UBSの米国証券子会社が、過去の処分で指摘された外貨送金の監視不備を4年以上にわたって解消できていなかった。米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(Financial Crimes Enforcement Network、FinCEN)は8月3日、UBS Financial Services Inc.(UBSFS)が銀行秘密法(Bank Secrecy Act、BSA)に故意に違反したとして制裁金を科した。制裁額は1億2500万ドルで、FinCENがBSA違反を理由に証券会社へ科した金額として過去最大である

6万1500件超の外貨送金が監視対象から漏れる

FinCENの同意命令が対象とした期間は2019年1月1日から2023年6月30日までだ。この間、UBSFSは6万1500件を超える外貨送金、総額105億ドル超を適切に監視できなかったと認定された。自動監視システムの導入は当初の予定より遅れ、2021年3月に稼働した後も設定や試験の不備が残った。

旧来の手作業による管理も十分に機能しなかった。複数のシステムからデータを取り出し、表計算ファイルへ転記する工程は複雑で、送金と顧客口座を正しく結び付けられない記録が生じた。報告の作成頻度も低く、不審な取引を適時に調べる態勢になっていなかった。

金融監督機関の庁舎を思わせるオフィスビル(イメージ)

BSAが証券会社に求める管理

BSAは米国の反マネーロンダリング・テロ資金供与対策(Anti-Money Laundering and Countering the Financing of Terrorism、AML/CFT)の中核法だ。証券会社や先物取引業者には、顧客のリスクに応じた管理、取引の継続的な監視、疑わしい取引の報告(Suspicious Activity Report、SAR)などを求める。

今回の問題は送金システムだけではない。FinCENは、ロシアや中南米に関係する高リスク顧客について、資産の出所や汚職、詐欺、マネーロンダリングとの関係を指摘する報道を十分に検討しなかった事例を確認した。結果として数百件の疑わしい取引の報告が遅れ、捜査機関への情報提供に支障を与えたとした。

2018年の処分後も同じ不備

FinCENによるUBSFSへの処分は今回が2回目だ。2018年12月の処分では、外貨建て送金の重要情報を自動監視システムが取り込めず、疑わしい取引の報告に遅れが生じたなどとして1450万ドルの制裁金が科された

UBSFSは当時、2019年半ばまでに新システムを導入する方針をFinCENへ示していた。しかし実際の導入は2021年3月となり、欠陥の修正は2023年後半まで続いた。FinCENは、問題が解消していない事実を同社が自発的に開示せず、当局の追加調査で判明した点も処分判断に含めた。

1.25億ドルの内訳と条件付き免除

公表された1億2500万ドルは、四つの機関への支払いを単純に足した額ではない。同意命令によると、証券取引委員会(SEC)への2000万ドル、商品先物取引委員会(CFTC)への800万ドル、金融業規制機構(FINRA)への2000万ドルの計4800万ドルは、FinCENの制裁金から相殺される。UBSFSは米財務省へ6200万ドルを支払い、残る1500万ドルは2028年5月末が期限となる。

この1500万ドルには条件付きの免除枠がある。独立した第三者がAML態勢を評価し、UBSFSが勧告を実施したとFinCENが認めた場合、評価や改善に要した適格費用の範囲で最大1500万ドルが免除される。免除額はまだ決まっていない。

金銭制裁のほか、過去取引の再点検も命じられた。第三者は監視から漏れた取引を洗い直し、本来必要だったSARを特定する。別の独立評価では、顧客リスクの把握、取引監視、データ管理、問題発見後の是正手順を検証する。処分時点では、再点検で追加提出されるSARの件数は確定していない。

日本の規制とは別の米国処分

今回の処分対象は米国で証券・先物業務を手がけるUBSFSで、根拠法も米国のBSAだ。日本の金融機関には日本の法令と監督枠組みが適用される。金融庁は2026年7月の報告書で、所管する金融機関の基礎的なマネロン等リスク管理態勢は概ね整備されたとする一方、その実効性を維持し、高度化する段階にあると整理した

UBSFSの事例が示すのは、システムを導入したとの説明だけでは是正完了にならないという点だ。監視対象のデータが欠けずに取り込まれ、顧客情報と取引を結び付け、警告を適時に調査する運用まで検証される。日本の金融庁が今回の米国処分に関連する並行処分や調査を公表した資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

1億2500万ドルにSECなどの制裁金は含まれるのか
含まれる。SEC、CFTC、FINRAへの支払いは計4800万ドルで、FinCENの1億2500万ドルから相殺される。4機関の金額をさらに足す計算ではない。

6万1500件超の送金がすべて犯罪収益だったのか
そのような認定ではない。この数字は適切な監視を受けなかった外貨送金の件数で、FinCENが問題にしたのは取引の異常を検知し、必要な報告につなげる管理態勢の不備だ。

制裁金のうち1500万ドルはすでに免除されたのか
まだ免除されていない。独立評価の完了、勧告の実施、費用の適格性をFinCENが認めることが条件となる。