化学眼外傷は、洗剤や漂白剤、消毒剤などが目の表面に触れて生じる損傷だ。製品の液性、濃度、入った量、接触時間で危険度が変わるため、赤みの強さだけで安全とは判断できない。

初動は製品名の検索ではなく、清潔な流水による洗眼である。日本眼科学会は、化学物質が目に入ったら、その場でなるべく早く、目を開けたまま水道水などの流水で10分以上洗い、終了後ただちに眼科を受診するよう示している。接触時間が長いほど重症になりうるため、受診先や製品情報を調べる間も水を止めない。

日本中毒情報センターは、酸性・アルカリ性の洗浄剤や塩素系漂白剤が目に入った場合、弱い流水で10分以上洗ってすぐ眼科を受診し、中性など刺激の弱い洗剤でも痛みや充血が残れば受診するよう案内している。成分が分からない場合は軽い製品と決めつけず、洗いながら医療機関か中毒110番へ相談する。

砂やまつ毛と化学物質では対応が異なる。別稿「目に異物が入ったらこすらず洗眼」は、砂や取れない異物、破損したコンタクトレンズの扱いを整理しているが、薬品が入った時は異物が見えなくても直ちに流水を当てる。

洗眼しながら受診を急ぐ警告サイン

強い酸性・アルカリ性の洗浄剤、塩素系漂白剤、カビ取り剤、排水パイプ用洗浄剤が入った、または製品や量が分からない。 洗眼を続け、すぐ眼科か救急外来へ連絡する。容器やラベルは同行者が確保し、本人は探すために洗眼を止めない。

急に二重に見える、目がかすむ、見えにくい、または突然激しく痛む。 東京消防庁の救急受診ガイドは、急な複視、かすみ、視力低下、突然の激しい眼痛がある場合に救急車を呼ぶよう示している。洗眼を続けながら119番へ連絡する。

光がひどくまぶしい、頭痛や吐き気・嘔吐がある、目を開け続けられない、眼球を動かせない、血や膿が出る。 NHSは、強い化学物質の混入に加え、こうした症状を救急診療の対象に挙げ、待機中も洗眼を続けるよう示している。自分で運転せず、同行者か救急搬送を手配する。

救急外来で医療従事者が患者の目を確認する様子(イメージ)

洗眼の手順──製品確認より水を先に

1 曝露源から離れ、直ちに水を当てる。 揮発した薬品を吸い込む場所や噴霧が続く場所から安全に離れ、蛇口、シャワー、清潔なボトル水を使う。水は熱くせず、水圧を弱くする。日本赤十字社は、近くの人に助けを求め、洗剤、漂白剤、カビ取り剤などが入った目を患側を下にして最低10分洗い、こすらず、洗眼開始と同時に眼科へ連絡するよう案内している

2 まぶたを開き、患側を下に向ける。 頭を薬品が入った側へ傾け、反対の目へ洗浄水が入らない向きにする。痛みで閉じてしまう場合は、周囲の人に手伝ってもらい、眼球を押さえずにまぶたを開く。

3 まず10分以上、強い薬品や成分不明なら20分以上を目安に続ける。 国内資料と海外資料で時間に幅がある。日本中毒情報センターは家庭用洗浄剤に10分以上を示す一方、NHSは清潔で熱くない水を少なくとも20分当てるとしている。強い製品、成分不明、大量の曝露では20分で打ち切らず、製品表示、中毒110番、救急隊や医療機関の指示に従う。

4 コンタクトレンズは、洗眼を止めずに外せる時だけ外す。 簡単に外れなければ引っ張らず、そのまま洗い続ける。日本中毒情報センターは、除菌剤や消毒剤が目に入ったら、こすらず直ちに洗い、洗眼後も痛みや充血がある、洗眼が難しい、コンタクトレンズが外れない場合は医療機関を受診し、判断に迷えば中毒110番へ相談するよう案内している

5 受診準備は周囲の人に頼む。 製品容器、ラベル、入った時刻、コンタクトレンズの有無、実施した手当、症状の変化をそろえる。受診先を探す間も洗眼は続ける。

洗面台で頭を患側へ傾けて流水で目を洗う手順(イメージ)

酢や重曹で中和せず、こすらない

酢、重曹、酸性・アルカリ性の液体を入れない。 カナダ労働安全衛生センターは、酸をアルカリで、またはアルカリを酸で中和しようとすると、洗眼開始の遅れ、反応熱、使った中和剤による追加損傷が起こりうるため、特別な液体を探さず水で洗い始めるよう示している

目をこすらず、強い水流を眼球へ当てない。 まぶたを開く時も眼球を押さえつけない。タオルで拭く、指や綿棒で残留物を探す、洗眼後すぐコンタクトレンズを着け直すといった操作も避ける。

検索、撮影、点眼薬探しを洗眼より先にしない。 製品情報は診療に役立つが、確認は同行者に任せる。洗眼と眼科への連絡を始めた後で、容器とラベルを準備する。

熱湯や火による皮膚のやけどとは、洗う目的も受診先も同じではない。別稿「やけど直後は流水で10分以上冷却」は熱による皮膚損傷の冷却と受診判断を扱う。その手順を目の化学損傷へ置き換えず、本稿の洗眼と眼科受診を優先する。

洗面台のそばに置かれた酢と重曹を使わないよう示すイラスト(イメージ)

子ども、妊婦、持病や常用薬のある人

子ども。 泣いて目を閉じ、洗眼を続けにくい場合は、別の大人が受診先への連絡と製品確認を担う。洗眼が難しいこと自体が日本中毒情報センターの受診条件に含まれるため、家庭で何度もやり直さず、流水を当てながら医療機関へつなぐ。日本小児科学会の「こどもの救急」は、消毒液やトイレ洗浄液などの化学品が子どもの目に入った場合を受診対象に挙げている

妊婦。 妊娠を理由に洗眼を遅らせない。妊婦に固有の家庭での洗眼時間や姿勢を示す国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。一般の初動を行った後に医師へ相談し、妊娠中であることを伝える。

慢性疾患や常用薬のある人。 初動は流水による洗眼で変わらない。病気や薬ごとに異なる家庭処置を示す国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。持病と薬の一覧を受診先へ伝え、その後の処置は医師の判断に従う。

大人が子どもの目を流水で洗う手順を示したイラスト(イメージ)

よくある質問

洗眼は10分と20分のどちらなのか
日本眼科学会と日本赤十字社は10分以上、NHSは20分以上を示している。まず直ちに始め、強い薬品、成分不明、大量の曝露では短い方の10分で止めず、少なくとも20分続ける。製品表示や連絡済みの医療側がさらに長い洗眼を指示した場合は、その指示に従う。

洗った後に痛みが消えれば受診しなくてよいのか
日本眼科学会は、化学物質が目に入った場合、10分以上の洗眼後ただちに眼科を受診するよう示している。痛みが弱まったことを、目の表面や内部に損傷がない根拠にはしない。

酢や重曹で中和してよいのか
使わない。酸性・アルカリ性の液体を足すと追加の損傷を招くおそれがあるため、清潔な水で洗眼を続ける。

コンタクトレンズが外れない時はどうするのか
洗眼を止めて無理に引っ張らない。水を当て続け、外れないことを医療機関へ伝えて受診する。