ブラジルでは8月17日から、DiscordのGo Liveとリアルタイム映像通信が使えない状態が続く。国のデータ保護当局が児童・青少年の安全を理由に停止を命じたためだ。連邦政府はその8日後、Discordを連邦裁判所に提訴し、5億レアルの賠償とサービス設計の変更を求めた。

ブラジル司法・公安省によると、連邦政府の法務機関AGU(Advocacia-Geral da União)は8月25日、連邦直轄区の連邦裁判所に民事訴訟を起こし、集団的な精神的損害への賠償として5億レアルを請求した。これは政府の請求額であり、Discordに支払いを命じる判決が出たわけではない。

15日以内に求める年齢確認と保護設定

政府側は、被害の発生後に通報を受けて対応する設計では足りず、安全をサービスの設計段階と初期設定に組み込む必要があると主張する。根拠として挙げたのは、ブラジルの児童・青少年デジタル法(Estatuto Digital da Criança e do Adolescente、ECA Digital)にあたる2025年法律第15,211号の第7条などである。

政府が緊急措置として求めたのは、自己申告の生年月日を超える年齢確認、16歳以下のアカウントと法定の保護者との連携、青少年向けアカウントで最も保護の強い初期設定、自傷・自殺・極端な暴力を扱う配信のリアルタイム検知と停止である。15日以内に導入せず、裁判所が命令を出した場合は1日50万レアルの制裁金を科すよう申し立てた。ポルトガル語に対応するモデレーション要員や、ブラジル国内の法的代表者を置くことも請求に含まれる。

政府発表は提訴に至った経緯として、7月に13歳の少女が死亡した事件を挙げる。政府側はDiscordの年齢確認と利用者保護に欠陥があったとするが、事件との因果関係や同社の法的責任は裁判で確定していない。

訴訟とは別に続くGo Live停止

訴訟より先に機能を止めたのは、ブラジル国家データ保護庁(Agência Nacional de Proteção de Dados、ANPD)である。同庁は8月12日に予防措置を出し、Discordは期限に合わせて停止を実施した。Discordの公式案内は、8月17日からブラジル利用者のGo Live、ビデオ通話、画面共有を止めたと説明している。対象はダイレクトメッセージ、グループDM、音声チャンネル、ステージチャンネルを通じたリアルタイム映像で、文字メッセージと音声通信は継続する。再開日は示していない

ANPDは、措置がDiscord全体の遮断ではなく、Go Liveと同等の映像送信・共有機能に限られるとしている。停止は、児童・青少年向けの技術、安全、運用上の対策についてDiscordが実効性を示し、ANPDから事前の明示的な許可を得るまで続く

ANPDの技術部門は、Discordが配信中の映像内容にアクセスしない構成のため、サーバー側で映像をリアルタイム分析して違反を検知する仕組みが使えず、自動化システムと参加者の通報に依存していると判断した。これは当局の技術評価であり、Discordは行政命令に同意していない。

2週間の協議は合意に至らず

提訴前には、政府とDiscordが約2週間にわたり、法令順守を約束する協定(Termo de Ajustamento de Conduta、TAC)を協議した。政府は同社の提案では確認済みのリスクを解消できないと判断した一方、AGUは合意による解決の余地を残している。

Reuters配信によると、Discordは訴訟を「不釣り合いで、安全対策とブラジル法の順守に対する当社の姿勢を正確に反映していない」と反論した。同社はAGUに対し、ブラジルでの安全対策を改善する技術変更と資金投入を提案したとしている。裁判所が政府の請求をどこまで認めるかは未定である。

日本への映像停止は確認されず

Discordの機能停止案内は対象を「ブラジルの利用者」と明記し、日本向けの停止には触れていない。本稿執筆時点で、同じ映像停止が日本で実施されたことを示すDiscordまたは日本政府の公式資料は確認できていない。

年齢確認は世界展開を予定する別の方針で、日本の利用者にも関係しうる。Discordは、90%を超す利用者には確認画面を出さず、年齢制限コンテンツへのアクセスを試みた一部の成人について、既存のアカウント情報で成人と判定できない場合に確認を求める方針を示した。確認しなくてもアカウント、サーバー、フレンド一覧、DM、音声通話は残るが、年齢制限コンテンツへのアクセスと青少年保護用の一部初期設定の変更は認めない。世界への広範な展開は2026年後半へ延期した。同社は日本での開始日を公表していない。

こども家庭庁が6月に公表した英国の青少年インターネット制度に関する調査報告書は、Discordの顔による年齢推定、提携事業者への身分証明書の提出、アカウント情報による年齢推定を民間事業者の事例として掲載した。この報告書は英国制度を調べた資料であり、Discordの手法を日本で義務づけたり、政府が承認したりしたものではない。ブラジルの提訴と日本での年齢確認は同じ規制措置ではなく、日本の利用者への適用時期と対象機能はなお確定していない。