レバノン紙アル・アフバルの記者アマル・ハリル氏は4月22日、同国南部アルティリで取材中にイスラエル軍の攻撃を受けて死亡した。同僚の写真記者ゼイナブ・ファラジ氏も重傷を負った。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch、HRW)とアムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は8月6日、それぞれの調査から民間人への意図的な攻撃だった疑いを指摘し、戦争犯罪として独立調査するよう求めた。

これは司法機関による戦争犯罪の認定ではない。両団体とレバノンの法律団体リーガル・アジェンダは、写真、映像、衛星画像、目撃者や当局者の証言、WhatsAppでの通信を突き合わせ、記者2人への直接攻撃だったとの見方を公表した。一方、イスラエル軍はヒズボラ要員を狙った一連の攻撃でハリル氏が死亡したとの初期調査を示し、調査終了後に法務部門へ送るとしている。

攻撃までの約2時間──無人機と救助要請

HRWが目撃者、救助関係者、医療記録、映像、通信記録から再構成した時系列によると、ハリル氏とファラジ氏は午後2時半ごろ、前方の車が攻撃されたため近くへ避難した。午後3時以降はイスラエル軍の無人機が上空を1時間以上飛び、2人が身を寄せていた車と建物がその後に攻撃された。

国連レバノン暫定軍(United Nations Interim Force in Lebanon、UNIFIL)は、レバノン赤十字の救助要請と記者の位置、救助経路をイスラエル軍へ転送していたとHRWは報告している。ハリル氏は午後4時22分まで救助関係者らと連絡を取り、約3分後に避難先の建物が攻撃された。救急隊は現場へ近づいたものの、無人機からの閃光弾や銃撃で退避を余儀なくされたという。ファラジ氏は午後5時40分ごろ救出され、ハリル氏は同日夜に死亡が確認された。

空を飛ぶ無人機(イメージ)
HRWは、記者2人が避難していた場所の上空を無人機が1時間以上飛んでいたと報告した。(Photo by Jason Mavrommatis on Unsplash)

イスラエル軍の説明と公表されていない根拠

イスラエル軍は事件当日、攻撃した車両がヒズボラの軍事施設から出てきたとし、乗っていた人物が停戦合意に違反して部隊へ接近し、直接の脅威になったと説明した。HRWへの回答では、ヒズボラ軍事部門の要員2人を排除する作戦中にハリル氏が死亡したとの初期調査を示した。

ただし、攻撃対象とされた人物がヒズボラ要員であり、軍事目標に当たると判断した具体的な根拠は公表されていない。人権団体側は、2人が取材していたこと、救助要請と位置情報が軍へ伝えられていたこと、長時間にわたり無人機が上空にいたことを重視する。軍側の説明と調査団体の再構成は、攻撃対象の身元と軍が把握していた情報の両面で食い違う。

「戦争犯罪の疑い」が意味する範囲

赤十字国際委員会(International Committee of the Red Cross、ICRC)は、紛争地で活動する記者は敵対行為に直接参加しない限り民間人として保護され、記者を含む民間人への意図的な攻撃は戦争犯罪になり得ると整理している。報道内容や所属媒体の政治的な立場だけで保護を失うわけではない。

この事件で人権団体が示したのは、公開情報と独自調査に基づく法的評価である。誰がどの情報を把握し、どの命令を出したかを確定して刑事責任を問うには、証拠へアクセスできる独立機関の捜査と司法手続きが要る。日本政府がこの個別事件について法的評価を示した公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

記者の死亡、2025年は過去最多

記者保護委員会(Committee to Protect Journalists、CPJ)は事件翌日、救助隊がハリル氏へ到達できなかったことが戦争犯罪に当たる可能性を指摘し、国際調査を求めた。同団体は、2023年10月以降、レバノンでイスラエル軍の攻撃により記者・メディア従事者15人が死亡したと記録している。

CPJの年次集計では、2025年に業務に関連して死亡した記者・メディア従事者は世界で129人と、1992年の集計開始以来で最多になった。このうちイスラエル軍の攻撃による死者は86人で、全体の3分の2を占めた。CPJは個々の死亡と報道業務との関係を調べ、後から得た情報に応じてデータを追加、訂正している。

よくある質問

この事件は戦争犯罪と確定したのか
確定していない。HRWとアムネスティ・インターナショナルは調査結果から戦争犯罪の疑いを指摘したが、裁判所や独立した国際調査機関の法的認定ではない。

記者は国際人道法で保護されるのか
保護される。記者は敵対行為に直接参加しない限り民間人として扱われ、意図的な攻撃の対象にしてはならない。所属媒体の立場や批判的な報道は、民間人としての保護を失う理由にはならない。

イスラエル軍は何を説明しているのか
ヒズボラ要員を対象にした作戦中にハリル氏が死亡したとの初期調査を示し、調査を続けている。軍事目標と判断した根拠資料は公表されていない。