ハンガリー唯一のパクシュ(Paks)原子力発電所は、ドナウ川の記録的な低水位により、定格約2000メガワットのうち240メガワットだけを発電する状態まで出力を落とした。政府は44年の運転史で初めて全面停止すると予告したが、技術者が最後のタービン発電機1台の運転を維持し、8月3日時点で停止は当面回避された。

全面停止は予告 実際には240メガワットを維持

AP通信は8月3日、同原発が通常の2000メガワットに対して240メガワットを発電し、技術者が最後のタービンを動かし続けたため、週末に見込まれた全面停止を回避したと報じた。240メガワットは定格出力の12%に当たる。

7月31日から8月2日にかけての報道には「全面停止する」「日曜日に停止する」との表現があるが、いずれも政府側の予定または見通しだった。実績を示す8月3日の続報を優先すると、確認できるのは大幅に減出力しながら運転をつないだことまでである。

7月27日から段階的に減出力

運営会社MVM Paksi Atomerőmű Zrt.は7月27日、パクシュのドナウ川水位が基準面からマイナス106センチとなって過去最低を更新し、同日午後9時45分から1号機の出力を254メガワット下げると発表した

翌28日には水位がマイナス112センチへ下がり、運営会社は同日午後8時から3号機も237メガワット減出力した。複数の原子炉とタービン発電機を一度に止めたのではなく、水位の低下に合わせて発電能力を段階的に絞った。

AP通信が7月31日に報じた時点では出力は965メガワットで、ペーテル・マジャル(Péter Magyar)首相は水位がマイナス144センチまで下がる可能性を示し、マイナス134センチを全面停止の目安と説明した。従来の最低記録は2018年のマイナス98センチだった

ここでいう負の水位は、水位計の基準面より低いことを示す値で、川底から水面までの深さではない。マイナス144センチも7月31日時点の予測であり、実測値としては扱えない。

干上がって亀裂の入った川床(イメージ)

低水位で取水ポンプに制約

パクシュ原発は原子炉4基を持ち、定格出力は計2000メガワットで、通常はハンガリー国内の発電量の半分近くを担う。1号機は1982年12月に送電を始め、4号機までが1987年にそろった

原発はドナウ川から水を取り込み、発電設備の冷却に使う。低水位になると、川に水が残っていても取水ポンプが必要な量をくみ上げにくくなる。7月末からの減出力は、原子炉そのものの事故ではなく、冷却水を取り込む条件が悪化したことへの運転上の対応である。

ハンガリー原子力庁は7月19日、平均より流量が最大90%少ない場合や水温が高い場合でも、冷却を維持する技術と予備能力があると説明した。発電を止めることと冷却機能を失うことは同じではない。ただし、この説明は記録更新前のもので、8月3日の運転状態を個別に検証した発表ではない。

発電量の半分近く、消費量では約3分の1

AP通信は、パクシュ原発が通常は国内発電量の半分近く、国内消費量の約3分の1を担い、ハンガリーが減出力分を周辺国からの輸入と再生可能エネルギーで補ったと報じた。二つの比率は、国内で発電した電力量と、輸入分を含む消費電力量で分母が異なる。

政府は大口の産業利用者に節電を求め、家庭にも午後5時から10時のピーク時間帯の使用を抑えるよう要請した。電気機関車による貨物輸送もピーク時に止め、1日70〜90メガワット時の節電を見込んだ。8月3日の発表では、前日の使用量が700メガワット減ったとされた。

安全報告書が挙げていた流域渇水

ハンガリー原子力庁が2026年にまとめた安全報告書は、パクシュ周辺だけの少雨より、広いドナウ川流域で長期の渇水が続くことが水位を下げ、冷却水の確保を脅かしうると記している。河床形状の変化も水位を大きく変える要因に挙げた

EUのコペルニクス気候変動サービスによると、欧州の昇温速度は1980年代以降、世界平均の2倍を上回り、1990年代半ば以降は10年当たり約0.53度上昇した。長期的な昇温は高温と渇水への備えを迫る背景だが、今回の水位低下を気候変動だけで説明する材料にはならない。降水、上流の流況、河床、取水設備を合わせた検証が要る。

山間部の森林火災現場で放水する消防隊員(イメージ)

日本向け公表資料には空白

日本政府が今回の減出力、全面停止の予告、8月3日の停止回避を独自に検証した公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。本稿の運転状況と水位は、ハンガリーの運営会社と原子力規制当局の資料、AP通信の現地報道に基づく。全面停止が実施されたとの日本語情報を読む際は、予告時点の記事か、運転実績を確認した続報かを区別する必要がある。

よくある質問

パクシュ原発は全面停止したのか
8月3日時点では全面停止していない。出力は通常の2000メガワットから240メガワットまで落ちたが、最後のタービン1台が運転を続け、週末に予想された停止は当面回避された。

水位が下がるとなぜ原発の出力を落とすのか
パクシュ原発はドナウ川から冷却用の水を取る。水位が下がると取水ポンプが必要量をくみ上げにくくなるため、運営会社は水位に合わせて原子炉と発電設備の出力を段階的に下げた。

マイナス144センチまで下がったのか
マイナス144センチは7月31日時点の予測で、実測値ではない。本文で運営会社の発表から確認した値は7月27日のマイナス106センチ、28日のマイナス112センチで、いずれも水位計の基準面に対する値である。

パクシュ原発の原子炉は2基か4基か
原子炉は4基である。8月初めの報道に出る「最後の2基」や「最後のタービン」は、段階的な停止後になお発電していた設備を指し、発電所全体の原子炉数ではない。

ハンガリーの電力に占める割合はどの程度か
通常時は国内発電量の半分近く、輸入を含む国内消費量の約3分の1である。全面停止を回避しても出力は12%まで落ちており、政府は輸入と再生可能エネルギー、大口需要家の節電で不足分を補った。