歯科インプラントは、顎骨に埋めるインプラント体、支台となるアバットメント、歯冠にあたる上部構造を組み合わせる欠損補綴である。費用を比べる際は、一つの人工歯の値段ではなく、検査、手術、補綴物、骨造成の有無、治療後の管理まで同じ範囲で見なければならない。

歯科診察室の机に置かれたインプラント体、アバットメント、上部構造の模型(イメージ)

見積書を三つの部品と治療工程に分ける

日本歯科医師会は、インプラントを顎骨内のインプラント体、その上のアバットメント、人工歯である上部構造の三つを基本とする治療と説明している。インプラント体とアバットメントが一体の製品もあるため、見積書の項目数が違うからといって治療内容まで違うとは限らない。

費用の範囲は、初診と画像検査、手術、インプラント体、アバットメント、仮歯、上部構造、必要な骨造成、治療後のメインテナンスに分けて確認する。日本歯科医師会も、CT検査や臨床検査、手術費、上部構造の製作費に加え、メインテナンス料やトラブル時の料金まで治療前に確認する必要があるとしている。総額だけの表示では、仮歯や骨造成、再製作が含まれるか判断しにくい。

受診を急ぐ症状──しびれ、腫れ、排膿、動揺

埋入手術後に唇や顎へ新たなしびれ・感覚低下が出た場合は、処置した歯科医療機関へ速やかに連絡する。腫れが増す、膿が出る、インプラントや上部構造が動く場合も、予定された定期受診を待たずに診察を受ける。厚生労働省の治療指針は、神経に接するインプラント体には速やかな対応が必要で、排膿や動揺をメインテナンス時の確認項目に挙げている

インプラント体と上部構造 材料名だけで順位はつかない

インプラント体には主にチタンまたはチタン合金が使われ、アバットメントにはチタン、チタン合金、ジルコニアなどがある。上部構造はセラミック、レジン、両者を組み合わせた材料、金合金など選択肢が広い。骨や歯肉の状態、埋入位置、かみ合わせ、清掃のしやすさ、修理方法を合わせて治療計画が決まるため、材料名や製造国だけを成功率の代わりには使えない。

歯冠材料では、金属のフレームに陶材を焼き付ける金属焼付陶材冠と、金属を使わないセラミック冠で構造が異なる。日本歯科医師会の解説によると、ジルコニアは高強度のセラミックとして大臼歯にも使われ、金属焼付陶材冠は陶材の審美性と金属の強度を組み合わせた修復物である。これは材料の一般的な特徴であり、特定の口腔内でどちらが適するかを決める情報ではない。見積書では商品名より先に、上部構造の材料、固定方法、破損時の修理や交換の扱いを確かめる。

骨造成が加わると工程が増える

インプラント体を支える骨量や骨質が足りないと判断された場合、骨移植、骨造成(Guided Bone Regeneration、GBR)、上顎洞底挙上術などが検討される。厚生労働省の治療指針は、画像検査で骨の形態や神経・上顎洞との位置関係を把握し、骨量が不足する症例ではGBRや上顎洞底挙上術を検討するとしている。追加の手術と治癒期間を伴うため、見積書では処置名、材料費、再検査、インプラント埋入との実施順を分けて確認する必要がある。

糖尿病の管理状況、喫煙、歯周病、骨粗しょう症の治療薬、抗凝固薬・抗血小板薬などは、手術や治癒の計画に影響しうる。小児、妊娠中の人、持病がある人、常用薬がある人は一般成人と同じ前提を当てはめず、歯科医師に伝え、必要に応じて主治医との連携を確認する。

日本の保険適用は原則外、例外は限られる

厚生労働省東北厚生局の歯科医療資料は、欠損補綴としてのインプラントを原則として保険適用外の自費診療と説明している。一方、がんなどによる広範な顎骨欠損や一部の先天性疾患では、症例と医療機関の施設基準を満たす場合に保険診療となる例外がある。通常の欠損補綴を対象にした自費価格には全国一律の公定額がなく、材料別・術式別の全国相場を示す公的資料も本稿の執筆時点で確認できていない。

治療前には、インプラント以外の選択肢も同じ診断資料で比べる。欠損部位や残存歯の状態によってはブリッジや部分入れ歯が候補となり、保存可能な歯なら抜歯を前提にせず根管治療や歯周治療を含む保存の可否を確かめる。手術の有無、隣の歯への処置、着脱性、清掃、修理、通院期間、総費用という軸で比較すると、価格だけの選択を避けやすい。

歯科診察室の画面に映る、顎骨へ埋入されたインプラント体のエックス線画像(イメージ)

製品と見積書で確認する項目

インプラント体は医療機器であり、確認すべきなのは「高級」「海外製」といった表示ではなく、販売名、製造販売業者、承認または認証の情報である。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、販売名、一般的名称、企業名などから医療機器の添付文書等を調べる検索画面を公開している。治療を受ける医療機関に製品情報を尋ね、提示された名称と番号を記録しておけば、将来のメインテナンスや転院時にも使える。

見積書では、①検査と診断、②インプラント体とアバットメント、③仮歯と上部構造、④骨造成などの追加手術、⑤麻酔、⑥治療後の検査と清掃、⑦破損・脱落時の再製作、の七項目をそろえる。同じ項目を含む見積もり同士でなければ、総額の高低は比較材料にならない。説明を受けた治療範囲と見積書の範囲が一致しない場合は、契約前に書面で確認する。

上部構造を入れた後も費用と管理は続く

インプラントはむし歯にはならないが、周囲の粘膜と骨には炎症が起こる。日本歯周病学会は、インプラント周囲炎の兆候として粘膜の腫れや出血、排膿、根元の露出、動揺を挙げ、痛みを伴わず進む場合があると説明している。日常の清掃と歯科での定期的な確認は、付随サービスではなく治療計画の一部である。

厚生労働省の治療指針も、周囲粘膜炎と周囲炎の早期発見、かみ合わせ、出血、排膿、動揺、エックス線画像の確認をメインテナンスの目的と項目に位置づけている。上部構造や固定用スクリューの破損、清掃処置、再製作が将来どの費用区分になるかは、最初の見積書と保証条件で確かめておく。

よくある質問

高価なインプラント体ほど長持ちするのか
価格だけでは判断できない。材料と表面処理は製品ごとに異なるが、骨量・骨質、歯周病、かみ合わせ、喫煙、清掃、メインテナンスも経過に関わる。治療成績を個人について保証する材料価格の基準はない。

見積書で最初に見る項目は何か
総額に含まれる範囲である。CTなどの検査、手術、インプラント体、アバットメント、仮歯、上部構造、骨造成、術後管理、破損時の対応が含まれるかを分けて確認する。

インプラントは公的医療保険の対象になるのか
一般的な欠損補綴では原則として自費診療である。広範な顎骨欠損や一部の先天性疾患などには例外があり、症例と医療機関の施設基準を満たす必要がある。

治療後に痛みがなければ定期受診は不要か
不要とはいえない。インプラント周囲炎は痛みを伴わず進む場合があり、出血、排膿、動揺、骨の変化は歯科での検査が必要になる。メインテナンスの間隔は口腔内の状態に応じて歯科医師が決める。