英国のアンディ・バーナム(Andy Burnham)首相は、スージー・ワイルズ(Susie Wiles)米大統領首席補佐官を装う人物と短いメッセージを交わし、相手への疑念を抱いた後に当局へ報告した。英国政府の公式略歴によると、バーナム氏は2026年7月20日に首相へ就任した。就任から約1カ月で、英米首脳部の連絡を装った接触が表面化した。

短いやり取りの後に報告

AP通信によると、最初に事件を伝えたPOLITICOは匿名の当局者4人を情報源とし、バーナム氏はワイルズ氏との連絡だと考えて応じた後、疑念を抱いてやり取りを打ち切った。英首相官邸は国家安全保障上の問題には回答しないとの立場を示した。

バーナム氏は8月18日、自ら経過を説明した。CNNによると、同氏は情報のやり取りはごく限られ、影響はなかったとしたうえで、不審だと気付いて速やかに報告したと述べた。相手と通話はしておらず、メッセージの時期、件数、通信サービスは明らかにしなかった。

英大使館が米側へ通報、接触経路は非公表

CNNによると、在ワシントン英国大使館は事件をホワイトハウスへ伝え、ホワイトハウスは今回の接触とワイルズ氏の端末侵害との関係を否定した。一方、相手がバーナム氏への連絡経路をどう得たのか、ワイルズ氏と結び付く情報をどこまで持っていたのかは公表されていない。

バーナム氏は自らの対応は適切だったと述べたが、英米当局が取った措置の内容は示さなかった。捜査主体、相手の身元、動機を記した公的な報告書も、本稿の執筆時点で確認できていない。公表資料と現地報道で確認できるのは、メッセージの往来、本人が抱いた疑念、英米当局への報告までである。

大統領首席補佐官──大統領府を束ねる役職

ホワイトハウスの首席補佐官(White House Chief of Staff)は、日本語では大統領首席補佐官と呼ばれる。ホワイトハウスの公式説明では、大統領直属の職員や行政管理予算局などで構成する大統領府(Executive Office of the President)を首席補佐官が監督し、大統領に近い補佐官がここに所属する。大統領に近い役職を名乗ることは、接触を正当なものに見せる材料になる。ただし、今回の相手がワイルズ氏を選んだ理由は明らかになっていない。

2025年にもワイルズ氏を装う連絡

ワイルズ氏の名前が使われた事件は今回が初めてではない。AP通信は2025年5月、米政府がワイルズ氏を装う人物からの電話とメッセージを調べ、議員、州知事、企業幹部らが連絡を受けたと報じた。連絡はワイルズ氏の番号からではなく、本人に似た声を聞いた受信者もいた。電話帳の情報が使われた可能性は報じられたが、取得経路は確定していない。

FBIは同じ2025年5月、4月以降に米政府高官を装うテキストメッセージとAI生成音声が確認され、信頼関係をつくった後に別の通信サービスへ誘導し、アカウント、情報、金銭を狙う手口があると警告した。この警告は個人名を挙げておらず、バーナム氏への接触が同じ実行者や手法によるものだと示す証拠は公表されていない。

英政界で続く外国要人のなりすまし

英政府高官が外国要人を装う人物から連絡を受けた前例もある。英外務省の発表を伝えたThe Guardianによると、デービッド・キャメロン外相は2024年、ペトロ・ポロシェンコ前ウクライナ大統領を名乗る人物とメッセージを交わし、短いビデオ通話にも応じたが、別人の連絡先を求められて疑念を抱き、応答を止めた。英外務省は映像の加工や悪用に備え、事件を公表した。

英国政府の国家安全保障組織ガイドは、2022年3月にもウクライナ首相を装う人物から英閣僚へ偽電話があり、英首相官邸がロシア国家による情報・影響工作と公に認定した事例を記録している。過去の事案は通話や映像の公開を通じた情報操作まで含んだ。今回のバーナム氏への接触は実行者も目的も不明で、過去の国家関与事案と同列には扱えない。

日本でも別の経路による確認を推奨

本人らしい表示名や連絡先だけで真偽を判断しない運用は、日本の組織にも共通する。情報処理推進機構(IPA)は2026年3月、実在する社長や会社をかたるメールへの相談が2025年12月16日から2026年3月10日までに106件寄せられたと公表し、送信元とされる人物へ確認するときは受信したメールに返信せず、電話など別の方法を使うよう示した

この考え方は、連絡してきた相手が示す経路から本人確認を切り離す手順である。バーナム氏は疑念を抱いて報告したと説明したが、どの段階で何が不審だと判断されたのか、既知の公式連絡先で照合したのかは公表していない。金銭の要求、リンクの送付、認証情報の入力を求める文面があったことを示す資料も確認できない。日本の首相や閣僚が外国要人を装う人物と直接メッセージを交わした同種事案について、日本政府が公表した資料も本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

メッセージに機密情報は含まれていたのか
バーナム氏はやり取りが限定的で影響はなかったと説明した。ただし全文は公表されておらず、説明を外部から検証する材料はない。

ワイルズ氏の端末が再び侵害されたのか
ホワイトハウスは今回の事件との関係を否定した。接触に使われた番号やアカウント、連絡先の入手経路を示す技術情報は公表されていない。

AIによる音声や映像の偽装が使われたのか
確認されていない。2025年の米政府高官なりすまし活動ではAI生成音声が使われたとFBIが警告したが、今回公表された接触はメッセージに限られ、通話や映像のやり取りはなかったと報じられている。

組織は要人を名乗る連絡をどう確認するのか
IPAは、受信した通信へそのまま返信せず、既知の電話番号など別の経路で本人を確認する手順を示している。英米当局が今回使った具体的な確認手順は明らかになっていない。