米ユタ州で夫を殺害した罪などに問われたコーリ・リチンズ(Kouri Richins)被告は、2026年3月に全訴因で有罪となり、5月に仮釈放のない終身刑を言い渡された。弁護側は評決を取り消して新たな審理を開くよう求めると同時に、公判を担当したリチャード・ムラジック(Richard Mrazik)裁判官に偏りがあったとして、再審理申立ての判断から外すよう求めた。
忌避の是非を審理したカーラ・ペティット(Kara Pettit)裁判官は7月29日、請求は所定の21日以内に提出されておらず、ムラジック裁判官を手続から外すほどの偏見を裏づける事実も示されていないとして退けた。この判断が対象にしたのは裁判官の忌避であり、再審理申立て自体は7月30日の本稿公開時点で未決だった。
フェンタニルを混ぜた飲み物、全訴因で有罪
検察によると、リチンズ被告は2022年3月、パークシティ近郊の自宅で夫エリック・リチンズさんが飲むカクテル「モスコミュール」にフェンタニルを混ぜて死亡させた。AP通信は、混入したフェンタニルは致死量の約5倍で、陪審が加重殺人のほか、加重殺人未遂、保険金詐欺、偽造を含む計5件の重罪で有罪としたと報じている。殺人未遂は、死亡の数週間前にフェンタニルを入れたサンドイッチで夫を殺害しようとしたとされる行為をめぐる訴因だった。
陪審は3月16日、約3時間の評議を経て加重殺人、加重殺人未遂、偽造、保険金詐欺2件の全訴因で有罪評決を出した。ムラジック裁判官は5月13日、仮釈放のない終身刑を言い渡した。リチンズ被告は無実を主張し、有罪評決と量刑を不服として争う意向を示している。
再審理申立て──弁護側は法廷での偏りを主張
弁護側が6月30日に提出した申立ては、公判手続の不規則性と複数の誤りが重なった結果、公正な裁判を受ける権利が損なわれたと主張した。申立書は、ムラジック裁判官が陪審の前で弁護側に繰り返し割って入り、弁護人に対して批判的、敵対的に振る舞う一方、検察側を助けるように議論を言い換えたと訴えている。
もう一つの争点は、過去の金融不正に関する証拠の範囲だった。弁護側は、不渡り小切手や虚偽の銀行書類、貸し手とのやり取りなどを検察が広く示したため、裁判前に定めた証拠の範囲を超えて被告に不当な不利益を与えたと主張した。これらは弁護側の主張であり、今回の忌避判断が有罪評決や証拠採用の適否を覆したわけではない。
担当裁判官は忌避判断を別の裁判官へ
ムラジック裁判官は7月1日、偏りを指摘された当事者である自分が忌避の是非を判断することは利益相反を生むとして、その判断を別の裁判官に委ねた。KPCWは、ムラジック裁判官が適正手続を確保する必要性を理由に、リチンズ被告による忌避要求の判断から退いたと報じた。事件全体から恒久的に外れたとの決定ではなかった。
忌避請求は期限徒過、偏見の根拠も不足
ペティット裁判官は、弁護側が問題視した言動は3月16日までの公判中に起きており、6月30日の請求は21日の期限を過ぎていたと判断した。請求に必要な誠実な申立てであることの証明や、偏見を示す事実を記した宣誓供述書も添えられていなかった。
判断は実質面にも及んだ。ペティット裁判官は、公判映像と記録にあるムラジック裁判官の言動が、弁護側への怒りや不満と受け取れるとしても、それだけでは忌避の理由にならないとした。公平な判断が不可能になるほど検察への肩入れや弁護側への敵意が深かったとは認めなかった。
このためムラジック裁判官は事件を引き続き担当する。もっとも、忌避請求の棄却と、新たな審理を開くかどうかは別の判断だ。7月30日時点では後者への決定は示されておらず、リチンズ被告に再審理が認められるかはなお確定していなかった。
よくある質問
リチンズ被告に言い渡された刑は何か
加重殺人について仮釈放のない終身刑が言い渡された。加重殺人未遂、保険金詐欺2件、偽造についても有罪となっている。
なぜ担当裁判官の忌避を求めたのか
弁護側は、ムラジック裁判官が陪審の前で弁護側に批判的、敵対的な態度を示し、検察側に有利な進行をしたと主張した。
忌避請求が退けられた理由は何か
ペティット裁判官は、請求が21日の期限を過ぎ、必要書類にも不備があり、裁判官を外すほどの偏見を示す証拠も不足していると判断した。
新たな審理は決まったのか
7月30日の本稿公開時点では決まっていない。棄却されたのはムラジック裁判官への忌避請求であり、再審理申立て自体には別の判断が必要となる。
出典・参考資料
- Court rejects request to disqualify judge in Kouri Richins murder case(WGME)ペティット裁判官が忌避請求を期限徒過、手続上の不備、根拠不足により退けたことと、再審理申立て自体が未決だったことを伝える
- Kouri Richins, author of a children’s book on grief, gets life sentence for killing her husband(AP)有罪となった訴因、フェンタニルの量、仮釈放のない終身刑、弁護側の上訴方針を報じる
- Utah mother Kouri Richins found guilty of murdering husband, Eric Richins(KUTV)陪審が約3時間の評議を経て全訴因で有罪評決を出したことを伝える
- Convicted murderer Kouri Richins seeks a new trial(KSL.com)弁護側が主張した裁判官の偏り、金融不正の証拠による不当な不利益、累積的な誤りを説明する
- Summit County judge over Kouri Richins case recuses himself after re-trial request(KPCW)ムラジック裁判官が自身に対する忌避の判断を別の裁判官に委ねた経緯を伝える