北朝鮮の国営メディアは猛暑への対応を呼びかけるなか、犬肉スープや魚粥、スイカ、キュウリなどを夏向けの食として紹介した。報道の中心は伝統食と注意喚起だが、熱中症による死者や搬送者の全国集計は、本稿の執筆時点で公開資料から確認できていない。

AP通信は8月5日、北朝鮮当局が各地に猛暑警報を出したと報じた。朝鮮労働党機関紙『労働新聞』では、平壌総合病院の内科部門幹部が犬肉と魚の粥をたんぱく質の補給源として挙げ、スイカ、キュウリ、トマト、緑豆、ショウガも紹介した。これは国営メディアが示した食事の説明であり、個々の料理の予防効果を検証した医学資料ではない。

砂地に立てた温度計が高温域を示している様子(イメージ)
北朝鮮当局は各地に猛暑警報を出し、暑さによる健康被害への注意を呼びかけた。(Immo Wegmann/Unsplash)

三伏に食べるタンゴギと参鶏湯

今回の食事紹介には、朝鮮半島で暑さの盛りに滋養食を取る「三伏」の慣習がある。朝鮮中央通信が7月1日に配信し、アジア太平洋通信社機構(OANA)が掲載した説明では、2026年の初伏は7月15日、中伏は同25日で、この時期の料理にタンゴギ(犬肉)スープ、鶏肉と高麗人参を煮た参鶏湯、小豆粥を挙げた

犬肉スープは、今回の猛暑を受けて初めて持ち出された料理ではない。朝鮮新報は5月、平壌の大同江沿いにタンゴギ料理専門店が開業したと報じ、タンゴギ料理を古くから親しまれてきた伝統料理と説明した。記事は、とくに食べられる時期として夏の三伏を挙げている。猛暑報道に登場した犬肉スープは、こうした既存の食文化の延長に位置づけられる。

平壌36.7度を「観測史上最高」と断定せず

元記事は、朝鮮中央テレビが平壌で36.7度を記録したと伝え、これを観測史上の最高気温としている。ただ、観測地点、観測時刻、過去の記録と比べた期間を示す北朝鮮の公開原資料は確認できなかった。このため本稿では、36.7度という報道値と「観測史上最高」という評価を確定した事実として扱っていない。

確認できないのは気温の比較条件に限らない。北朝鮮がどの地域で何人の熱中症患者を把握し、どの定義で死者を集計しているのかも公表資料からは分からない。数字が見当たらないことは、被害が発生していないことを示さない。

韓国は8月5日時点で患者約2220人、死者19人

AP通信が韓国行政安全部の報告として伝えた8月5日時点の集計では、5月中旬以降に約2220人が熱中症と診断され、19人が死亡した。北朝鮮について同記事が確認しているのは、当局が猛暑警報を出したことと国営メディアの注意喚起までで、全国の患者数や死者数は示されていない。

韓国側の数字は、被害を把握する仕組みがあり、基準日を付けて公表された集計である。北朝鮮に同じ定義の公開統計がない以上、韓国の人数から北朝鮮の被害を推定したり、両国の対応の成否を人数だけで比べたりするのは難しい。北朝鮮の当該紙面や放送記録を日本から全文確認する手段も限られており、続報で見るべき点は食事紹介の内容より、観測条件と被害集計が示されるかどうかにある。

よくある質問

北朝鮮で夏に犬肉スープが紹介されるのはなぜか
暑さの盛りに滋養食を取る三伏の慣習が背景にある。朝鮮中央通信は2026年7月、タンゴギスープを参鶏湯や小豆粥と並ぶ暑い時期の料理として紹介した。

犬肉スープが熱中症を防ぐと確認されたのか
確認されていない。本稿で参照した資料が示すのは、国営メディアの食事紹介と伝統食としての位置づけであり、医学的な予防効果ではない。

北朝鮮の猛暑被害はどこまで分かっているか
各地に猛暑警報が出たことは報じられているが、熱中症による死者、患者、搬送者の全国集計は公開資料から確認できない。韓国では8月5日時点で患者約2220人、死者19人が報告されたが、この数字を北朝鮮の被害推計には使えない。