筋力トレーニング(resistance training)は、筋肉に抵抗をかけて筋力や身体機能を高める運動である。脳卒中との関係を見るときは、習慣として続けた場合の健康影響と、重い負荷を挙げる数秒間の血圧反応を分けて考える必要がある。

現在の急性研究が主に測っているのは、運動中の血圧と脳血流の変化であり、個人の脳卒中発症率ではない。一方、息を止めるバルサルバ法(Valsalva maneuver)や限界に近い反復は血圧変動を大きくするため、高血圧や脳血管疾患の既往がある人には個別の開始条件が要る。

スクワットラック、トレーニングベンチ、重量器具が並ぶジム(イメージ)
筋トレの安全条件は負荷、呼吸、体調、病歴を合わせて決める(イメージ)

先に確認する119番の兆候

トレーニング中や直後に、顔の片側がゆがむ、片側の腕や脚に力が入らない、ろれつが回らない、言葉が出ない・理解できないといった異常が突然現れた場合は、運動を再開せず119番へ連絡する。厚生労働省は、顔・腕・言葉の症状が一つでも突然起きたら、脳卒中を疑ってすぐに救急車を呼ぶよう案内し、突然の激しい頭痛や意識障害も緊急の兆候に挙げている。発症に気付いた時刻を確認し、症状が短時間で消えてもトレーニングへ戻らない。

厚生労働省は、胸や背中の突然の激痛、急な息切れ・呼吸困難も、迷わず119番を呼ぶ目安に挙げている。救急の兆候に当てはまらなくても、運動中に胸痛、動悸、めまい・ふらつき、冷や汗、普段と違う強い疲れが出たら、その場で運動を中止する。

バルサルバ法──息こらえが血圧反応を大きくする

バルサルバ法は、声門を閉じたまま息を吐こうとして胸腔内圧を高める動作である。重い物を挙げる際には体幹を固める働きがある一方、胸腔内圧、静脈還流、動脈圧を短時間に変化させる。

1992年の研究は、男性の初心者20人に片腕カールと両脚伸展を三つの呼吸法で行わせ、息を止めた場合に収縮期・拡張期血圧の反応が最も大きかったと報告した。力を出す局面で吸う方法と吐く方法の血圧上昇は近く、吐くこと自体の優位性は示されなかった。実用上は、力を出すときに吐き、戻すときに吸う方法を使ってもよいが、最優先は呼吸を止めないことである。

1985年の研究は、経験のある男性ボディビルダー5人が各種目で1回挙げられる最大重量の80〜100%で限界まで反復した際、上腕動脈内の血圧が急上昇し、両脚プレスの平均ピークは320/250mmHg、1人では480/350mmHgを超えたと報告した。これは動脈カテーテルを使った研究室内の瞬間値であり、家庭血圧の値や一般のトレーニングでの中止基準とは性質が違う。5人に脳卒中が起きたことを示す研究でもない。

木の床に置かれたダンベルとトレーニングマット(イメージ)
限界に近い反復と息こらえは運動中の血圧変動を大きくする(イメージ)

急性血圧の研究から発症率は決められない

2021年のレビューは、動的な筋力トレーニングでは血圧が反復ごとに上下し、バルサルバ法が加わると脳血流の調節がさらに複雑になる一方、高強度運動中の脳血流を正確に測る方法には制約があり、研究参加者も男性に偏ると整理した。報告されているのは数秒単位の生理反応や失神で、一般的な筋トレによる脳卒中発症率の変化を示す研究ではない。

公衆衛生上の推奨も、筋トレを一律に避ける立場ではない。厚生労働省の「身体活動・運動ガイド2023」は成人と高齢者に週2〜3日の筋力トレーニングを勧め、負荷を個人の特性や能力に合わせて少しずつ高めるとともに、急激な血圧上昇を抑えるため息をこらえないよう示している。週2〜3日という頻度は健康づくりの一般的な目安で、最大重量や限界反復の安全性を保証する数字ではない。

高血圧や脳卒中の既往がある人

高血圧がある人は、毎回の運動前に体調を確認し、指示されている場合は血圧と脈拍を記録する。厚生労働省の安全情報は、収縮期血圧180mmHg/拡張期血圧110mmHgを示したときは運動を控えて休養し、胸痛、動悸、めまい・ふらつき、冷や汗などが運動中に出たら直ちに中止するよう示している。この値を下回れば最大重量へ挑戦してよい、という境界ではない。

厚生労働省の慢性疾患向け資料は、対象を状態が安定した高血圧患者などとし、合併症や運動で悪化する痛みがある場合は事前に医師などへ相談し、日常生活での活動強度から無理なく始めて徐々に増やすよう求めている。血圧が安定していない、治療が変わった、運動時の症状がある場合は、自己判断で従来の負荷へ戻さない。

脳卒中や一過性脳虚血発作の既往がある人では、発症時期、後遺症、転倒リスク、心血管の状態、服薬によって条件が変わる。Canadian Stroke Best Practicesは、軽度から中等度の下肢障害には筋力トレーニングを検討し、有酸素運動については開始前に病歴と診察で禁忌を確認したうえで、訓練中の症状、心拍、血圧、自覚的運動強度を確認するよう勧めている。これは個別に組むリハビリテーションの枠組みであり、医療者の評価や見守りを伴わない最大重量テストへ置き換えられない。

呼吸と負荷を調整する四つの手順

呼吸を止めない。 挙げる局面で吐き、戻す局面で吸うなど、動作中に呼吸が続く型を選ぶ。呼吸を続けられない重量は下げる。

動作を保てる負荷から始める。 反動を使う、姿勢が崩れる、補助なしでは戻せない段階へ進まず、重量、回数、セット数のうち一度に増やす項目を絞る。高血圧や脳血管疾患の既往がある人は、限界反復と自己流の最大重量テストを避け、担当する医療者や運動指導者と範囲を決める。

運動前後を急に切り替えない。 軽い動きから始め、終了時も段階的に強度を下げる。運動後に立ちくらみが出た場合は、その日の追加セットを行わず体調を確認する。

記録を次の判断に使う。 種目、重量、回数、息こらえの有無、運動前の血圧、症状が出た時刻を残す。医療者へ相談する際は、使用中の処方薬・市販薬も伝え、薬を自己判断で中止または増減しない。

スクワットラックやバーベルが整然と並ぶ商業施設内のジム(イメージ)
呼吸と動作を保てる負荷から段階的に進める(イメージ)

子ども、妊婦、持病・常用薬のある人

子ども。 成人男性の最大挙上研究を負荷設定に使わない。厚生労働省の子ども向け身体活動資料は、筋肉や骨を強くする活動を週3日以上含める一方、激しすぎる運動と使いすぎに注意するよう示している。年齢、発育、動作習熟に合う指導と器具を優先し、成人の最大重量テストを当てはめない。

妊婦。 妊娠前の負荷や成人一般の手順をそのまま継続しない。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の「産婦人科診療ガイドライン―産科編2023」は、ウェイトやバンドを使う筋力トレーニングを選択肢に挙げる一方、重量挙げを転倒・外傷の危険がある種目とし、妊娠高血圧症候群、持続する性器出血などがある場合は運動を勧めていない。立ちくらみ、頭痛、胸痛、呼吸困難、性器出血、胎動減少などが出た場合は中止し、産科へ連絡する。

持病・常用薬のある人。 心臓、呼吸器、脳血管、腎臓の病気、糖尿病、運動で悪化する運動器の問題がある人は、状態と治療内容に応じて開始時期と負荷を決める。一部の降圧薬は運動中の心拍反応に影響するため、心拍数だけを強度の基準にせず、処方した医師へ確認する。

よくある質問

筋トレをすると脳卒中になるのか
急性研究は、息こらえや限界に近い反復で血圧が大きく変動することを示すが、個人の脳卒中発症率は測っていない。因果関係の証明にも、危険がゼロという証明にもならない。

高血圧があれば筋トレをやめるべきか
一律に中止するのではなく、血圧の管理状況、合併症、服薬、運動経験を確認する。状態が安定していれば低い負荷から段階的に始める選択肢があるが、個別の重量と反復回数は医療者や運動指導者と決める。

力を出すときは必ず息を吐くのか
吐く方法は息こらえを避ける一案である。1992年の小規模研究では、力を出す局面で吸う方法と吐く方法の血圧反応に明確な差はなく、息を止めた場合が最も大きかった。動作中に無理なく呼吸を続けることを優先する。

筋トレ後の頭痛は休めばよいか
突然の激しい頭痛、顔のゆがみ、片側の脱力、言葉の異常、意識障害を伴う場合は待たずに119番へ連絡する。救急の兆候がなくても、新しい頭痛が反復する、悪化する場合は高負荷を再開せず医療機関で評価を受ける。