自律型AI(Autonomous Artificial Intelligence)は、眼底画像の撮影後に医師が画像を読み直す工程を置かず、あらかじめ定めた病変の有無をソフトウェアが出力する医療機器だ。米食品医薬品局(FDA)は2024年4月23日、糖尿病網膜症の自動検出プログラムAEYE-DSについて、据え置き型に加えて携帯型のOptomed Aurora眼底カメラとの組み合わせを認めた。眼科医のいない診療現場にも検査を置きやすくなる一方、判定対象と性能値には明確な範囲がある。
携帯型カメラで何を自動判定するのか
FDAの510(k)審査資料によると、AEYE-DSの対象は糖尿病と診断された成人のうち、糖尿病網膜症の診断歴がない人で、軽症を超える糖尿病網膜症を自動検出する。眼底カメラで撮った画像をサーバー側の解析ソフトへ送り、「検出」「非検出」「画質不十分」のいずれかを返す仕組みだ。家庭向けの自己検査機器ではなく、米国では医師の処方または指示のもとで販売される医療機器に位置づけられている。
携帯型カメラを使った臨床性能は、米国内の二つの前向き多施設試験で検証された。感度は92%と93%、特異度は94%と89%、判定可能率はいずれも99%だった。感度は病変のある人を陽性とした割合、特異度は病変のない人を陰性とした割合を指す。一つの「正確度」という数字では、見逃しと過剰な拾い上げの違いが消える。
自動検出と診断支援の境界
自動検出型と診断支援型の違いは、ソフトウェアの出力を誰が確定するかにある。AEYE-DSは対象となる病変について検出結果を自ら返す。診断支援ソフトは、医師が診断するための画像処理結果や注目領域を示す役割にとどまる。
日本で認証された眼底画像ソフトの一例がDeepEyeVision for RetinaStationだ。PMDAが公開する電子添文は、眼底画像を処理して診断のために提供する製品としたうえで、「自動的に眼疾患の診断を行うものではない」と記し、最終的な画像診断を医師の責任としている。米国のAEYE-DSと同じ「AI眼底検査」という呼び方でも、承認された役割は同じではない。
日本では臨床試験を実施、承認状況は判然とせず
日本国内でも自動検出型に近い開発は臨床評価まで進んだ。厚生労働省の臨床研究等提出・公開システムには、日本人の糖尿病患者を対象にAI診断プログラムDDX-01の性能と有用性を調べる多施設共同試験が登録されている。登録上の試験期間は2022年10月から2024年5月までで、無散瞳眼底カメラの画像をAIが解析し、その後に眼科医の診察と専門施設での画像評価を実施する設計だった。試験登録は性能評価の計画と実施を示す資料であり、製造販売承認を示す文書ではない。
同等の自動検出AIが日本で承認されたかどうかは、執筆時点の公的資料から確認できていない。ただし、これは「承認品が存在しない」という断定ではない。PMDAはプログラム医療機器の公開一覧について、承認から掲載までに時間を要し、有体物の医療機器の構成品となるプログラムは対象外で、AI活用製品を網羅する一覧でもないと説明している。公開情報の空白と未承認は区別する必要がある。
性能値から見える導入後の課題
二つの米国試験で判定可能率は99%に達したが、すべての撮影が判定に至ったわけではない。画質が基準を満たさなければ再撮影や別の検査経路が要る。陽性的中率も68%と53%で、陽性出力のすべてが参照基準で病変ありと確認されたわけではなかった。陽性的中率は検査対象集団の病変頻度にも左右されるため、米国試験の数値を日本の健診や診療所へそのまま移せない。
対象疾患の範囲も限られる。AEYE-DSが判定するのは一定以上の糖尿病網膜症で、緑内障や加齢黄斑変性などをまとめて除外する装置ではない。自動化によって変わるのは、指定された病変を拾い上げる工程だ。撮影不能例への対応、陽性後の受診経路、ほかの眼疾患を見落とさない運用は、機器の性能表とは別に設計しなければならない。
よくある質問
AEYE-DSの感度92〜93%は「正確度92〜93%」という意味か
意味は異なる。感度は参照基準で病変ありとされた人をAIが陽性とした割合で、病変なしの人を陰性とした割合は特異度で表す。FDA資料では携帯型カメラを使った二試験の特異度は89%と94%、陽性的中率は53%と68%だった。
自動検出AIは眼科医の診察をすべて置き換えるのか
置き換えない。AEYE-DSの承認対象は、糖尿病網膜症の診断歴がない成人の一定以上の病変を拾い上げる初期検査だ。出力が陽性の場合の精密評価や、判定対象外の眼疾患の診断は別の工程になる。
日本で同じ仕組みを利用できるのか
同等品の国内承認を裏づける公的資料は、執筆時点で確認できていない。DDX-01の国内試験は登録されているが、臨床試験の登録と製造販売承認は別の手続きだ。PMDAの一覧も対象範囲と掲載時期に限界があるため、公開情報だけで不存在までは断定できない。
出典・参考資料
- 510(k) Summary: AEYE-DS (K240058)(U.S. Food and Drug Administration)使用目的、2024年4月23日の判断、Optomed Auroraを使った二つの試験の感度・特異度・判定可能率・陽性的中率、出力区分を確認した
- 日本人糖尿病患者を対象としたDDX-01の多施設共同試験(厚生労働省 臨床研究等提出・公開システム)国内試験の目的、対象、登録期間、AIによる眼底画像解析と眼科医の検査を含む試験設計を確認した
- プログラム医療機器の承認等情報(医薬品医療機器総合機構)承認品目一覧の対象範囲、掲載までに時間を要すること、AI活用医療機器を網羅しないとの注意書きを確認した
- DeepEyeVision for RetinaStation 電子添文(医薬品医療機器総合機構)認証番号303ADBZX00110000、診断用画像の提供という使用目的、自動診断を行わず最終診断を医師が担うとの注意を確認した