歯の医療ホワイトニングは、エナメル質を一層削り取る処置ではない。過酸化水素や過酸化尿素から生じる成分が歯の内部に入り、色の原因となる分子を酸化して色調を明るくする。一方、「美白」を掲げる歯磨剤の中心的な役割は、コーヒーや茶、たばこなどによる表面の着色を研磨剤で落とすことだ。同じ白さを目指す方法でも、働く場所とリスクは異なる。
美白より先に歯科受診が必要な症状
刺激がなくても歯がズキズキ痛む、奥歯や歯肉の腫れに発熱・悪寒を伴う、口が開きにくい、唾を飲み込むと喉が痛む場合は、美白を始める段階ではない。日本歯科医師会は、自発痛では早急な歯科相談を求め、発熱、開口障害、嚥下痛を危険な兆候として挙げている。口や顔が大きく腫れ、呼吸、会話、嚥下が難しい場合は救急対応が必要で、英国の公的医療サービスNHSも、呼吸・会話・嚥下困難や口内の大きな腫れを直ちに救急部門へ向かう状態としている。
冷たい物でしみる、むし歯や歯周病が疑われる、歯肉や口腔粘膜に傷や炎症がある場合も、先に原因を調べる必要がある。日本歯科医師会は、表面の着色か歯自体の変色か、ホワイトニングで対処できるか、知覚過敏・むし歯・歯周病がないかを歯科で確認することが適切な処置につながると説明している。
小児、妊娠中・授乳中の人、持病やアレルギーがある人、常用薬がある人は、成人一般の方法をそのまま選ばず、希望する処置と健康状態を歯科医師に伝える必要がある。成長段階や口内の状態、使用する材料によって判断が変わるためだ。
漂白と表面の研磨は別の処置
歯の変色は、歯の外側に付く外因性着色と、エナメル質や象牙質の内部にある内因性変色に分けて考える。外因性着色にはコーヒー、茶、赤ワイン、たばこなどが関係し、歯磨剤や歯科でのクリーニングで軽減する場合がある。加齢、歯の形成期の影響、歯髄の変化などによる内因性変色は、表面を磨くだけでは変わりにくい。
米国歯科医師会(American Dental Association、ADA)は、過酸化尿素が過酸化水素を放出し、そこから生じる反応性酸素がエナメル質と象牙質の着色分子を酸化する仕組みを整理している。これは歯質を機械的に削る研磨とは異なる。ただし、適切な漂白を「削る処置ではない」と説明することと、歯や歯肉への影響が一切ないとみなすことは同じではない。
美白歯磨剤は主に研磨剤で表面着色を落とすため、歯本来の色や内部の変色を大きく変える用途には向かない。ADAは相対的象牙質研磨性(Relative Dentin Abrasivity、RDA)を研磨性の指標とし、RDA 250以下の歯磨剤を正しい方法で使う場合、象牙質の摩耗は限定的で、エナメル質の摩耗はほぼ生じないとの臨床的根拠を示している。ただし、250は米国の評価制度上の値で、日本製品の安全性を数字一つで判定する基準ではない。国内製品のRDA値を横断的に示す公的一覧も、本稿の執筆時点で確認できていない。
日本のホーム用漂白材も歯科診査が前提
歯科で行うオフィスホワイトニングと、歯科で作ったトレーを自宅で使うホームホワイトニングは、薬剤の扱いと時間が異なる。日本では、自宅で行う方式も市販品を自己判断で選ぶ枠組みではない。厚生労働省の啓発記事は、過酸化尿素や過酸化水素で漂白するホーム、オフィスの二方式はいずれも歯科医師の処方が必要だと説明している。
制度上の扱いも同じ方向を向く。厚生労働省は、トレーなどで過酸化物を歯面に塗る漂白材について、作用が緩和とはいえず、歯科医師による口腔内の診査・診断が必要な歯科材料として扱うよう通知している。ネット通販で成分や承認状況が確かでない漂白材を入手し、濃さや使用時間を自己判断で変える行為は、この前提から外れる。
エナメル質への影響より先に出やすい知覚過敏
漂白で最も多い副作用は、一時的な知覚過敏と歯肉刺激である。厚生労働省の啓発記事は、ホワイトニング中の知覚過敏症状が30〜50%に起こるとの報告を紹介する。ADAも、歯科処方のトレーや市販漂白製品で知覚過敏が生じ、薬剤濃度が高いほど起こりやすい一方、多くは軽度で一過性だと整理している。歯肉刺激は、漂白ジェルの接触や合わないトレー、保護材の不適切な使用と関係する。
ADAは、漂白中の灼熱感や不快感を歯科医師に伝え、薬剤が歯肉の保護材から漏れていないか確認する必要があると説明している。痛みが強い、使用をやめても続く、歯肉が白く変色したりただれたりする場合は、使用を中止して歯科へ連絡する。濃度を上げる、装着時間を延ばす、しみる歯へ市販薬を重ねるといった自己調整は避ける。処置後の反応が一時的か、むし歯や亀裂による痛みかは、症状だけでは区別しにくい。
被せ物や失活歯は同じように白くならない
漂白で色が変わるのは天然歯で、詰め物、被せ物、ラミネートベニア、インプラントの人工歯は同じ反応をしない。周囲の天然歯だけが明るくなれば色差が目立つ場合があるため、修復物の位置と色を開始前に確認する必要がある。
根管治療を受けて歯髄を失った歯の変色は、外側からの漂白ではなく、歯科医師が歯の内側から処置する選択肢が検討される。変色の原因がむし歯、古い修復物、歯髄の壊死にある場合、美白だけを先行させても原因は解決しない。
レモンや活性炭を代替にしない
レモンや酢を歯に長く触れさせ、重曹などでこする自己流は、漂白材とは別の危険を持つ。ADAの一般向け資料は、果物や酢の酸がエナメル質を摩耗させ、粗い材料でこすると表層が失われて黄色い象牙質が見えやすくなると注意を促している。一度失われた歯質を美白で戻すことはできない。
活性炭にも確かな優位性は示されていない。2023年の系統的レビューは、収載した11研究で活性炭歯磨剤の美白効果が他の方法より低く、多くの研究が高い研磨性を示したとまとめた。ただし、収載研究の多くは体外研究で、バイアスリスクは中等度から高かった。
方法を選ぶ前に確認する四つの条件
第一に、変色が表面着色か歯の内部の変色かを調べる。第二に、むし歯、歯周病、亀裂、知覚過敏を先に評価する。第三に、詰め物や被せ物との色差を含め、期待する白さと費用、期間、副作用を歯科医師と確認する。第四に、歯科から渡された材料を説明された手順で使い、痛みや歯肉の異常が出た場合の連絡先を決めておく。
ホワイトニングは歯の外観を変える選択であり、むし歯や歯周病を治療する処置ではない。安全性は「漂白か研磨か」という名前だけで決まらず、変色の原因、口内の状態、材料、使い方を合わせて判断する必要がある。
よくある質問
歯科のホワイトニングはエナメル質を削るのか
過酸化物を使う漂白は、薬剤が歯の内部の着色物質を酸化する処置で、表面を削って白くする方法ではない。ただし、知覚過敏や歯肉刺激が起こりうるため、事前診査と手順の順守が要る。
美白歯磨剤で歯本来の色まで白くなるのか
主な働きは表面着色の除去で、歯の内部の変色を漂白するものではない。強く長く磨けば効果が上がるわけではなく、歯肉退縮や象牙質露出がある人では刺激を増やす可能性がある。
被せ物や詰め物も一緒に白くなるのか
ならない。漂白材が色を変えるのは天然歯で、人工材料は元の色に残る。色差を避けたい場合は、美白と修復物の扱う順番を歯科医師と決める必要がある。
美白中に歯がしみたら続けてもよいか
自己判断で濃度や使用時間を変えず、いったん使用を止めて処方した歯科へ連絡する。強い痛みが続く、自発痛、腫れ、発熱、開口障害、嚥下痛がある場合は、美白の副作用と決めつけず早急に受診する。
出典・参考資料
- 歯を白くしたい! ホワイトニングにも歯科健診は大切(厚生労働省 iiha)医療ホワイトニングの方法、歯科医師の処方、知覚過敏の頻度を説明する啓発記事
- お口のなんでも相談『ホワイトニング』(日本歯科医師会)漂白の仕組み、事前診査、保険外診療であることを説明する一般向け資料
- 過酸化物を用いた歯面漂白材の取扱いについて(厚生労働省)過酸化物を使う歯面漂白材には歯科医師による口腔内の診査・診断が必要だとする通知
- Whitening(American Dental Association)着色の分類、漂白と表面着色除去の違い、副作用、修復物への限界をまとめた資料
- Toothpastes(American Dental Association)歯磨剤の相対的象牙質研磨性(RDA)と米国での安全基準を説明する資料
- Natural Teeth Whitening: Fact vs. Fiction(American Dental Association MouthHealthy)酸性果物、活性炭、オイルプリングによる自己流美白の根拠と危険を説明する一般向け資料
- Effectiveness and abrasiveness of activated charcoal as a whitening agent: A systematic review of in vitro studies(Annals of Anatomy(Montero Tomás et al., 2023))活性炭歯磨剤の美白効果、研磨性、収載研究の限界を検討した系統的レビュー
- 災害時の口腔ケア・歯科治療 平易なQ&A(日本歯科医師会)自発痛、発熱、開口障害、嚥下痛など、早急な相談が必要な歯科症状を示す資料
- Dental abscess(NHS)口や顔の大きな腫れ、呼吸・会話・嚥下困難など救急対応が必要な兆候を示す公的医療情報