夜勤の後に眠れない、長距離移動後に現地の夜で目がさえるといった状態は、睡眠時間の不足だけでは説明できない。
概日リズム(Circadian Rhythm)は、ほぼ24時間周期で睡眠と覚醒、体温、ホルモン分泌などの時刻を整える仕組みである。厚生労働省のe-ヘルスネットは、体内時計の調節異常で生じる型と、交替勤務や時差のように睡眠時間帯を人為的にずらして生じる型を、概日リズム睡眠・覚醒障害として整理している。単なる寝不足と決めず、眠る機会が足りないのか、眠りたい時刻と体内時計が合っていないのかを分けて考える必要がある。
先に確認する安全確保と受診の目安
厚生労働省のe-ヘルスネットは、十分に眠っているはずなのに日中の眠気が強く、居眠りや集中力低下で学業や仕事に支障が出る場合は、診察や検査を受けることが大切だとしている。運転中や危険作業中に眠気を感じた時点で、運転・作業を中止し、安全な場所へ移る。十分な睡眠機会を確保しても不眠、起床時の休養感低下、業務中の眠気が続き、日常生活に支障がある場合は速やかに医療機関を受診する。大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘された場合は、時差や夜勤だけを原因と決めない。呼吸停止と日中の強い眠気がある場合の検査と受診の目安は、睡眠時無呼吸の記事で整理している。
光は強さと時刻で作用が変わる
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、一般に朝の光が体内時計を前進させて早寝・早起きの方向へ、夕方以降の光が後退させて遅寝・遅起きの方向へ動かすと説明している。通常の日勤生活で睡眠時刻が遅れている場合は、起床後から日中に屋外の光を取り入れ、夜は明るい照明と画面を減らす組み合わせが基本となる。夕方の光が必要になる西行きの時差調整など、目的が違えば浴びる時刻も変わる。
光は「明るいほど、長いほどよい」という一方向の手段ではない。本稿で確認した日本の公的資料は、成人全員へ共通する「何luxを何分」という自己調整用の基準を示していない。日常生活で朝日を取り入れることと、医療機関が行う高照度光療法は分けて扱う。
交替制勤務──光だけで勤務表へ合わせない
厚生労働省の睡眠ガイド2023は、交替制勤務に伴う不調には、体内時計と実際の睡眠時間帯のずれ、睡眠不足、徹夜による負担、心理社会的要因が関わると整理している。光だけを操作しても、勤務間の休息不足は埋まらない。同ガイドは、実生活で1日に動かせる体内時計の幅を数分から数時間程度とし、勤務表への適応が難しく、翌日以降へ悪影響が及ぶ可能性にも注意を求めている。
対策は夜勤の頻度で変わる。厚生労働省が週1~2回程度の夜勤について示す日勤日に体内時計を合わせる方法は、頻回の夜勤では睡眠不足を深める可能性がある。勤務と勤務の間の休息、夜勤中に仮眠を取れる静かな場所、職場の照明は、本人の工夫だけにせず、勤務管理と産業保健の課題として扱う。夜勤中のカフェインは眠気を和らげる場合があるが、取り過ぎや時刻によってその後の睡眠を乱す。カフェイン、寝酒、夜間の画面が睡眠へ作用する時間の違いは、関連記事で整理している。
時差──東西でずらす向きが変わる
厚生労働省検疫所のFORTHは、時差症状は西行きより東行きで強い傾向があり、出発まで日数があれば1日1時間を目標に睡眠・覚醒時刻を現地へ近づけ、東行きでは朝、西行きでは夜の明るい光を使う方法を示している。東行きでは出発前の就床・起床を早め、西行きでは遅らせるのが基本となる。
搭乗後は時計を到着地の時刻へ合わせ、睡眠と食事を現地時刻へ移す。到着後は日中に屋外の光を浴び、現地の夜に睡眠機会を置く。到着直後に運転や危険作業がある旅程では、時刻調整より眠気による事故を避ける計画を優先する。
高照度光療法やメラトニンを使う治療は、日常の光の扱いとは別である。e-ヘルスネットは、概日リズム睡眠・覚醒障害の治療には専門知識が必要であり、睡眠障害の専門医へ相談するよう案内している。睡眠薬やメラトニン製剤の種類、量、服用時刻を自己判断で決めない。
1週間の記録で時刻のずれと睡眠不足を分ける
厚生労働省の2024年12月版「睡眠チェックシート」は、就床時刻、起床時刻、実際に眠った時間、起床時の睡眠休養感を1週間記録する形式である。夜勤者は勤務の開始・終了時刻と仮眠、渡航者は出発地・到着地の時刻と主な光を浴びた時間を同じ表へ加える。記録は診断ではないが、睡眠機会の不足と生活時刻のずれを受診時に説明する材料になる。
子ども・妊婦・高齢者・持病や常用薬がある人
子どもは眠気を自覚せず、集中力低下、いら立ち、落ち着きのなさとして現れる場合がある。妊娠中は妊娠経過、高齢者は加齢による睡眠時刻の変化が重なり、成人一般と同じ時刻表だけでは評価できない。持病や常用薬がある人では、病気の状態や薬の副作用も眠気の原因となる。本稿で確認した公的資料には、この四群へ一律に使う高照度光の強さ・時間や薬の使い方は示されていないため、医師または薬剤師へ個別に確認する。
よくある質問
朝日を浴びれば、どの時差や夜勤にも合うのか
一律ではない。朝の光は体内時計を早め、夕方以降の光は遅らせる方向に働く。東行き、西行き、夜勤の頻度、次の勤務時刻で必要な方向が変わる。
夜勤明けはサングラスで朝日を避けるべきか
全ての勤務表に共通する方法ではない。厚生労働省は、週1~2回程度の夜勤では日勤日の時刻を保つ方法を示す一方、頻回の夜勤には同じ方法を当てはめないよう注意している。勤務頻度と次の出勤時刻を確認する。
時差は何日で戻るのか
一律の日数は示せない。移動する時差の大きさと方向、滞在日数、睡眠不足、個人の体内時計が重なる。東行きは西行きより症状が強い傾向があるが、個人の回復日数を確定する情報ではない。
生活時刻を変えても眠気が続く場合はどうするのか
十分な睡眠機会を取っても不眠や強い眠気が続き、学業、仕事、運転へ支障が出る場合は受診を優先する。いびき、呼吸停止、気分の変化、持病、常用薬も受診時に伝える。
出典・参考資料
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省)朝夕の光が体内時計へ及ぼす作用、交替制勤務の健康上の注意、勤務頻度による対策の違いを示す
- 概日リズム睡眠・覚醒障害(厚生労働省 e-ヘルスネット)交替勤務障害と時差障害の症状、専門的な治療が必要となる範囲を示す
- 昼間の眠気―睡眠不足だけではなく睡眠・覚醒障害にも注意が必要(厚生労働省 e-ヘルスネット)強い日中の眠気による事故リスクと、生活に支障がある場合の受診目安を示す
- 病気にならないために―時差ぼけ対策について(厚生労働省検疫所 FORTH)東西の移動による違い、出発前の時刻調整、到着後の光と現地時刻への合わせ方を示す
- 睡眠チェックシート(厚生労働省 e-健康づくりネット)就床・起床時刻、実睡眠時間、睡眠休養感を1週間記録する公的様式