ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は7月21日、オレクサンドル・シルスキー軍総司令官を解任し、ミハイロ・ドラパティ少将を後任に任命した。AP通信は、フェドロフ前国防相の復職とシルスキー氏の解任を求める抗議がキーウなど各都市で続いた後に人事が発表されたと報じた。
ゼレンスキー氏は一連の軍司令官との協議を経て決定したと説明した。新指揮部には軍団制改革の継続、武器と無人機の前線への迅速な供給、防空の強化、動員計画の明確化を含む防衛戦略の更新を求めた。
抗議の発端は国防相解任
街頭抗議は当初、軍の技術革新を進めてきたと評価されたミハイロ・フェドロフ国防相の解任に反発して始まった。フェドロフ氏とシルスキー氏の対立が解消できないとして、ゼレンスキー氏が就任6カ月の国防相を退かせたためだ。抗議参加者の要求はその後、シルスキー氏の解任と軍改革へ広がった。
シルスキー氏は、ソ連式と評される上意下達の指揮や、損失の大きい前線攻撃を巡って兵士や退役軍人から批判を受けていた。AP通信によると、抗議には兵士や退役軍人も加わり、空軍副司令官はフェドロフ氏の解任が防空を弱めるとして辞任した。参加者は数千人規模と報じられたが、都市別の統一的な人数は示されていない。
ドラパティ氏、前線経験と改革姿勢
後任のドラパティ氏は43歳で、就任前はハルキウ周辺の前線を担う統合部隊を率いた。The Kyiv Independentによると、ドラパティ氏は2004年にハルキウ戦車兵大学を卒業し、2014年のマリウポリで第72機械化旅団の大隊長として戦闘に参加した。2022年には南部作戦群の副司令官として、ロシア軍のクリビーリフ方面への進撃を阻止した。
同紙が取材した米外交政策研究所のロブ・リー上級研究員は、ドラパティ氏が部下に意見や必要な支援を尋ねる指揮官だと評価した。本人は陸軍司令官時代、恐怖による統率、現場からの意見を受け付けない体質、司令部と部隊の隔たりを組織上の問題に挙げていた。
訓練場攻撃後に辞任表明
ドラパティ氏の責任の取り方が注目されたのは2025年6月である。Euromaidan Pressは、ドニプロペトロウシク州の第239訓練場に対するロシア軍のミサイル攻撃で兵士12人が死亡し、60人超が負傷した後、ドラパティ氏が陸軍司令官の辞任を表明したと報じた。同氏は指揮官の行動、避難施設の状態、警報の有効性を調べるよう指示した。
死傷者数と調査内容はウクライナ側の発表に基づく。戦時下のため、攻撃時の部隊配置や警報後の対応を第三者が全面的に検証した資料は公表されていない。
前任者の戦功を評価、改革の成否は未定
Euronewsによると、ゼレンスキー氏は解任に際し、シルスキー氏がキーウ防衛、ハルキウ反攻、クルスク作戦でウクライナの成功を支えたと述べた。人事は過去の指揮実績を否定する形ではなく、抗議で表面化した軍組織への不信に対応し、新しい戦略を求める判断と位置づけられる。
総司令官の交代だけで、意思決定の速度、現場からの報告経路、兵員の損耗を抑える運用が変わるとは限らない。改革の成否は、新戦略の内容と前線での実施を分けて検証する必要がある。日本の外務省と防衛省が今回の人事に関する独自の評価を公表したことは、本稿の執筆時点で確認できていない。
関連する前線の状況は、キーウ防空で表面化した迎撃弾不足と、黒海沿岸で続く無人機攻撃と商船被害でも伝えている。
よくある質問
ウクライナ軍の新しい総司令官は誰か
ミハイロ・ドラパティ少将である。就任時43歳で、直前までハルキウ周辺の前線を担う統合部隊を率いていた。
抗議はなぜ始まったのか
直接の契機はフェドロフ国防相の解任である。抗議は同氏の復職を求める動きから、シルスキー氏の解任と軍改革を求める動きへ広がった。
シルスキー氏の実績はどう評価されたのか
ゼレンスキー氏は、キーウ防衛、ハルキウ反攻、クルスク作戦での功績を挙げた。一方、旧来型の指揮や兵員損失を巡る批判が抗議で強まった。
出典・参考資料
- Ukraine's Zelenskyy fires military chief Syrskyi, names a replacement(AP通信)総司令官交代、抗議の経緯、両氏への評価と新指揮部への課題を伝えた現地報道
- Zelenskyy replaces Oleksandr Syrskyi with Mykhailo Drapatyi as Ukraine's commander-in-chief(Euronews)ゼレンスキー大統領の発言、シルスキー氏の戦歴、ドラパティ氏の直近の役職を確認した報道
- Who is Mykhailo Drapatyi, Ukraine’s new commander in chief?(The Kyiv Independent)ドラパティ氏の経歴、指揮姿勢、軍組織の課題を扱った人物紹介
- Ukrainian Ground Forces commander quits after training base attack kills 12 and injures 60 troops(Euromaidan Press)2025年6月の訓練場攻撃とドラパティ氏の辞任表明、調査項目を伝えた報道