ氏、エルトン・ジョン氏、デービッド・ファーニッシュ氏、サイモン・ヒューズ氏、セイディ・フロスト氏の7人である。私立探偵の利用、身分を偽って情報を得る「ブラギング」、電話の盗聴、買収などによって私的情報が集められ、記事に使われたと主張していた。ANLは不正を否定した。

英国司法当局が公開した判決と要旨によると、審理は2026年1月19日から3月31日まで46日間にわたり、裁判所は57件の記事・事案を個別に検討したうえで、原告側が違法な情報収集を立証できなかったと判断した。ニクリン判事は、情報が私的で、ANLが入手経路を明確に説明できないという事情だけを根拠に、違法に得た情報だとは推認できないとした。

ロンドンにある王立裁判所のヴィクトリア・ゴシック様式の外観

中間支払い──1000万か800万か

判決後の費用審理では、最終的な査定を終える前に原告側が支払う中間金の規模が争われた。7月29日付の報道によると、ANLは約1000万ポンドを求め、原告側は800万ポンドを8月28日までに支払う案を示した。原告側は最大1600万ポンドの保険補償があるとも説明した

3450万ポンドはANLが報告した総費用で、裁判所による詳細な査定後の回収額とは異なる。保険がどの費目をどこまで補償するか、7人の間で負担をどう配分するかも公表資料からは判然としない。したがって、3450万ポンドから保険上限を差し引き、残額を7等分した数字を各原告の負担見込みとするのは適切ではない。

「標準基準」と「補償基準」の差

金額と並ぶ争点が費用査定の基準である。ANLは補償基準(indemnity basis)を求め、原告側は通常の標準基準(standard basis)を主張した。ANL側は、原告が裏付けを欠く広範で重大な主張を続けたとして、より厳しい扱いを求めた。原告側は、請求が退けられたことは受け入れる一方、補償基準を追加の制裁として課すべきではないと反論した。

イングランド・ウェールズ民事訴訟規則44.3は、標準基準では争点に釣り合う合理的な費用だけを認め、疑義を支払う側に有利に解決すると定める。補償基準では、費用が合理的だったかを巡る疑義を受け取る側に有利に扱う。どちらの基準でも、不合理に生じた費用や不合理な金額は認められない。

確定額は書面判断と詳細査定の後

費用審理を終えた時点でも、中間支払額と査定基準は確定していない。ニクリン判事の書面判断で中間金と基準が示され、その後の詳細査定を経て回収可能な総額が定まる。現段階で確定しているのは原告側が本案で敗れたことまでで、ANLが示した3450万ポンドをそのまま7人の債務とみなす段階にはない。

日本では訴訟費用と弁護士費用の扱いが英国と同じではない。本件の費用命令を日本の民事訴訟制度と対照して解説した日本の公的資料は、本稿執筆時点で確認できていない。英国民事訴訟規則上の二つの査定基準を、日本の訴訟へそのまま当てはめるべきではない。

よくある質問

7人は何を訴えていたのか
ANL側の記者や関係者が私立探偵、ブラギング、電話の盗聴などで私的情報を違法に集め、記事に利用したと主張していた。

裁判所はなぜ請求を退けたのか
個別の記事・事案について、違法な情報収集があったとの立証が足りないと判断した。情報が私的で入手経路が不明だという事情だけでは、違法な入手を推認できないとした。

原告側は3450万ポンドを支払うのか
確定していない。3450万ポンドはANLが報告した費用であり、中間支払額、査定基準、最終的に回収が認められる額は別に判断される。

保険があれば自己負担はなくなるのか
現時点では判断できない。原告側は最大1600万ポンドの補償を説明したが、対象範囲や7人への配分は公表資料から判然としない。