低体温症は、体の中心部の温度が下がり、意識や呼吸、循環に障害が及びうる状態である。日本救急医学会は深部体温が35℃以下の状態と定義し、寒冷環境や濡れによる熱喪失のほか、幼少児、高齢者、泥酔、低血糖、低栄養などでも起こりやすいとしている。
体温計の数字を確かめるまで手当を待つ必要はない。寒い場所で震え、手足の動きが鈍い、会話が不自然といった変化があれば、風雨を避けられる場所へ移し、濡れと地面から奪われる熱を断つ。
先に確認する警告サイン
呼びかけへの反応が鈍いか反応がない、会話がかみ合わない、ふらついて歩けない、意識がもうろうとする、呼吸が遅い・弱い・不規則といった場合は119番へ連絡する。震えていた人の震えが弱まったり止まったりした場合も、回復と決めつけない。水戸赤十字病院の救急科医は、会話の不一致、ふらつき、震えが止まらないまま意識がもうろうとする変化では早急な受診が必要だとしている。
反応がなければ周囲へ助けを求め、119番通報とAEDの手配を行う。胸や腹の動きを10秒以内で見て、普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は胸骨圧迫を始め、通信指令員とAEDの指示に従う。総務省消防庁の応急手当教材は、反応がない時は119番通報とAEDを依頼し、普段どおりの呼吸がないか分からない場合も胸骨圧迫を開始する手順を示している。低体温だから脈を長く探すという自己判断で、通報や胸骨圧迫を遅らせない。
待っている間は寒さ、濡れ、床からの冷えを断つ
暖かく乾いた場所へ移す。 救助者の安全を確保し、風、雨、雪、冷水から離す。屋内でも暖房がなく床が冷たい状況では低体温症が起こるため、屋外だけの問題ではない。
濡れた衣服を乾いた物に替える。 引っ張って大きく揺らさず、必要なら衣服を切って外す。替えがなければ、濡れた衣服の上からでも乾いた毛布や衣類で包み、風を通さない外側の覆いを重ねる。
上と下の両方から保温する。 毛布、寝袋、乾いた上着などで全身を覆い、床や地面との間にも毛布、段ボール、新聞紙などを敷く。日本赤十字社は、濡れた衣類を取り替え、毛布で全身を包み、地面から断熱し、保温中に傷病者を大きく揺らさないよう案内している。
飲食は条件を満たす時だけにする。 意識がはっきりし、震えており、むせずに飲み込める成人なら、熱すぎない糖分を含む温かい飲み物や食品を少量ずつ取らせる選択肢がある。意識が鈍い、吐き気がある、飲み込みに不安がある人には何も口から与えない。
歩行、飲酒、入浴、皮膚への直接加温を避ける
低体温症を疑う人を急に立たせたり、歩かせたり、手足を強くもんだりしない。搬送は水平を保ち、丁寧に行う。総務省消防庁の山岳救助マニュアルは、患者を丁寧に水平に扱い、まず立たせたり歩かせたりせず、温かいシャワーや湯船を復温に使わないよう示している。
使い捨てカイロ、湯たんぽ、加熱パッドを冷えた皮膚へ直接当てない。温度を感じにくい皮膚では熱傷が起こりうる。救急隊の到着までに使う場合も布越しとし、手足だけを急に温める処置は避ける。
酒は温かく感じても復温の手段にならないため、傷病者に飲ませない。日本赤十字社神奈川県支部は、アルコールが意識と呼吸を抑え、皮膚表面の血管を広げて体の中心部の熱を失わせ、冬場の凍死につながる場合があると説明している。すでに飲酒している人が冷たく、反応や呼吸がおかしい場合は酔いと決めつけず119番へ連絡する。
子ども、妊婦、高齢者、持病や常用薬のある人
子ども。 日本救急医学会は幼少児を低体温症が起こりやすい要因に挙げ、水戸赤十字病院も子どもと高齢者はなりやすいとしている。成人と同じく寒さと濡れを断つが、飲食を無理に勧めず、反応や呼吸の異常があれば119番へ連絡する。乳幼児に成人向けの飲食や加温方法をそのまま当てはめない。
妊婦。 妊婦に固有の家庭での復温手順を示す日本国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。寒さと濡れを断って保温し、意識、呼吸、歩行に異常があれば119番へ連絡する。異常がなくても判断に迷う場合は、かかりつけの産科か救急相談へ連絡する。
高齢者、持病や常用薬のある人。 高齢者は熱を作る力が低下し、暖房のない室内でも体温を失いやすい。糖尿病、内分泌疾患、低栄養、体を動かしにくい病気がある人や、眠気を催す薬を使っている人では、寒さへの反応や症状の訴えがはっきりしない場合がある。家庭で薬を増減せず、救急隊や受診先へ病名、常用薬、寒さにさらされた時間を伝える。
よくある質問
最初にすることは何か
風雨や冷水を避けられる場所へ移し、濡れた衣服を乾いた物に替え、毛布などで上下から覆う。同時に反応と普段どおりの呼吸を確認する。
震えが止まったら温まったと考えてよいか
判断できない。低体温症が進むと震えを作れなくなる場合がある。会話、歩行、意識、呼吸の変化を見て、異常があれば119番へ連絡する。
熱い風呂に入れればよいか
入れない。消防庁の山岳救助資料は、軽度に見える場合でも温かいシャワーや湯船を復温に使わないとしている。毛布などで熱の流出を防ぎ、医療機関への搬送につなぐ。
救急車を呼ぶべきか迷う時はどうするか
意識や呼吸に異常があれば119番へ連絡する。緊急性の判断に迷い、地域で利用可能な場合は救急安心センター♯7119へ相談する。総務省消防庁によると、♯7119では医師、看護師、救急救命士が受診や救急要請を助言し、緊急性が高ければ119番通報への転送やかけ直しを案内する。
出典・参考資料
- 偶発性低体温症(日本救急医学会)低体温症の定義、原因、重症化に伴う症状を示す医学用語解説
- 傷病者の安静(日本赤十字社)濡れた衣類、毛布、床からの断熱、揺らさない保温を示す救急法教材
- 山岳救助マニュアル(総務省消防庁)低体温症患者の取り扱い、飲食、体表加温、歩行と入浴の注意を示す検討会資料
- 応急手当WEB講習(総務省消防庁)反応と呼吸の確認、119番通報、胸骨圧迫、AEDの手順を示す教材
- もし避難所で生活することになったら~健康管理の注意点~(水戸赤十字病院)低体温症の初期対応と早期受診を要する変化を示す救急科医の解説
- 急性アルコール中毒について(日本赤十字社神奈川県支部)飲酒による意識・呼吸への影響と体熱喪失を示す啓発資料
- 救急安心センター事業(♯7119)ってナニ?(総務省消防庁)救急車を呼ぶか迷う場合の相談機能と実施地域を示す案内