AI支援マンモグラフィ(AI-supported mammography screening)は、乳房X線画像に異常度のスコアや病変候補を示し、医師の読影を支える仕組みだ。スウェーデンの10万人超を対象にした無作為化比較試験は、AIを組み込んだ読影で中間期がん率の非劣性と感度の上昇を示した。ただし、中間期がんが統計学的に有意に減ったとは結論づけていない。日本ではマンモグラフィの二重読影が現行ルールであり、AIを組み込む流れは検証の入り口にある。

MASAIが測った「中間期がん」

人工知能を用いたマンモグラフィ検診試験(Mammography Screening with Artificial Intelligence、MASAI)は、スウェーデン南西部の4施設で実施された。2021年4月12日から2022年12月7日までに10万5,934人をAI支援群と標準群へ1対1で無作為に割り付け、19人を除いたAI支援群5万3,043人、標準群5万2,872人を解析した。AI支援群ではソフトウェアが画像を低リスクと高リスクに振り分け、低リスクは医師1人、高リスクは医師2人が読影し、疑わしい部位のマークも医師に提示した。標準群はAIを使わず、医師2人が画像を読んだ。

最終解析が主に調べたのは、検診時点の発見数ではなく中間期がん(interval cancer)だった。医学誌「ランセット」に掲載された最終論文は、中間期がんを、検診では見つからず、次の検診までの間または最後に予定された検診から2年以内に診断された原発性乳がんと定義している。前回画像の見落としに限らず、検診後に急速に大きくなったがんも含みうる。

中間期がん率はAI支援群が1,000人当たり1.55件、標準群が1.76件で、比は0.88、95%信頼区間は0.65〜1.18、p値は0.41だった。試験が事前に定めた20%の非劣性マージンは満たした一方、AI支援群のほうが優れるという統計学的な差は示さなかった。1.55件と1.76件の差を割合に直せば12%だが、これを「中間期がんを12%減らした」と確定的に扱うのは踏み込みすぎになる。

AI支援群では侵襲性の中間期がんが75件、標準群は89件、T2以上は38件対48件、非ルミナルA型(non-luminal A)は43件対59件だった。論文はこれらを記述的な差として報告している。相対差は順に約16%、21%、27%となるが、個々の性状について有効性を確定した数字ではない。感度はAI支援群80.5%、標準群73.8%でAI支援群が高く、特異度は両群とも98.5%だった。中間期がんの非劣性、感度の差、性状別の記述値は分けて読む必要がある。

マンモグラフィ検査装置が置かれた検査室(イメージ)

検出率29%増、読影回数44.2%減

検診時点の成績と読影量は、最終結果に先立つ2025年の副次解析で示された。AI支援群で見つかった乳がんは338件、標準群は262件で、検出率は1,000人当たり6.4件対5.0件、比は1.29だった。要精査率は2.1%対1.9%、偽陽性率は1.5%対1.4%で、いずれも統計学的な差はなかった。より多くのがんを検診時に拾いながら、偽陽性を明確には増やさなかった結果である。

読影回数はAI支援群6万1,248回、標準群10万9,692回で、44.2%減った。AIが低リスク画像を一人読影へ回し、高リスク画像だけを二重読影にしたためだ。この44.2%は画像を読んだ回数の差であり、勤務時間、必要人員、費用が同じ割合で減るという意味ではない。AIの出力を確認する時間、例外処理、システム保守を含む実際の負担は、導入先の業務設計で変わる。

放射線科の職員がモニターで乳房X線画像を確認する様子(イメージ)

日本の現行制度は二重読影

日本の対策型乳がん検診は、MASAIの標準群と同じく二重読影を土台にしている。2025年12月24日改正の厚生労働省指針は、40歳以上の女性を対象に、質問とマンモグラフィを原則2年に1回実施すると定める。40歳以上50歳未満は内外斜位方向に頭尾方向の撮影を加え、画像は二重読影とし、そのうち1人を十分な経験を持つ医師としている。現行指針には、AIを医師1人分の代わりに置く規定はない。

制度の見直しに向けた作業は始まった。厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」は2026年3月23日、乳房X線を含む画像検診の二重読影を巡り、現行規定を維持しながらAIで医師の読影量を減らす流れと、二重読影の規定を外せるかを調べる流れの二つを並行して検証する方針を了承した。会合では、感度と特異度、偽陽性、読影時間、費用対効果をどう測るかも今後の論点に残った。全国の対策型検診への採用を決めた会合ではない。

AIが入っても、診断の主体は変わらない。厚生労働省の通知は、AIを医師が判断する過程で情報を示す支援ツールと整理し、診断や治療の主体と最終判断の責任は医師にあるとしている。MASAIもAIだけで報告書を出す設計ではなく、AIが読影人数を振り分け、病変候補を示した後に医師が判断する試験だった。

医師が患者に検査画像を示しながら説明する様子(イメージ)

国内承認で混同しやすい「CAD」と「AI」

日本にはマンモグラフィのコンピューター支援検出(Computer-Aided Detection、CAD)製品が以前からある。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公開する富士フイルムのMV-SR657EG型の電子添文は、承認番号22200BZX00625000とし、腫瘤と石灰化に似た画像パターンをマークする一方、通常の医師読影を終えた後の参考利用に限り、単独の乳がんスクリーニングや確定診断には使わないよう警告している。この添文はAIや深層学習を使う製品とは記していない。現代のAI-CADや、リスクに応じて読影人数まで振り分けるMASAIの仕組みと同じ製品として数えるべきではない。

日本乳癌学会の2022年版ガイドラインは、当時、日本で認可されたマンモグラフィ用の深層学習CADはないとした。同ガイドラインは2021年3月までの文献を検討し、日本人を対象にした報告が少なく、国内でAI-CADによる精度改善を結論づけられないと評価した。その後にMASAIの前向き試験が公表されたため、2022年の評価を現在の結論として固定するのも適切ではない。

本稿の執筆時点で、MASAIと同じ役割を担う病変検出AIが日本で承認され、対策型乳がん検診の全国共通フローに入ったと示す公的資料は確認できていない。これは「該当製品が存在しない」という断定ではない。PMDAはプログラム医療機器の公開一覧について、承認から掲載までに時間を要し、有体物の医療機器に組み込まれたプログラムは対象外で、AI活用医療機器を網羅する一覧でもないと説明している。公開情報の空白と未承認は区別しなければならない。

残る課題──日本へ数字を移す前に

MASAIは、スウェーデンの検診制度、Transparaバージョン1.7.0、低リスクの一人読影と高リスクの二重読影という組み合わせを評価した。日本も二重読影を採る点では比較しやすいが、撮影装置、画像処理、対象集団、過去画像との比較方法、精密検査へ回す基準まで同じではない。国内で使う製品と実際の検診経路を組み合わせた前向き検証が要る。

評価期間にも限界がある。MASAIが示したのは、検診時の検出率、中間期がん率、感度、特異度と読影回数だ。乳がん死亡率を下げるか、追加で見つかったがんのうち過剰診断がどの程度を占めるかは、この試験だけでは分からない。AI支援群では浸潤がんに加えて非浸潤がんも多く見つかった。発見数の増加をそのまま長期的な利益とみなさず、死亡率、進行がん、不要な精密検査を継続して追う必要がある。

制度側では、AIが異常なしとした画像を誰がどの割合で監査するか、装置や撮影条件が変わった後の性能をどう確かめるか、障害時に二重読影へ戻す手順をどう組むかが残る。44.2%という読影回数の削減は大きいが、日本の対策型検診で同じ安全性と負担軽減を両立できるかは、これからの検証対象である。

よくある質問

MASAI試験は中間期がんを12%減らしたのか
点推定値では1,000人当たり1.76件から1.55件へ12%低かったが、95%信頼区間は0.65〜1.18で1をまたぎ、p値は0.41だった。論文の正式な結論は標準二重読影に対する非劣性であり、中間期がん減少の優越性ではない

日本でAIを二人目の読影医の代わりに使えるのか
対策型検診の現行指針は、経験ある医師1人を含む二重読影を求めている。2026年3月の厚生労働省検討会はAIを使った読影量削減と二重読影規定の見直しに向けて検証を進める方針を了承した段階で、全国共通の運用にはなっていない。

読影回数44.2%減は、放射線科医の仕事が同じ割合で減るという意味か
意味は異なる。試験が数えたのは画像の読影回数で、AI結果の確認、意見が分かれた画像の協議、システム管理、精密検査への連携にかかる時間は含まれない。実際の勤務時間と費用への効果は、各施設の運用を含めて測る必要がある。