米国向けに輸出する日本企業に、新たな関税措置が加わった。ドナルド・トランプ米大統領の指示を受けた米国通商代表部(USTR)は、強制労働で生産された商品の輸入を十分に禁じていないとして、60カ国・地域を通商法301条の対象にした。
日本貿易振興機構(ジェトロ)は、対象となる60カ国・地域が2024年の米国輸入額の99.4%を占め、関税は米東部時間2026年7月24日午前0時1分から原則適用されたと報告している。直前まで続いた一律10%の暫定関税が期限を迎える時刻に、新措置が引き継ぐ形となった。
日本品──12.5%の「上乗せ」ではない
日本産品の税率は、既存の最恵国(MFN)税率との合計で決まる。MFN税率が12.5%未満の品目には、合計が12.5%になる分だけ301条関税を課す。MFN税率が12.5%以上なら、今回の301条関税はゼロとなる。日本からの全品目へ12.5%を一律に上乗せする制度ではない。
USTRの最終発表は、日本、韓国、スイスにはMFN税率との合計が12.5%となる方式を採り、インドを含む17カ国には10%、その他の調査対象には12.5%を適用するとしている。通商拡大法232条に基づく追加関税の対象品目、米国内で供給不足を招く恐れがある原材料、経済全体を混乱させる恐れがある製品などは除外された。輸出企業は品目ごとの米国関税分類と除外表を照合する必要がある。
IEEPA敗訴後、301条へ法的経路を変更
今回の措置に至る法的経路は、2026年2月の連邦最高裁判決で変わった。連邦最高裁は「Learning Resources, Inc. v. Trump」判決で、国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を与えていないと判断した。政権はその後、1974年通商法122条に基づく一律10%の暫定関税へ移ったが、議会の延長承認がなければ150日で終わるため、7月24日が期限だった。
後継の法的根拠となった301条は、外国政府の行為や政策、慣行が不合理または差別的で、米国の通商を阻害しているとUSTRが判断した場合に対抗措置を取る枠組みだ。USTRは2026年3月に60カ国・地域への調査を始め、意見募集、政府間協議、公聴会を経て、強制労働産品の輸入禁止または執行が不十分だと結論づけた。
インドは10%、ブラジルとチリは反発
国別の扱いは一様ではない。AP通信は米政府高官の説明として、インドが強制労働産品への輸入規制を強めた後、当初案の12.5%から10%へ引き下げられたと報じた。ただし、この説明は匿名の高官に基づく。USTRの公表文はインドを10%の対象国に挙げているが、引き下げ判断の個別過程までは示していない。
ブラジルとチリには12.5%が設定された。AP通信によると、ブラジル政府は措置を「恣意的で正当化できない」と批判し、相互主義法に基づく手続きと世界貿易機関(WTO)への提訴に言及した。チリ政府も、自国の労働制度や調査で提出した資料と整合しないとの見解を示した。
価格転嫁と次の301条調査
関税を納めるのは米国の輸入者であり、負担の一部が販売価格へ移る可能性がある。ただし、発動直後の段階で転嫁率や消費者物価への影響額を示す実績値はない。対象外品目があり、既存関税率も品目ごとに異なるため、10%または12.5%という表面上の税率だけでは最終価格を算定できない。
通商上の不確実性は今回の措置に限られない。USTRは2026年3月、日本、インド、中国、EUなど16カ国・地域を対象に、製造業の構造的な過剰生産を巡る別の301条調査も始めた。この調査は今回の強制労働を理由とする関税とは別手続きであり、追加措置の有無は確定していない。
日本政府による今回の強制労働関税への個別の公式見解や、日本企業への影響額を示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。ジェトロは制度の対象と税率を整理しているが、企業ごとの負担は輸出品の分類、既存税率、除外の該当性で変わる。
よくある質問
日本からの輸入品に12.5%が追加されるのか
一律の上乗せではない。MFN税率が12.5%未満なら今回の301条関税との合計を12.5%とし、MFN税率が12.5%以上なら301条関税はゼロとなる。対象外品目もある。
新関税はいつ始まったのか
米東部時間2026年7月24日午前0時1分以降に通関する貨物へ原則適用された。同時刻より前に船積みされ、7月28日午前0時1分までに通関する貨物には経過措置がある。
なぜ強制労働が関税の理由になったのか
USTRは、調査対象の国・地域が強制労働で生産された商品の輸入禁止を設けていないか、十分に執行しておらず、米国の通商を阻害していると判断した。各国は判断の妥当性を巡って異なる見解を示している。
日本への別の関税も決まるのか
決まっていない。製造業の構造的な過剰生産を巡る16カ国・地域への調査は進んでいるが、措置の有無や税率は公表されていない。
出典・参考資料
- 米USTR、強制労働産品の輸入禁止措置を巡り、日本含む60カ国・地域に301条関税賦課を最終決定(日本貿易振興機構(ジェトロ))対象国・地域、国別の税率設計、日本産品の扱い、適用開始時刻、対象外品目を整理している
- USTR Takes Action in Forced Labor Section 301 Investigations(Office of the United States Trade Representative)60カ国・地域への最終措置、税率区分、適用除外、調査手続きを示す公式発表
- Learning Resources, Inc. v. Trump(Supreme Court of the United States)国際緊急経済権限法は大統領に関税を課す権限を与えていないとした2026年2月20日の判決
- Trump imposes double-digit tariffs on countries before Friday deadline(Associated Press)インドの税率引き下げ、ブラジルとチリの反応、輸入者と消費者への価格波及の可能性を報じている
- USTR Initiates Section 301 Investigations Relating to Structural Excess Capacity and Production in Manufacturing Sectors(Office of the United States Trade Representative)日本を含む16カ国・地域への構造的な過剰生産を巡る別の301条調査を示す公式発表