Appleが中国の長鑫存儲(ChangXin Memory Technologies、CXMT)製メモリーを、iPhoneやMacBookを含む複数の製品群で試験していると米紙が報じた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は2026年8月9日、Appleが中国で販売する一部端末への採用を目標に、CXMTと供給について初期協議をしたと関係者の話に基づき伝えた。AppleとCXMTは正式採用、対象機種、発注量を公表していない。現段階で確認できるのは試験と初期協議の報道までである。
試験と採用は別の段階
今回の対象は、ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリー(Dynamic Random-Access Memory、DRAM)である。アプリやOSが処理中のデータを一時的に置く部品で、iPhoneやMacBookの動作に欠かせない。報道は複数の製品群での試験に触れたが、どの世代のDRAMをどの機種で評価したかは明らかにしていない。
部品を試した事実から量産品への採用は導けない。品質や歩留まりの評価を通過したか、価格や供給量で合意したか、中国以外へ対象を広げるかは、いずれも公表されていない。中国販売分を想定した初期協議という範囲を越えて、日本や米国で売る端末にも入ると読む根拠はない。
CXMTとは何か──DRAMで世界4位
CXMTの公式資料によると、同社は2016年に創業し、スマートフォン、PC、タブレット、サーバー向けのDRAMを製造している。2019年に8Gb DDR4の量産を発表し、同年に製品販売を始めた。中国メーカーの一社という段階から、世界の供給量に影響する規模へ伸びている。
AP通信はCounterpoint Researchの推計として、CXMTの2025年のDRAM出荷シェアが約8%で世界4位、2026年第1四半期は約9%だったと報じた。上位はSamsung Electronicsが36%、SK hynixが29%、Micron Technologyが24%で、CXMTは2026年7月の上海上場で少なくとも86億ドルを調達した。ここでのシェアは出荷数量を基準とする。売上高やウエハー生産能力の比率と同じ数字ではない。
日本でメモリー大手として知られるキオクシアとは製品の軸が異なる。キオクシアの公式説明は、NAND型フラッシュメモリーと、それを使うSSDを主力製品に挙げている。CXMTが今回試験されたと報じられたDRAMは作業用メモリー、NANDは保存用メモリーであり、同じ「メモリー半導体」でも置き換える部品ではない。
供給不足が変えた交渉力
Appleが新しい供給元を調べる背景には、AIデータセンターの増設に伴うメモリー不足がある。サーバー向けDRAMや高帯域幅メモリーへ需要と生産資源が集まり、スマートフォンやPCの部品調達にも影響が及んでいる。WSJも今回の試験をAIブーム下の供給逼迫への対応として報じた。
ただし、中国製なら安いとは限らない。Reutersは2026年7月、CXMTの生産能力が中国国内の強い需要で埋まり、一部の64GB DDR5サーバー用モジュールではSamsungの価格を上回ったと複数の関係者に基づき報じた。供給先を増やせばAppleの選択肢は広がるが、CXMTを試す目的が値下げ交渉なのか、数量確保なのか、両方なのかはAppleの説明がなく確定できない。
米国の二つのリスト──指定と輸出許可
CXMTを巡る米国の制度は、名称の似たリストを分けて読む必要がある。米国防総省は2026年6月の1260HリストにCXMTを掲載し、中国工業情報化省などとの関係を指定理由に挙げた。この指定は、米国防総省が中国の軍民融合に関わると判断した企業を示すものである。
一方、米商務省産業安全保障局(BIS)のEntity Listは輸出管理上の制度だ。BISは、掲載企業が取引当事者となる場合、米輸出管理規則(Export Administration Regulations、EAR)の対象品目について輸出、再輸出、国内移転に個別の許可要件がかかると説明している。1260Hへの掲載だけで、Entity Listに載ったことにはならない。
チャック・シューマー上院議員ら超党派の7人は7月29日付でAppleのティム・クックCEOに書簡を送り、CXMTと長江存儲(Yangtze Memory Technologies、YMTC)のメモリーを世界のApple製品で使わないと約束し、試験状況や共有した技術情報を8月21日までに説明するよう求めた。書簡は両社が1260Hリストに載る一方、BISが2022年にEntity Listへ加えた企業としてYMTCを挙げる。CXMTについては同リストへの追加を求める政治的な働きかけが続いており、二社の規制上の位置は同一ではない。
日本の輸出管理と混同しない
日本にも半導体を対象とする安全保障貿易管理がある。外務省の2023年4月の会見記録は、半導体製造装置23品目に関する輸出管理措置について、国際的な平和と安全の維持を目的とし、特定の国を対象とする措置ではないと説明している。これは製造装置を日本から輸出する場面の制度で、Appleが完成したDRAMを調達するかを審査する仕組みではない。
日本企業に関係するのは、CXMTなどへ製造装置や管理対象の技術を供給する場合の輸出手続きである。Appleの部品採用とは取引の層が違う。今回の試験対象は中国で販売する一部端末と報じられており、CXMT製DRAMが日本向け製品で試験または採用されたと示す日本の公的資料は確認できていない。
既存サプライヤーへの影響
Appleが公表した2023年度のサプライヤー一覧は、世界の材料、製造、組み立てに対する直接支出の98%を対象とし、Samsung Electronics、SK hynix、Micron Technologyを掲載している。ただし、一覧が示すのは企業名とApple向け製造地域で、供給する部品、DRAMの調達額、企業別の比率、契約価格は載っていない。
CXMTがAppleの評価を通過すれば、中国販売分について調達先の候補が一つ増える。既存各社との交渉材料にはなりうるが、CXMTの供給余力と価格優位は確認されていない。発注量が示されない限り、Samsung、SK hynix、Micronから直ちに大規模な切り替えが起きるとは判断できない。
採用の進展を見分ける三つの確認点
第1はAppleまたはCXMTによる正式発表である。試験、部品認定、量産発注は別の段階で、対象機種、販売地域、供給開始時期の記載がそろって初めて採用の範囲が見える。第2はAppleの次回サプライヤー一覧で、CXMTの掲載だけでは部品種別まで分からない点にも注意が要る。
第3は米国の制度変更だ。CXMTがEntity Listへ加わるか、EARの許可要件が変わるか、議員団へのAppleの回答が公開されるかを分けて追う必要がある。1260H指定の有無だけで民間調達の可否を断定せず、BISの規則と個別の取引条件を確認することが欠かせない。
よくある質問
AppleはCXMT製DRAMの採用を決めたのか
決めたとは確認できない。報じられたのは複数製品での試験と、中国で販売する一部端末への供給を巡る初期協議である。正式発表、対象機種、発注量は公表されていない。
CXMTとYMTCは同じ会社なのか
別会社である。CXMTはDRAM、YMTCはNAND型フラッシュメモリーを主力とする。米国防総省の1260Hリストには両社が載るが、2022年に米商務省のEntity Listへ加えられたのはYMTCである。
日本で売るiPhoneやMacBookにもCXMT製品が入るのか
その事実は確認できていない。WSJが報じた初期協議の対象は中国で販売する一部端末で、日本向けへの拡大を示すAppleの発表や公的資料はない。
出典・参考資料
- Apple Tests Chinese Memory Chips as Supply Squeeze Bites(The Wall Street Journal)AppleがiPhoneやMacBookを含む製品群でCXMT製メモリーを試験し、中国販売分への採用を目標に初期協議をしたとの報道
- ABOUT CXMT(CXMT)2016年の創業と、スマートフォン、PC、サーバーなどに使うDRAMを製造する事業内容
- Chinese chipmaker CXMT shares soar in blockbuster Shanghai IPO(AP News)Counterpoint Researchによる2025年と2026年第1四半期のDRAM出荷シェア、上海上場時の調達額
- 製品とテクノロジー(キオクシアホールディングス)キオクシアの主力がNAND型フラッシュメモリーとSSDであることを示す日本語の公式説明
- China’s memory chip makers ride AI boom to new power and US scrutiny(Reuters(The Express Tribune掲載))AI需要によるメモリー需給の変化、CXMTの供給制約、価格、米国での規制議論に関する取材
- Entities Identified as Chinese Military Companies Operating in the United States(U.S. Department of Defense)2026年6月版の1260HリストとCXMTに関する米国防総省の指定理由
- Letter to Apple CEO Tim Cook re PRC Memory Producers(U.S. Senate)超党派の上院議員7人がCXMTとYMTCの採用中止、試験状況の説明、2026年8月21日までの回答をAppleに求めた書簡
- Guidance on end-user and end-use controls and U.S. person controls(U.S. Bureau of Industry and Security)Entity Listの位置づけと、EAR対象品目の輸出、再輸出、国内移転に課される許可要件の公式説明
- 林外務大臣会見記録(令和5年4月7日)(外務省)半導体製造装置23品目に関する輸出管理措置の目的と、特定国を対象とする措置ではないとの日本政府の説明
- Apple Supplier List(Apple)2023年度の直接支出の98%を占めるサプライヤーと製造地域の一覧