フッ化物配合歯磨剤は、フッ素濃度と使用量を年齢に合わせて使うむし歯予防法だ。日本では2023年、日本口腔衛生学会、日本小児歯科学会、日本歯科保存学会、日本老年歯科医学会が合同で、乳歯が生えた時点からの使用量を改めて示した。
通常の歯磨きで口に入る少量と、子どもがチューブから大量に飲み込む事故は分けて考える必要がある。家庭では濃度表示を確認し、保護者が適量を出し、使い終えた歯磨剤を子どもの手が届かない場所へ戻すことが基本となる。
大量に飲み込んだ時──吐かせず、量と時刻を確認
チューブから大量に食べた、飲み込んだ量が分からない、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などが現れた場合は、製品を手元に置き、子どもの年齢・体重、商品名、フッ素濃度、推定量、時刻を伝えて医療機関または中毒110番へ相談する。日本中毒情報センターは、飲んだ物を確認して口内に残る物を取り除き、家庭では吐かせず、受診や応急手当の判断に迷う時は中毒110番へ相談するよう案内している。
意識がない、けいれんしている、呼吸や脈に異常がある場合は、直ちに119番へ通報する。同センターは、こうした重い症状がある場合を家庭で応急手当を続ける範囲から除外している。症状がなくても大量摂取が疑われる場合は、症状の出現を待たず相談する。
年齢別の量──米粒、グリーンピース、歯ブラシ全体
歯科4学会の2023年版提言は、歯が生えてから2歳までを900〜1000 ppmFで米粒程度の1〜2ミリ、3〜5歳を同じ濃度でグリーンピース程度の5ミリ、6歳以上を1400〜1500 ppmFで歯ブラシ全体の1.5〜2センチ程度としている。いずれも就寝前を含め1日2回が基本だ。
2歳までは保護者がごく少量をつけ、磨いた後にティッシュなどで軽く拭き取ってもよい。3〜5歳は軽く吐き出し、うがいをするなら少量の水で1回にとどめる。自分で適量を出せない子どもには保護者がつける。6歳という年齢だけで切り替えず、吐き出す力や歯科医師の指示も確認する。
1000 ppmF以上で確認されたむし歯予防効果
フッ素は歯の表面で再石灰化を助け、歯質を酸に溶けにくくする。2019年のCochrane系統的レビューは96研究を収載し、子どもと青少年の永久歯では1000〜1250 ppmおよび1450〜1500 ppmの歯磨剤が無配合の歯磨剤よりむし歯の増加を抑えたと結論づけた。一方、乳歯に関する濃度間比較の確実性は限られ、幼児では予防効果と歯のフッ素症のリスクを合わせて濃度を選ぶ必要がある。
厚生労働省の健康情報は、国内の年齢別使用量を示すとともに、むし歯予防効果は濃度に依存し、1000 ppmF以上では濃度が500 ppmF上がるごとに予防効果が6%上昇すると説明している。低濃度なら一律に安全、高濃度なら一律に危険という分け方ではなく、年齢別の濃度と量を一組で確認する。
通常量と急性中毒の量は同じ尺度で比べない
日本小児歯科学会の補足資料では、1000 ppmFの歯磨剤を米粒程度使った場合に含まれるフッ素は0.05〜0.1ミリグラム、グリーンピース程度では0.25ミリグラムと試算されている。1歳児が米粒程度を1日2回すべて飲み込んだ場合や、3歳児の平均的な飲み込み割合を用いた試算でも、食事分と合わせた摂取量は同資料が採用した耐容摂取量を下回った。ただし、体格と食習慣には個人差があり、量を守らなくてよいという意味ではない。
NHSの専門薬事資料は、フッ素を体重1キログラム当たり5ミリグラム超摂取した場合、緊急の医学的評価が必要としている。体重20キログラムなら100ミリグラムに相当し、1000 ppmの歯磨剤では理論上100グラムとなる。ただし、市販品は濃度も内容量も異なり、残量から摂取量を正確に決められない場合がある。この計算を家庭で受診不要と判断する線引きには使わず、大量摂取や症状があれば相談する。
歯のフッ素症は形成期の継続的な過剰摂取
歯のフッ素症は、歯が形成される時期にフッ素を継続して過剰に摂取した場合に生じるエナメル質の変化で、1回の大量誤飲による急性中毒とは時間軸が異なる。厚生労働省の健康情報は、リスクが6歳以下に集中し、上顎中切歯では1〜3歳が特に影響を受けやすい時期だとしている。
このため、幼児の歯ブラシに大人と同じ長さをつけたり、毎回飲み込ませたりしない。保護者が量を管理し、吐き出せない場合は拭き取りも選べる。歯磨剤のチューブは、踏み台や椅子を使っても届かない場所に保管する。
持病や飲み込みに不安がある子ども
嚥下障害がある、歯磨剤を繰り返し多く飲み込む、フッ素を含む別の歯科製品を併用している、むし歯リスクを理由に高濃度品を指示されている場合は、一般的な年齢表だけで量を決めず歯科医師へ相談する。4学会提言も、むし歯リスクが高い子どもへ1000 ppmFを超える歯磨剤を使う場合は歯科医師の指示によるとしている。
自治体の乳幼児歯科健診やフッ化物歯面塗布は、対象年齢、費用、実施場所が一律ではない。居住する市区町村の案内と母子健康手帳を確認し、家庭での歯磨きと歯科での処置を同じものとして数えない。
冷たい物で歯がしみる、痛みが続く、歯に穴や変色がある場合は、歯磨剤の変更だけで原因を判断しない。知覚過敏とむし歯を分ける受診の目安は、「知覚過敏」とむし歯の違いを扱った記事で整理している。
よくある質問
乳歯が生えたばかりでもフッ化物配合歯磨剤を使うのか
4学会提言は、歯が生えてから2歳まで、900〜1000 ppmFを米粒程度使うとしている。保護者が量を出し、1日2回磨く。
3歳の子どもにはどの程度つけるのか
900〜1000 ppmFをグリーンピース程度、長さでは約5ミリが目安だ。磨いた後は軽く吐き出し、すすぐ場合は少量の水で1回とする。
少し飲み込んだら中毒になるのか
推奨量には、幼児が一部を飲み込む実態を踏まえた安全性の試算がある。チューブから大量に飲み込んだ、量が分からない、吐き気や嘔吐などがある場合は、製品を手元に置いて医療機関または中毒110番へ相談する。
フッ素なしの歯磨剤のほうが安全なのか
濃度の有無だけでは判断できない。1000 ppmF以上のむし歯予防効果には系統的レビューの根拠があり、幼児では年齢に合った濃度と少量使用で利益と過剰摂取の回避を両立させる。
出典・参考資料
- フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について 4学会合同の提言(普及版)(日本小児歯科学会ほか3学会)年齢別のフッ素濃度、使用量、回数、すすぎ方、保管方法
- フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について 補足版(日本小児歯科学会)乳幼児の推奨量に含まれるフッ素量と安全性の試算
- フッ化物配合歯磨剤(厚生労働省 健康日本21アクション支援システム)予防効果、年齢別使用法、歯のフッ素症に関する公的健康情報
- Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries(Cochrane Database of Systematic Reviews(Walsh et al., 2019))異なるフッ素濃度の歯磨剤を比較した96研究の系統的レビュー
- Considering fluoride and accidental ingestion of toothpaste(NHS Specialist Pharmacy Service)急性摂取量の評価基準と濃度別の換算方法
- 中毒事故が起こったら(家庭でできること、やってはいけないこと)(日本中毒情報センター)誤飲時の初期対応、救急要請、中毒110番への相談方法