韓国統一省の鄭東泳(チョン・ドンヨン)長官は8月5日、大統領府での政策報告で、京元線の分断区間の復旧工事を再開すると明らかにした。将来的に北朝鮮東海岸の元山まで線路をつなぐための布石と位置づける。工事は2015年に始まったものの、翌年の北朝鮮による核実験とミサイル発射を受けて中断しており、再開は10年ぶりとなる

京元線はソウルを起点とする韓国でも古い路線の一つで、日本統治期の1914年に龍山と元山を結ぶ路線として全通した。南北分断で非武装地帯(DMZ)付近の区間が断たれ、以来つながっていない。韓国は2014年、ソウルと鉄原(チョルウォン)郡の白馬高地駅の間およそ100キロで「DMZ平和列車」と称する観光列車を走らせ、線路が途切れる地点まで乗客を運んだ。

ソウル駅のホームに停車する観光列車「DMZ平和列車」
韓国は2014年、京元線を走ってソウルと国境地域を結ぶ観光列車「DMZ平和列車」を運行した。(Jeon Han/Korea.net、CC BY-SA 2.0)

なぜこの時期の再開なのか

ロイター通信によると、鄭氏は報告で、今回の工事の対象がDMZ付近の分断区間であり、北朝鮮との接続の可能性を残す狙いに加えて、周辺の生態観光地へのアクセス改善と国境地域の経済活性化も目的に含まれると説明した。過去10年間の南北協力基金の年間支出は計上予算の2〜3%にとどまっており、南北交流のために積まれたこの資金は長く眠っていた。今回の工事は、その基金を動かす具体策の一つにあたる。

もっとも条件は厳しい。北朝鮮は2024年、南北をつなぐ国境の道路と鉄道を爆破し、憲法を改正して韓国を敵対国と規定した。長く掲げてきた平和統一の目標を事実上取り下げた形になる。李在明(イ・ジェミョン)大統領は今回の再開について、北朝鮮への働きかけは「反響のない虚空に向かって叫ぶようなものかもしれないが、平和と共存は重要な課題だ」と述べた。

北朝鮮側では元山葛麻の観光地区がすでに完成

対照的なのが北朝鮮側の動きだ。元山近郊の元山葛麻海岸観光地区は2025年に完成しており、およそ2万人を収容する規模で、北朝鮮が近年めずらしく対外的に強調してきた観光施設にあたる。韓国側の復旧工事が将来北朝鮮域内へ延びれば、元山は京元線の歴史上の終点であると同時に、北朝鮮が力を入れる観光地区の玄関口にもなる。ただし両国の間に実際の運行や越境接続を協議する合意はなく、今回の発表はあくまで韓国国内の分断区間の復旧工事にとどまる。

観光列車「DMZ平和列車」の車内
「DMZ平和列車」の車内。この列車が走った路線が、今回韓国が復旧の再開を発表した京元線の一部にあたる。(Jeon Han/Korea.net、CC BY-SA 2.0)

日本から見た京元線

朝鮮半島の鉄道網は、日本統治期に敷かれた京義線や京元線を骨格として組み上げられ、南北分断でそれぞれ途中から先が使えなくなった。京元線の復旧は、その切れ目の一つを韓国側だけで埋める作業にとどまる。それでも、東アジアの陸上輸送路がどこで途切れたままなのかを確かめる材料にはなる。北朝鮮の核実験やミサイル発射、対外姿勢は朝鮮半島にとどまらず、周辺の軍事・外交バランスを動かしてきた。

焦点は、復旧工事の完工時期と総事業費を統一省がいつ示すか、そして北朝鮮が公式に反応するかどうかに移る。南北関係が最も冷え込んだ局面で韓国が線路の復旧に踏み切った判断は、反応の有無にかかわらず「つなぐための土台」を残す選択だった。

よくある質問

京元線とはどの路線か
ソウルを起点とする韓国でも古い路線の一つで、日本統治期の1914年に龍山と元山を結ぶ路線として全通した。南北分断後、非武装地帯(DMZ)付近の区間が断たれたままになっている。

今回再開する工事の規模は
韓国統一省が再開を発表したのはDMZ付近の分断区間の復旧工事で、北朝鮮との接続の可能性を残すこと、周辺の生態観光地へのアクセス改善、国境地域の経済活性化を目的に挙げている。総事業費と完工時期の具体的な数字は、発表の時点で公表されていない

なぜ2016年に中断したのか
2015年に始まった工事は、翌年の北朝鮮による核実験とミサイル発射で南北関係が急速に悪化したことを受けて棚上げされた。再開まで10年近く空いた。

北朝鮮は反応しているか
韓国が再開を発表した時点で、北朝鮮当局は公式な反応を示していない。北朝鮮は2024年に南北をつなぐ国境の道路と鉄道を爆破し、憲法を改正して韓国を敵対国と規定している。