インフルエンザワクチンは、流行株の見通しと接種後の免疫低下を踏まえ、毎季更新される予防接種だ。本稿は、日本で成人が受ける注射型の不活化ワクチンを中心に扱う。米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)は、接種で得た免疫が時間とともに弱まることと、変化を続けるウイルスに合わせてワクチンの組成を毎年見直すことを、年1回の接種が必要となる二つの理由に挙げている

日本では、全員が同じ公費制度で受けるわけではない。厚生労働省は、65歳以上と、心臓・腎臓・呼吸器またはヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)による免疫機能に所定の障害がある60〜64歳を、毎年度秋冬1回の定期接種対象としている国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security、JIHS)は、定期接種に使うワクチンでも法定の対象年齢外で受ける場合は任意接種になると説明している。自治体や勤務先が独自に助成する場合もある。

診察室で袖を上げ、インフルエンザワクチンの接種を受ける人(イメージ)

接種後30分の呼吸困難や反応低下は119番

接種後に全身へ広がるじんましん、唇の腫れ、繰り返す嘔吐、ぜーぜーする呼吸、息苦しさ、顔色不良、呼びかけへの反応低下が急に現れた場合は、アナフィラキシー(Anaphylaxis)が疑われる。接種会場では直ちに職員へ伝える。帰宅後に呼吸症状や反応低下が出た場合は119番を要請する。医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、PMDA)の2026年改定マニュアルは、注射薬によるアナフィラキシーは多くが30分以内に現れ、息苦しさやショック症状が医療機関外で出た場合は救急車を呼ぶとしている

厚生労働省も、ショックや呼吸困難を含む症状が接種後の比較的早い時期に起こる場合があるため、接種後30分は医療機関内で安静にするよう案内している。接種部位の赤み、腫れ、痛みは10〜20%、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感は5〜10%にみられ、通常2〜3日で消えるとしているが、強まる症状や長引く異常は接種した医療機関へ伝える。

毎年受ける理由──免疫低下と株の更新

前年の接種が特定の日に一斉に無効になるわけではない。それでも、免疫による保護は時間とともに低下し、インフルエンザウイルスには抗原連続変異(Antigenic drift)が起こる。次の流行期に多いと予測される株へ組成を合わせるため、前季の接種歴だけで当季分を置き換えない。

厚生労働省のQ&Aは、そのシーズンに流行すると予測されるウイルスを用いて製造するため、前年に接種した人も当季の接種を検討するよう示している。さらに、厚生労働省は2026年6月4日、2026/27シーズンに国内で製造するインフルエンザHAワクチンを、A型のH1N1株とH3N2株、B型のビクトリア系統株の計3株に決定した。毎年の製造株決定は、前年と同じ株構成を固定して使う制度ではないことを示す。

接種後も発症する──効果ゼロとは限らない

厚生労働省は、現行ワクチンはウイルスの侵入と感染を完全には抑えず、麻疹・風疹ワクチンと同じ水準の高い発病予防効果も期待できない一方、発病、重症化、死亡を抑える一定の効果があると説明している。接種後にインフルエンザと診断されても、その一例だけでワクチン全体の有効性を判定することは適切ではない。

CDCは、接種から抗体ができるまでの約2週間に感染した場合、ワクチンに含まれない株へ曝露した場合、年齢や健康状態によって免疫反応が弱い場合には、接種後も発症しうるとしている。効果は流行株との一致度にも左右されるため、異なるシーズンや集団の百分率を個人の予測値として使わない。

卵アレルギー──一律の接種不可ではない

米CDCは2023/24シーズンから、卵アレルギーがある人も年齢と健康状態に合うインフルエンザワクチンを受けられ、卵アレルギーだけを理由とする追加の安全措置は要らないとの勧告に改めた。重いアレルギー反応へ対応できる人員と設備がある場所で接種する条件は、ほかの接種者と同じである。

日本での予診は、この米国勧告だけでは決めない。厚生労働省は、鶏卵、鶏肉、その他の鶏由来成分にアレルギーを起こすおそれがある人を、接種前に医師へ相談する対象に挙げている。卵アレルギーは自動的な接種不可を意味しないが、過去の症状と使う製剤を予診で伝える必要がある。

PMDAに掲載された2026年7月改訂の国内HAワクチン1製剤の電子添文も、鶏卵や鶏由来成分へのアレルギーを「接種要注意者」とし、製剤の成分でアナフィラキシーを起こした人を「接種不適当者」と区別している。卵を食べた際の症状と過去のワクチン反応を分けて申告し、実際に使う製剤の電子添文で確認する。

接種時期──全国一律の10月開始ではない

2026年6月改正の定期接種実施要領は、インフルエンザの流行前、通常は12月中旬頃までに定期接種対象者が接種できるよう、自治体へ計画を求めている。これは接種機会を確保する行政上の目安であり、2026/27シーズンの流行開始日を予測したものではない。前季の厚生労働省Q&Aも、日本では例年12月〜3月に流行する一方、2024年は本格的な流行が早まり12月にピークを迎えたと記録している。暦だけで流行開始日を固定できない。

接種後すぐに保護が整うわけでもない。CDCは接種から抗体形成まで約2週間を要すると説明している。自治体や医療機関の実施期間と地域の流行情報を照合する。厚生労働省も定期接種の実施期間と費用は自治体で異なるとしており、日本全国が同じ日に「公費接種を開始する」制度ではない

小児・妊娠中・持病のある人

小児には、高齢者向け定期接種の「秋冬1回」を当てはめない。JIHSは、注射型インフルエンザワクチンを対象年齢が限られる定期接種、経鼻型を任意接種として区分している。年齢、既往歴、製剤で接種条件が異なるため、保護者は当季の小児向け案内を小児科と自治体で確認する。

妊娠中は成人一般と分けて扱う。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の診療ガイドラインは、妊婦への不活化インフルエンザワクチンは予防に有効で、母体と胎児への危険性は妊娠全期間を通じて極めて低いと評価している。妊娠週数、当日の体調、過去の接種後反応を産科の予診で伝える。

厚生労働省は、心臓、腎臓、肝臓、血液、呼吸器の病気、けいれん歴、免疫不全がある人を接種前に医師へ相談する対象とし、明らかな発熱や重い急性疾患がある人はその時点で接種できないとしている。該当する人は、病状と治療内容を主治医か接種医へ伝え、回復後の時期を確認する。

よくある質問

前年に接種していれば、今年は不要か
前年の接種歴だけでは決まらない。免疫による保護は時間とともに弱まり、製造株も当季の予測に合わせて決まる。年齢、持病、前回の接種日、自治体の当季案内を照合する。

接種後にインフルエンザと診断されたら無効だったのか
一例だけでは判定できない。感染を完全に防ぐワクチンではなく、接種から約2週間の空白、流行株との不一致、年齢や健康状態による免疫反応の差がある。発病と重症化の危険を下げる効果を分けて考える。

卵アレルギーがあれば接種できないのか
卵アレルギーだけで一律に接種不可とはならない。日本では鶏卵や鶏由来成分へのアレルギーを接種前に医師へ伝え、過去の症状と使う製剤を確認する。ワクチン自体でアナフィラキシーを起こした経験は別に申告する。

10月になれば全国どこでも公費で受けられるのか
全国一律ではない。定期接種は65歳以上などが対象で、実施期間、指定医療機関、自己負担額は市区町村ごとに異なる。対象外の成人は任意接種が原則で、独自助成の有無を居住地で確認する。