象牙質知覚過敏症は、露出した象牙質に冷気や冷水、歯ブラシなどの刺激が加わったとき、短く鋭い痛みが生じる状態だ。ただし、むし歯、歯髄の炎症、歯の亀裂でも似た痛みが起こるため、「冷たい物でしみる」という症状だけでは知覚過敏と確定できない。
先に確認したい受診の目安
冷水や歯磨きのときだけしみる場合でも、症状が繰り返すなら歯科で原因を確かめる必要がある。刺激を離しても痛みが長く残る、自発的にズキズキする、夜間に痛む、かんだときに鋭く痛む、痛む歯を特定しにくいといった変化は、単純な知覚過敏の範囲を超える可能性がある。日本歯科医師会は、冷水や歯磨きでしみる場合はむし歯か知覚過敏が疑われ、刺激がなくてもズキズキ痛む段階では早急に歯科へ相談するよう示している。
歯肉や顔が腫れ、発熱や悪寒がある、口を開けにくい、唾を飲み込むと喉が痛む場合は、歯科医療機関へ至急連絡する兆候だ。日本歯科医師会の同じ資料は、発熱・悪寒、開口障害、嚥下痛を危険な兆候に挙げている。英国の公的医療サービスNHSは、口内の大きな腫れや、呼吸・会話・嚥下が難しい状態を救急受診の対象としている。
小児、妊娠中の人、基礎疾患がある人、常用薬がある人では、検査や治療時の薬の選択が変わりうる。成人一般の対処をそのまま当てはめず、歯科医師に年齢、妊娠、病歴、服用中の薬を伝える必要がある。
痛みの仕組み──露出した象牙細管内の液体が動く
歯の表面を覆うエナメル質の内側には象牙質があり、その中を細い象牙細管が走る。歯肉が下がって歯根面が露出したり、酸による侵食や摩耗で表面の保護が失われたりすると、象牙細管が口内の刺激を受けやすくなる。
2020年のエビデンスレビューは、温度、蒸発、触覚、化学的な変化で象牙細管内の液体が動き、歯髄側の神経終末を刺激して一過性の鋭い痛みを生むという流体動力学説を、最も広く受け入れられた説明として整理している。この仕組みに基づき、知覚過敏への対応は、細管を物理的にふさぐ方法と神経の反応を弱める方法に大別される。
象牙質が露出する背景は一つではない。歯肉退縮、強い力でのブラッシング、歯ぎしりなどによる摩耗、酸性飲食物や胃酸による侵食、歯周治療後の歯根面露出が候補になる。原因が続けば歯磨剤で痛みが軽くなっても再発しうるため、歯科では症状のある歯と露出の原因を合わせて調べる。
有病率11.5%、大きな幅は測り方の違い
2019年の系統的レビューと統合分析は、象牙質知覚過敏の有病率を11.5%と推定した一方、収載研究の値は1.3%から92.1%まで広がった。質問票による自己申告か、冷気や触診による臨床検査か、一般集団か歯科受診者かで結果が変わるためだ。
11.5%は国際研究を統合した値で、日本の現在の人口有病率ではない。日本全国を対象に、同じ診断基準で測定した最新の公的統計は、本稿の執筆時点で確認できていない。
知覚過敏用歯磨剤は成分と研究条件を確認
知覚過敏用歯磨剤は、製品名ではなく有効成分で研究結果を読む必要がある。細管をふさぐ成分にはフッ化スズ、アルギニン、カルシウム・ナトリウム・リン酸塩系の材料などがあり、カリウム塩は歯髄側の神経反応を抑える仕組みが想定されている。
2020年の系統的レビューとネットワークメタ解析では、フッ化スズ、カリウムとフッ化スズの併用、アルギニン、カルシウム・ナトリウム・リン酸塩系などを含む歯磨剤で、比較対照より触覚、冷気、冷刺激による痛みが小さくなる結果が示された。ただし、成分ごとに評価した刺激が異なり、研究期間も短い。順位をそのまま個人の製品選びに当てはめる結果ではない。
使用時は表示された方法と回数に従い、通常の歯磨きの一部として継続する。知覚過敏用歯磨剤は、むし歯や亀裂の診断を代替しない。一定期間使っても変化がない、悪化する、いったん治まっても繰り返す場合は、別の製品へ次々に替える前に歯科へ相談する。
強く磨くほど清潔になるわけではない
歯垢を落とす基本は歯ブラシだが、強い力や長時間の摩擦は歯面や歯肉を傷つける要因になる。厚生労働省の健康情報サイトは、歯ブラシの毛先を歯と歯肉の境目に軽く当て、磨き残しがないよう順番に動かす方法を示し、医薬部外品の歯磨剤には知覚過敏を防ぐ用途の薬用成分があると説明している。痛む場所を避け続けるのではなく、力を抑えた清掃方法を歯科で確認するのが現実的だ。
酸性飲食物の摂取頻度、胃酸の逆流、歯ぎしり、最近の歯科治療などに心当たりがあれば診察時に伝える。歯科医師は、むし歯、修復物の不具合、歯周組織、亀裂、かみ合わせ、歯髄の反応を調べ、知覚過敏か別の病変かを絞り込む。
歯髄炎との境界は症状表だけで決まらない
日本歯科保存学会と日本歯内療法学会の診療ガイドラインは、寒冷診で再現する長引く自発痛を、不可逆性歯髄炎と診断された歯を扱った臨床研究の対象症状として記載している。一方で、歯髄をどこまで保存できるかの診断には限界があり、痛みの長さだけで治療法まで決めるものではない。
歯髄炎が疑われても、直ちに根管治療になるとは限らない。診察、冷温刺激への反応、打診、エックス線画像、むし歯の深さなどを踏まえて歯髄を残せるかを判断する。知覚過敏と思って放置することも、症状だけで根管治療が必要だと決めつけることも避ける必要がある。
よくある質問
冷たい水で一瞬しみるだけなら、受診しなくてもよいか
一度だけの軽い症状なら刺激を避けながら経過を見られるが、繰り返す場合はむし歯や亀裂との鑑別が必要だ。痛みが長く残る、自発痛や夜間痛がある、かんで痛む場合は歯科へ相談する。
知覚過敏用歯磨剤を使えば、むし歯も治るのか
治らない。知覚過敏用歯磨剤は象牙細管や痛みの伝達に働く成分を含むが、むし歯で失われた歯質や歯の亀裂を修復するものではない。
知覚過敏用歯磨剤はどの成分を選ぶべきか
フッ化スズ、アルギニン、カリウム塩などには比較試験があるが、研究条件と個人の原因は一致しない。表示された有効成分と使用方法を確認し、改善がなければ歯科医師に原因と選択肢を相談する。
しみる歯を磨かないほうがよいか
清掃を止めれば歯垢が残る。毛先を軽く当てる方法へ見直し、痛みで磨けない場合や出血、腫れを伴う場合は歯科で磨き方と原因を確認する。
出典・参考資料
- 災害時の口腔ケア・歯科治療 平易なQ&A(日本歯科医師会)冷水や歯磨きでしみる場合の鑑別と、早急な相談が必要な症状を示す資料
- 歯髄保護の診療ガイドライン(日本歯科保存学会・日本歯内療法学会)歯髄診断の限界と、長引く自発痛を伴う不可逆性歯髄炎を扱う診療ガイドライン
- Dental abscess(NHS)歯や歯肉の感染に伴う腫れと、呼吸・会話・嚥下困難など救急受診が必要な兆候を示す公的医療情報
- Prevalence of dentin hypersensitivity: Systematic review and meta-analysis(Journal of Dentistry(Zeola et al., 2019))象牙質知覚過敏の有病率と研究間のばらつきをまとめた系統的レビュー・統合分析
- Pathogenesis, diagnosis and management of dentin hypersensitivity: an evidence-based overview for dental practitioners(BMC Oral Health(Liu et al., 2020))象牙質知覚過敏の機序、原因、鑑別、管理を整理したレビュー
- Desensitizing Toothpastes for Dentin Hypersensitivity: A Network Meta-analysis(Journal of Dental Research(Martins et al., 2020))知覚過敏用歯磨剤の成分別効果を比較した系統的レビュー・ネットワークメタ解析
- 歯みがきを助けるもの(電動歯ブラシ・歯磨剤・洗口液)(厚生労働省 健康日本21アクション支援システム)歯ブラシの当て方と医薬部外品歯磨剤の位置づけを説明する公的健康情報