夏の食中毒対策で基準になるのは、料理の見た目より、調理後にどの温度でどれだけ扱ったかである。食中毒菌は食品の外観やにおいが変わる前にも増えるため、「傷んで見えない」は安全の根拠にならない。

農林水産省は、食中毒菌が増えやすい温度を約20〜50℃とし、この温度帯に食品を置く時間を極力短くするよう案内している。持ち帰り食品は移動時間を短くし、すぐ食べない場合は冷蔵する。気温の高い屋外、車内、冷房のない台所では、購入から食べるまでの全工程を一続きの時間として扱う必要がある。

この20〜50℃は「その範囲に入れば直ちに食べられない」という線ではない。菌の種類、最初に付着した菌数、食品の水分や塩分、実際の温度で増え方は変わる。日本の家庭向け公的資料で、すべての調理済み食品に共通する「室温で何時間まで」という一律上限は、本稿の執筆時点で確認できていない。時間を使い切る発想ではなく、室温に置く工程そのものを短くするのが日本の公的資料に沿った判断になる。

先に確認する受診の警告サイン

食後に突然の強い腹痛が出た、強い痛みが続く、便や吐いた物に血が混じる、意識がもうろうとする、自力で移動できない場合は、救急要請を含め直ちに医療につなぐ。水分を保てないほど嘔吐が続く、尿量が減る、尿が濃くなる、口や唇が乾く、立ちくらみがある場合も早めの受診が要る。総務省消防庁の救急受診ガイドは、血便、持続する強い腹痛、意識の変化に加え、尿量減少や濃い尿、口唇の乾燥、立ちくらみを緊急度判断の項目に挙げている

乳幼児、妊婦、高齢者、持病や常用薬がある人

乳幼児と高齢者は嘔吐や下痢による脱水に注意が要る。妊娠中の人、高齢者、免疫機能が低下している人は、冷蔵食品でもリステリアのリスクを別に考える必要がある。厚生労働省は、リステリアは4℃以下でも増殖し、妊婦、高齢者、抗がん剤治療中など免疫機能が低下した人では少量でも重い状態になる場合があると説明している。小児、妊婦、持病や常用薬がある人に成人一般の経過観察をそのまま当てはめず、症状が出たら医療機関へ早めに相談する。

家庭で使う三つの温度基準

厚生労働省は、家庭の冷蔵庫を10℃以下、冷凍庫をマイナス15℃以下に保ち、加熱する食品は中心部75℃で1分以上加熱することを目安としている。温度計がある場合は庫内表示や見た目に頼らず、冷蔵庫内と食品中心部を測る。

場面公的資料の目安家庭での扱い
持ち帰り・配達後約20〜50℃に置く時間を極力短くする早く食べ、すぐ食べない物は冷蔵する
冷蔵・冷凍冷蔵10℃以下、冷凍マイナス15℃以下詰め過ぎを避け、冷気が回る状態を保つ
加熱調理中心75℃で1分以上厚い部分や鍋の中心まで加熱する
残り物浅い容器へ小分けして早く冷やす清潔な器具と容器を使い、速やかに冷蔵する

大鍋のカレーや煮物は、鍋ごと置くと中心部の温度が下がりにくい。残す分は食卓へ出し続けず、清潔な浅い容器へ小分けする。冷蔵庫は詰め過ぎると冷気が回りにくくなるため、庫内を10℃以下に保てているかを確かめる。

「温め直せば安全」とは限らない

中心までの十分な加熱は重要だが、室温放置の埋め合わせにはならない。農林水産省は、黄色ブドウ球菌そのものは熱に弱い一方、菌が作る毒素は熱に強く、一度毒素ができると加熱しても食中毒を防げないとしている。おにぎり、弁当、巻きずし、調理パンなど加熱後に手で扱う食品では、手洗いと清潔な器具で菌を付けないこと、常温で増やさないことが先になる。

冷蔵も無期限の安全を意味しない。期限表示と保存方法を守り、開封後は速やかに食べる。長く置いた食品は、においを確かめるために口へ入れず処分する。冷蔵庫から出した物を食卓へ戻し、また冷やす操作を繰り返すと、温度履歴が分からなくなる。

夏の持ち帰りと作り置きで確認する順序

  1. 購入時に期限と要冷蔵表示を確認し、保冷が必要な食品は最後に買う。
  2. 持ち歩く時間を短くし、帰宅後はすぐ食べるか冷蔵する。
  3. 生の肉や魚の汁が、サラダや調理済み食品へ触れないよう袋、容器、器具を分ける。
  4. 加熱する食品は中心まで火を通し、残す分は清潔な浅い容器へ小分けして冷やす。
  5. 保存時間や温度履歴が分からない物、長く室温に置いた物は、再加熱を安全確認の代わりにしない。

よくある質問

日本の「危険温度帯」は何℃か
農林水産省は、食中毒菌が増えやすい温度を約20〜50℃と案内している。これは食品の安全と危険を一律に分ける境界ではなく、この温度帯に置く時間を短くするための目安である。

室温なら何時間まで置けるのか
食品の種類や温度を問わない国内の一律上限は確認できていない。持ち帰り食品は早く食べ、すぐ食べない場合は冷蔵する。長く室温に置いた物を、見た目やにおいだけで安全と判断しない。

冷蔵庫へ熱い鍋をそのまま入れてよいのか
残り物は浅い容器へ小分けし、早く冷える形にする。大鍋のままでは中心が冷えにくく、庫内のほかの食品にも影響する。

再加熱すれば食べられるのか
加熱の目安は中心75℃で1分以上だが、黄色ブドウ球菌が作る耐熱性毒素などは加熱で消えない。保存状態が悪かった食品は、再加熱だけでは安全に戻らない。