高齢者が頭を打った時は、観察する時間を決める前に、意識、呼吸、会話、手足の動き、歩き方を確認する。直後に普段どおり話せても、家庭で頭蓋内の損傷を否定する材料にはならない。

帰宅後の見守りは、医療機関が帰宅を認めた場合や、救急相談で自宅観察を案内された場合に始める。受傷時刻、転倒や衝突の状況、意識を失った時間、嘔吐、症状の変化、常用薬を先に記録する。

家族が高齢者のそばで意識と会話の状態を確認する様子(イメージ)

119番を急ぐ兆候──観察より先に確認

呼びかけに反応しない、呼吸が正常でない、目を開けていられない、けいれんが起きた場合は直ちに119番へ連絡する。激しくなる頭痛、繰り返す嘔吐、ろれつが回らない、会話がかみ合わない、片側を含む手足の脱力やしびれ、歩行やバランスの異常、見えにくさや複視、瞳孔の左右差、耳からの出血、耳や鼻からの透明な液体も救急要請を急ぐ兆候だ。

東京消防庁の救急受診ガイドは、頭を打った後の意識消失、嘔吐、手足の脱力やしびれ、記憶の欠落、反応低下、複視、増悪する頭痛、ふらつき、意識混濁、耳からの出血、けいれんを救急車要請の兆候に挙げている。救急隊を待つ間は、保険証、診察券、お薬手帳を用意し、事故の状況と救急隊到着までの変化を伝える。

頭部を打った高齢者の異変に気づき、家族が電話で救急要請する様子(イメージ)

抗凝固薬・抗血小板薬は症状を待たず相談

抗凝固薬や抗血小板薬を使っている人は、こぶが小さい、出血が見えない、本人が痛みを訴えないといった理由で自宅観察へ移らない。薬名と最後に服用した時刻を確認し、119番の兆候があれば救急要請する。兆候がなくても、英国NHSは血液を固まりにくくする病気や薬がある人を頭部外傷後の緊急相談の対象としている

国立長寿医療研究センターは、抗凝固薬を使う高齢者が頭を打った場合は医療機関の受診を勧め、初期の症状や検査に異常がなくても数日から数カ月後に症状が出る場合があるとしている米疾病対策センター(CDC)の2025年更新資料は、転倒や交通事故に遭った高齢者では外傷性脳損傷の症状を確認し、抗凝固薬や抗血小板薬を使う人では特に注意するよう医療者へ求めている

薬の休止や再開は家庭で決めない。厚生労働省は、薬の種類によっては自己判断で急に中止すると危険な場合があるため、先に医師や薬剤師へ相談するよう案内している

帰宅後24時間──付き添いと睡眠

ここからは、医療者が帰宅後の観察でよいと判断した人に限る。英国NHSの2025年更新資料は、軽い頭部外傷で帰宅した後の最初の24時間は成人が付き添い、疲れている人を眠らせずにおく必要はなく、腫れには布で包んだ冷却材を短時間当てるとしている。医療機関から起こす時刻や再受診の条件を個別に指示された場合は、その内容を優先する。

付き添う人は、起きている時間の会話、両手足の動き、歩行、見え方、頭痛、吐き気、普段との違いを時刻とともに残す。認知症や難聴がある人では、一般的な質問への正答数より、受傷前を知る家族や介護職が会話、食事、移動、介助量の変化を比べる。

家族がベッドで休む高齢者に付き添い、反応を見守る様子(イメージ)

自宅で行う手当と受診準備

  1. 局所の腫れ:皮膚の傷がなく、救急の兆候もない場合は、冷却材をタオルで包んで短時間当てる。強く押したり、こぶをもんだりしない。
  2. 頭と首:首の痛みや手足のしびれがあり、頸部の損傷が疑われる場合は、歩かせたり、曲がった首を戻したりしない。消防庁の応急手当WEB講習は、頭を引っ張ったり首を元の向きへ戻したりせず、その位置で安静に保つよう説明している
  3. 記録:受傷時刻、ぶつけた部位、転倒の原因、意識消失、嘔吐、症状の順序、持病、処方薬と市販薬をまとめる。お薬手帳または薬の現物も用意する。
  4. 移動:救急の兆候がある人を本人の運転や単独歩行で受診させない。119番で救急隊の指示を受ける。
タオルで包んだ冷却材を高齢者の頭部の腫れに当てる様子(イメージ) 家族が高齢者の常用薬と頭部を打った後の記録を整理する様子(イメージ)

24時間を過ぎた後──歩行と反応の変化

24時間は付き添いを置く期間であり、過ぎれば安全が確定する期限ではない。国立長寿医療研究センターは、慢性硬膜下血腫を頭部打撲の1〜2カ月後に頭蓋骨と脳の間へ血液がたまる病気と説明し、高齢者に多いとしている

同センターのQ&Aは、歩行障害、手足の麻痺、ぼんやりした様子、思考力の低下がゆっくり表れ、頭を打ってから数カ月かかる場合もあると説明している。新たに転びやすくなった、片側の手足が動かしにくい、返答が遅い、日中の眠気が増えた場合は、加齢や認知症のためと決めつけず、受傷日を伝えて受診する。急に歩けない、会話が成立しない、片側の手足に力が入らない場合は119番へ切り替える。

転倒して頭を打った高齢者を家族が動かさずに見守る様子(イメージ)

小児・妊娠中・持病や常用薬がある人

小児。 高齢者向けの観察項目をそのまま使わない。こども家庭庁は、子どもの頭部打撲で意識がない、出血がひどい、繰り返し嘔吐する場合は救急車または至急受診とし、意識があり元気でも1〜2日は安静に経過を見るよう案内している。乳幼児は症状を言葉で伝えにくいため、年齢と受傷状況を伝えて小児の救急相談または医療機関に判断を仰ぐ。

妊娠中の人。 頭部の救急兆候は同じ順序で確認し、妊娠週数と転倒の状況を受診先へ伝える。日本産婦人科医会は、腹部への直接外傷がなくても尻もちや転倒で子宮収縮や外傷性胎盤早期剝離が生じる場合があり、破水、腹痛、性器出血を緊急治療が必要な所見に挙げている

持病や常用薬がある人。 高齢者一般の手順を自分に当てはめてよいかを本人や家族だけで決めない。診断されている病気、受傷前からの歩行や認知面の状態、処方薬、市販薬、サプリメントの一覧を医療者へ示し、服薬を自己調整しない。

家族が医師へ高齢者の頭部打撲と常用薬を説明する様子(イメージ)

救急車を呼ぶか迷う場合

反応、呼吸、会話、手足の動きに異常があれば相談を待たず119番へ連絡する。明らかな119番の兆候はないが、受診の緊急性を判断できない場合は、実施地域の救急安心センター♯7119を使う。総務省消防庁は、♯7119では医師、看護師、救急救命士が受診と救急要請を電話で助言し、緊急性が高い時は119番への転送やかけ直しを案内すると説明している。実施地域と受付時間は消防庁の一覧で確認する。

よくある質問

頭を打った後は24時間起こし続けるのか
医療者が帰宅を認めた後は、疲れていれば休める。最初の24時間は成人が付き添い、異常な眠気、起こしても反応しない状態、呼吸や会話の変化を見逃さない。起こす時刻を医療者から指定された場合は、その指示に従う。

24時間たてば観察を終えてよいのか
24時間は帰宅直後の付き添い期間であり、安全期限ではない。歩行、手足、反応、思考の変化が1〜2カ月後や数カ月後に表れる場合があるため、変化が出た時は受傷日と経過を医療機関へ伝える。

抗凝固薬や抗血小板薬は先に止めるのか
本人や家族の判断では止めない。薬名、最後に服用した時刻、処方理由を医療者へ伝え、休薬と再開は診察した医師の指示に従う。