米食品医薬品局(FDA)の「Technology-Enabled Meaningful Patient Outcomes(TEMPO)」は、正式な販売承認を得ていない一定のデジタル医療機器を、米公的医療保険メディケアの新たな支払いモデルと結びつける試行だ。FDAが機器ごとに一部規則への執行裁量を検討し、臨床現場で集めたデータを将来の承認審査に生かす。承認を省く恒久制度ではなく、規制と給付を同じ実証の枠内に置く設計である。

FDAは2026年1月2日にTEMPOへの参加意向書の受け付けを始め、3月から一部の候補企業に追加情報を求めた。対象は米国に拠点を置くメーカーの完成済み機器で、重い危険を患者の健康、安全、福祉にもたらす可能性がなく、医師の監督下にある外来治療と併用することが条件になる。AI搭載機器も対象になりうるが、AIであること自体が選定条件ではない。

執行裁量──承認と同じではない

TEMPOの核心は「執行裁量(enforcement discretion)」にある。通常、疾患の診断や治療などを目的とする機器は、リスク分類に応じて510(k)のクリアランス、De Novo分類、PMA承認などを経て市場に出る。TEMPOでは、ACCESS参加組織が対象ケアに使う場合に限り、メーカーが一部規則を執行しないようFDAへ求める。

FDAの説明資料は、執行裁量を求めうる例として、市販前承認、治験機器免除(IDE)、インフォームド・コンセントを定める21 CFR Part 50、治験審査委員会を定めるPart 56を挙げる一方、適用範囲は機器ごとに協議するとしている。参加すれば三つの手続きを自動的に飛ばせる制度ではない。FDAは注意事項を含む表示や記録保存などを条件に加える場合がある。

医療機器の市販前審査に使う書類と規制手続きを示す画面(イメージ)

執行裁量が働く場所も限定される。未承認の用途で機器を提供できるのはCMSのACCESS参加組織を通じたケアの範囲であり、同じ用途を枠外で販売する行為はTEMPOの対象にならない。FDAは参加企業に、試行中のデータを使って最終的に正式な販売承認を申請するよう求めている

ACCESSが給付の入り口を担う

TEMPOと対になるのが、米メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)の「Advancing Chronic Care with Effective, Scalable Solutions(ACCESS)」である。ACCESSは2026年7月5日に始まった10年間の任意モデルで、従来型メディケアの加入者を対象に、診療行為の回数ではなく測定可能な健康上の成果に連動する支払いを試す。参加組織はメディケアPart Bの提供者または供給者として登録し、医師の臨床責任者を置く。

対象は、早期の心腎代謝、心腎代謝、筋骨格、行動保健の4領域だ。高血圧、脂質異常、肥満または腹部肥満を伴う過体重、糖尿病前期、糖尿病、一定段階の慢性腎臓病、動脈硬化性心血管疾患、慢性の筋骨格痛、うつ、不安が含まれる。従来型メディケアの加入者が対象で、CMSは参加組織の成績を監視し、リスク調整後の結果を公開する方針を示す。

天秤と規制を示す記号を組み合わせた審査制度のイメージ

実臨床データと安全策

メーカーには早期使用の機会が生まれるが、将来の承認は約束されない。FDAは参加候補に対し、機器が設計どおり動くことを示す安全性資料、品質管理システム、患者リスクの軽減策、実臨床での性能データを収集・監視・分析・報告する計画、正式申請までの工程表などを求めうる。試行中に集めたデータだけでは足りず、正式申請に追加データが必要になる場合もある

FDAが想定する選定規模は4領域で米国メーカー各約10社までだ。FDAの公式一覧には本稿の執筆時点で、Cadence Solutionsの「HypertensionOS」とDexcomの「Dexcom Glucose Health Program」の2社・2機器が掲載されている。FDAは、TEMPOで評価する用途について両機器の有効性評価をまだ終えていないと明記した。参加企業は実臨床データをFDAと共有し、有害事象、新たなリスク、申請準備の進み具合を定期的に報告する計画を示す。

上市前に評価を完結させる発想から、限定された使用環境で監視を続けながら証拠を積む発想へ、検証の一部を後ろに移す。その分、対象機器、報告結果、FDAが課す条件の透明性が制度への信頼を左右する。

血圧計を使った慢性疾患の遠隔モニタリング(イメージ)

日本の二段階承認との違い

日本には、プログラム医療機器(Software as a Medical Device、SaMD)を臨床現場で使いながら証拠を積む別の経路がある。厚生労働省が2023年に明確化した二段階承認では、探索的な治験成績などから一定の有効性が見込める範囲に使用目的や効果を限定して第一段階の承認を出し、市販後に臨床試験や実臨床データを集めた後、第二段階の承認を目指す

日本の第一段階は法的な承認であり、未承認のまま一部規則を執行しないTEMPOとは出発点が異なる。給付面では、厚生労働省の評価療養が、第一段階承認後のプログラム医療機器や、保険適用外の使用範囲で再評価を目指す機器について、保険診療との併用を認めている。ただし、これは機器そのものへの成果連動型支払いを約束する仕組みではない。

病院内でデジタル医療技術について協議する医療従事者(イメージ)

日米の制度は、臨床現場のデータを次の審査につなげる点では重なる。違いは、TEMPOが未承認段階の執行裁量と公的保険の支払いモデルを一つの枠に収めたことだ。日本では薬事の二段階承認と評価療養が用意されているものの、TEMPOと同じ組み合わせを示す公的資料は本稿の執筆時点で確認できていない。米国でも採択された機器名や個別条件、運用後の安全性成績がそろわなければ、この接続が審査期間の短縮と患者保護を両立したかは判断できない。

よくある質問

TEMPO参加機器はFDAの承認を受けたのか
受けたことにはならない。FDAは特定の使用環境と条件のもとで一部規則への執行裁量を検討する。参加は将来の510(k)クリアランス、De Novo分類、PMA承認の可否を示さず、メーカーには正式申請が残る。

未承認機器ならすべて応募できるのか
対象は米国に拠点を置くメーカーの完成済みデジタル医療機器で、ACCESSの4領域に対応し、医師が監督する外来治療と併用され、患者に重い危険をもたらす可能性がないことが条件だ。選定規模は各領域で約10社までとされる。

日本の二段階承認はTEMPOと同じか
同じではない。日本は限定した使用目的や効果について第一段階の承認を出した後、市販後データを集めて第二段階へ進む。TEMPOは正式承認前の機器について執行裁量を使い、ACCESS内での使用と支払いにつなぐ。