閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea、OSA)は、睡眠中に上気道が狭くなるか閉じ、呼吸の停止や低下を繰り返す睡眠障害である。いびきは手掛かりの一つだが、音の大きさだけではOSAと単純ないびきを分けられない。
厚生労働省の「睡眠ガイド2023」は、閉塞した気道による酸素不足で覚醒反応が起きて呼吸が再開し、再び眠ると呼吸が止まる流れが夜間に繰り返されると説明している。深い睡眠が減り、十分な睡眠時間を確保しても休養感が乏しい、日中に眠いといった症状につながる。
運転中の眠気はその場で運転中止 急な呼吸困難は119番
運転中に急に眠り込みそうになった、実際に居眠りした、危険な機械の操作中にうとうとした場合は、その場で運転と作業を中止する。眠気が休息後も繰り返す、事故を起こしかけた場合は再開せず早急に受診する。国土交通省が2025年7月に更新した事業用自動車向けマニュアルは、OSAでは運転中に突然眠り込む場合があり、交通事故リスクはOSAがない人の約2.4倍だと整理している。この数字は事業用運転者の安全対策で引用された研究値で、個人の事故確率を示すものではない。
睡眠中の呼吸停止を指摘されても、呼吸が戻り急な症状がなければ、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などへ相談し、睡眠検査の要否を確認する。現在起きている急な息切れや呼吸困難、胸の中央を締め付ける痛みが2〜3分続く、呼びかけても反応がない場合は別である。厚生労働省は、こうした症状で直ちに119番を要請するよう案内している。
受診につなげる五つの兆候
日本呼吸器学会は、睡眠時無呼吸の主な症状として、いびき、夜間頻尿、日中の眠気、起床時頭痛を挙げ、日中の眠気が居眠り運転や労働災害の原因になりうるとしている。受診の手掛かりは次の五つに整理できる。
第一は、同居者から呼吸の停止、苦しそうな呼吸、停止後の大きなあえぎを指摘されること。第二は、睡眠時間を取っても残る強い眠気や突発的な居眠りである。第三は起床時の頭痛や頭重感、第四は夜間に何度も排尿で起きること、第五は休養感の乏しさ、持続する疲労、仕事や学業での集中力低下だ。
五項目は診断基準ではない。頭痛、夜間頻尿、疲労には別の原因もあり、強い眠気を自覚しないOSAもある。呼吸停止を見た人の説明、症状が出る時間帯、居眠り運転の有無、健診結果、持病、常用薬を受診時に伝える。
肥満でなくても除外できない
肥満は大きな危険因子だが、非肥満なら安全という線引きにはならない。厚生労働省の睡眠ガイドは、小さい下顎、後退した下顎、短い首といった身体的特徴でもOSAが起こり、男性で多く、女性は閉経後に頻度が上がると説明する。高血圧、脳卒中、心筋梗塞、心不全、糖尿病との関連も示されている。
いびきがなくても中枢性睡眠時無呼吸など別の睡眠関連呼吸障害はありうる。心不全、心房細動、脳卒中がある人では中枢性睡眠時無呼吸の合併が多いため、一般向けのOSA質問票だけで判断しない。
確定は睡眠検査──PSGと在宅検査
質問票やスマートフォンの録音は、受診のきっかけにはなるが確定診断にはならない。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine、AASM)の2017年指針は、質問票や予測手法をPSGまたは在宅睡眠無呼吸検査なしに成人OSAの診断へ使わないよう強く推奨している。
日本睡眠学会によると、睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography、PSG)は、脳波、眼球運動、筋電図、気流、胸腹部の呼吸運動、血中酸素飽和度、心電図などを一晩記録し、睡眠段階と呼吸異常を併せて評価する。睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の回数を無呼吸低呼吸指数(Apnea-Hypopnea Index、AHI)として算出する。
在宅睡眠無呼吸検査(Home Sleep Apnea Testing、HSAT)は、医療機関で装着方法の説明を受け、自宅で主に気流、酸素飽和度、いびき音、呼吸運動などを記録する。成人でOSAが明確に疑われ、重大な合併症がない場合の選択肢だ。AASMの2017年指針は、1回のHSATが陰性、不確定、記録不良だった場合、PSGへ進むよう強く推奨している。
PSGで得たAHIは、5以上15未満が軽症、15以上30未満が中等症、30以上が重症と分類される。ただし、治療はAHIだけで決まらない。日中の眠気、酸素低下、心血管・代謝疾患、本人が治療を続けられる条件を医師が合わせて評価する。
治療──CPAP、口腔内装置、体重管理
持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure、CPAP)は、鼻や口を覆うマスクから空気を送り、睡眠中の気道が閉じないよう支える。日本呼吸器学会は、重症例や、高血圧・心血管疾患・糖尿病を伴う中等症以上でCPAPを有効な治療とし、検査結果から治療法を決めると説明している。マスクの形、空気漏れ、鼻症状、圧の設定に問題があれば、使用をやめたままにせず治療担当者へ調整を相談する。
日本循環器学会などの合同研究班による2023年指針は、CPAPが日中の眠気と生活の質を改善すると評価する一方、心筋梗塞や脳卒中など心血管イベントの予防効果は無作為化比較試験で確立していないと整理している。無呼吸が改善したことと、将来の病気を必ず防げることは分けて考える。
口腔内装置は、下顎を前方へ保って気道を広げる選択肢である。同指針は、軽症・中等症やCPAPを続けにくい成人を主な対象とし、歯科医師が個別に作製・調整した装置を使い、歯やかみ合わせの変化と治療効果を追跡するよう求めている。通販の汎用マウスピースを、診断と調整を伴う治療用装置の代わりにはしない。
日本循環器学会の2023年指針は、肥満を伴うOSAでは減量を勧め、就寝前の飲酒を避けるよう求める一方、減量単独では治療目標に届きにくく、CPAPや口腔内装置との併用が必要だとしている。日本人で、何kgの体重変化がAHIをどれだけ変えるかを示すデータは確認されていない。処方されたCPAPや口腔内装置は自己判断で中止せず、再検査を含む評価後に治療を変える。
小児・妊婦・持病や常用薬がある人
小児には成人のAHI区分や在宅検査の条件を当てはめない。日本睡眠学会は小児OSAの診断にPSGが必要としている。日本呼吸器学会は、小児OSAではアデノイドや口蓋扁桃の肥大が原因になる場合が多いと説明する。大きないびき、呼吸停止、苦しそうな呼吸がある子どもは、小児科または耳鼻咽喉科へ相談する。
厚生労働省のe-ヘルスネットは、妊娠後期にはOSAの合併が増え、中等症以上が確認された場合は妊娠高血圧や胎児の発育障害を考慮してCPAPが推奨されると説明している。妊娠中は減量や装置の選択を自己決定せず、産科の担当医にいびき、呼吸停止、日中の眠気を伝える。
重い心肺疾患、神経筋疾患、脳卒中歴がある人、オピオイドを継続使用している人では、AASM指針がHSATよりPSGを推奨している。睡眠薬を含む常用薬は受診時に申告し、自己判断で中止しない。
よくある質問
いびきが大きければOSAなのか
音量だけでは決まらない。呼吸停止、あえぎ、日中の強い眠気などを確認し、疑いがあれば客観的な睡眠検査で判定する。いびきが小さくてもOSAを除外できない。
呼吸が何秒止まったら自分で診断できるのか
家庭で見た秒数だけでは診断できない。医療機関は呼吸の停止と低下、睡眠時間、酸素低下、症状を所定の基準で評価する。目撃した回数や状況は受診時の情報になる。
在宅検査が陰性なら安心なのか
疑いが残る場合は確定とはならない。記録不良や不確定な結果を含め、医師がPSGへ進む必要性を判断する。心肺疾患や脳卒中歴などがある人は、最初からPSGが適する場合がある。
OSAなら全員がCPAPを使うのか
全員ではない。AHI、眠気、酸素低下、合併症、気道の形を基に、CPAP、口腔内装置、体重管理、ほかの治療を組み合わせる。処方後は効果と副作用を追跡する。
市販のマウスピースで先に様子を見てよいのか
治療用の口腔内装置とは別物である。OSAを除外せずにいびきだけを抑えようとすると、必要な検査が遅れる。睡眠検査後、適応があれば歯科医師が個別に製作・調整する装置を使う。
出典・参考資料
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)閉塞性睡眠時無呼吸の仕組み、日中症状、危険因子、循環器・代謝疾患との関連を示す公的指針
- 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)(日本呼吸器学会)症状、携帯型検査とPSG、AHIによる重症度、CPAP・口腔内装置・減量を解説する市民向け資料
- 夜、呼吸、いびきが止まると言われました(日本呼吸器学会)無呼吸を指摘された場合の受診先と、減量、CPAP、口腔内装置の位置付けを示すQ&A
- 睡眠障害を診断するための検査(日本睡眠学会)PSGの測定項目と在宅睡眠無呼吸検査の対象、手順、測定範囲を解説する学会資料
- 自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル(国土交通省)2025年7月改訂版。運転中の突発的な居眠り、交通事故リスク、スクリーニング後の精密検査を示す
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)急な呼吸困難、持続する胸部圧迫痛、意識障害など救急要請が必要な症状を示す公的案内
- Clinical Practice Guideline for Diagnostic Testing for Adult Obstructive Sleep Apnea(American Academy of Sleep Medicine / Journal of Clinical Sleep Medicine)質問票を診断に使わないこと、成人でのPSGとHSATの選択、HSAT後にPSGへ進む条件を示す2017年指針
- 女性の睡眠障害(厚生労働省 e-ヘルスネット)妊娠後期の閉塞性睡眠時無呼吸と、妊婦で中等症以上が確認された場合の対応を示す公的解説
- 2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(日本循環器学会合同研究班)CPAPの効果と限界、口腔内装置の適応・歯科管理、減量と日本人データの空白を示す国内指針