シリアで国際カード決済が再び動き始めた。Visaは8月26日、ダマスカスで実際の国際取引を試験し、MastercardとカタールのQNBグループは翌27日、15年超ぶりの国際カード決済を発表した。ただし、シリア中央銀行によると、サービスは全国を覆っていない。
二つの取引は、国際ブランド網、現地の加盟店端末、加盟店側の金融機関が再び接続したことを示す。全国の加盟店で通常利用できる状態や、日本発行カードの一律対応を示すものではない。8月24日の米国による「テロ支援国家」指定解除は事業環境を変えたが、対象別の制裁と銀行実務の課題は残る。
二つの初取引──Visaは試験、Mastercardは承認加盟店
Visaの8月26日付発表によると、同社はレバノンのFransabankを加盟店側の金融機関とし、シリアの決済技術会社Paymeraと連携して、ダマスカスで初の実取引を試験した。Visaはこの試験を、海外からの訪問者がシリアで同社カードを使う計画の出発点と位置づけた。発表は利用可能な加盟店数、対象地域、カードの種類、一般提供の開始日を示していない。
Mastercardの8月27日付発表は、QNBシリアが承認済みの適格加盟店の決済端末で、国外発行のMastercardを使った取引を処理し、シリアでは15年超ぶりの国際カード決済になったとしている。公表されたのは最初の1件で、同社も幅広い受け入れに向けた第一歩と表現した。加盟店の所在地や総数は明らかにしていない。
Visa側は「試験」、Mastercard側は「承認済み加盟店での最初の決済」と表現が異なる。どちらも決済基盤が動いたことを示すが、全国展開の完了を意味しない。
指定解除──カード導入の準備は数カ月前から
米財務省の8月24日付発表によると、米国務省は同日、シリアの「テロ支援国家」指定を解除した。1979年から続いた指定は、包括的な対シリア制裁が終了した後も、国際銀行や投資家が事業を検討する際の法律・法令順守上のリスクになっていた。
Reutersによると、シリア中央銀行は、カード導入に向けた技術、規制、法令順守の準備が数カ月前から進み、指定解除によって国際銀行と決済技術会社を取り巻く環境が改善したと説明した。中央銀行は、サービス開始を一つの政治決定だけに結び付ける見方を否定している。
指定解除後も対象別の制裁は残る
8月24日の発表も、制裁対象者が関わる取引や、別の規制で禁じられた行為まで自由になったとはしていない。国際カード網への再接続後も、銀行と決済会社には取引相手や資金経路を確認する実務が残る。
全国展開までに残るコルレス銀行と監督体制
カード表面にVisaやMastercardのロゴがあっても、現地側が承認した加盟店か、発行会社がその取引を承認するかによって結果は変わる。両社とシリア中央銀行は、利用可能な加盟店の総数や地域別の分布を公表しておらず、全国で一般利用へ移る時期も示していない。
日本発行カードの対応資料は未確認
日本語で公開されたVisa、Mastercardと国内カード会社の資料から、シリアで利用できる日本発行カードや発行会社の一覧は、本稿の執筆時点で確認できていない。「日本発行のVisaなら使える」「Mastercardなら必ず使える」とは判定できない。
これは日本発行カードがすべて利用不能だという断定ではない。今回の公式発表が示すのは、国外発行カードを受け付ける仕組みが承認済み加盟店で動いたことまでで、日本の各発行会社による承認範囲は別に確認する必要がある。
外務省は全土レベル4を継続
外務省の海外安全ホームページは、2025年4月11日更新のシリア危険情報を現在も有効とし、全土をレベル4の退避勧告に指定して、いかなる目的でも渡航を中止するよう求めている。同ページは、治安情勢が極めて流動的で、武力衝突、テロ、誘拐などの危険が続くと説明する。
国際カード決済の開始は、外務省の危険情報が引き下げられたことを意味しない。決済手段が増える見通しと、渡航の安全性は別の評価軸である。
次に確認すべき数字
最初の取引から日常利用へ移ったと判断する材料は、承認加盟店の数と所在地、受け付けるカードの種類と発行地域、取引量、全国展開の時期である。コルレス銀行関係の再構築がどこまで進むか、対象別制裁の確認を組み込んだ運用が定着するかも焦点になる。
現段階で確認できるのは、Visaの実取引試験と、Mastercard・QNBによる承認加盟店での最初の決済である。全国普及や日本発行カードの対応を示す数字は、まだ公表されていない。
よくある質問
シリアのどの店でもVisaやMastercardを使えるのか
使えるとは確認できない。両ブランドが発表したのは試験または承認済み加盟店での最初の取引で、シリア中央銀行も全国未展開としている。
日本で発行されたカードは使えるのか
ブランド名だけでは判断できない。日本発行カードの対応一覧は確認できず、現地加盟店の承認範囲と発行会社側の取引承認も関わる。
米国の指定解除ですべての制裁が終わったのか
終わっていない。包括的な対シリア制裁プログラムと「テロ支援国家」指定は解除されたが、旧アサド政権関係者やテロ組織関係者などへの対象別制裁は残る。
カード決済の開始でシリアへの渡航条件は変わったのか
外務省はシリア全土への危険レベル4を継続している。決済環境の変化を、治安上の危険が下がった根拠にはできない。
出典・参考資料
- Visa Announces International Card Payment in Syria(Visa)FransabankとPaymeraを介した8月26日の実取引試験、海外からの訪問者によるカード利用計画
- Syria marks first international card transaction in more than 15 years with Mastercard and QNB Group(Mastercard)QNBシリアの承認済み加盟店で処理した15年超ぶりの国際カード決済
- Visa, Mastercard launch international card payments in Syria after US lifts terrorism designation(Reuters/Gulf Times)全国未展開というシリア中央銀行の説明、数カ月に及ぶ準備、コルレス銀行関係の再構築と残る実務課題
- Treasury and State Departments Deliver Additional Sanctions Relief on Syria(米財務省)2026年8月24日のテロ支援国家指定解除と、制裁対象者が関わる取引への規制
- Treasury Implements President’s Termination of Syria Sanctions(米財務省)2025年の包括制裁プログラム終了と、旧アサド政権関係者などに残した対象別制裁
- シリアの危険情報(外務省)シリア全土への危険レベル4・退避勧告と渡航中止要請