すり傷(擦過傷)は、皮膚の表面が地面や壁などにこすられて欠けた傷だ。転倒直後に優先するのは、かさぶたを作ることでも消毒薬を塗ることでもなく、出血を確かめ、砂や泥を水道水などの清潔な流水で洗い流すことである。
洗った後は、清潔な被覆材で傷を守り、出血、痛み、赤み、腫れ、滲出液の変化を見る。かさぶたができたかどうかだけでは、傷の深さや感染の有無は判断できない。
先に確認する警告サイン
大量の出血が続く、圧迫しても血が止まらない、顔色が悪く冷や汗が出る、意識がぼんやりする、呼吸が苦しい場合は119番へ連絡する。転倒時に頭、首、胸、腹を強く打ち、意識や呼吸の異常、繰り返す嘔吐、手足の動かしにくさがある場合も、すり傷だけの問題として扱わない。
傷が深い、範囲が広い、洗っても砂・石・ガラスなどが残る、関節を動かしにくい、しびれや感覚の低下がある場合は速やかに受診する。動物や人にかまれた傷、釘などによる刺し傷、土やふんで強く汚れた傷も、一般的なすり傷と分けて医療機関へ相談する。厚生労働省が公表する市民用指針は、深い傷や汚れのひどい傷では、流水洗浄後に清潔を保って速やかに医師の診察を受けるよう示している。
洗浄して被覆した後に赤みや腫れが広がる、痛みが強くなる、膿が出る、発熱する場合も受診が要る。厚生労働省の登録販売者試験用手引きは、出血が止まらない、患部が広い、数日たって痛みが強まる、傷の周囲が赤く化膿している場合に医療機関の受診を求めている。
救急車を呼ぶか、夜間に受診するか迷う場合は、実施地域では救急安心センター「#7119」、子どもは小児救急医療電話相談「#8000」も判断材料になる。ただし、意識や呼吸の異常、大量出血がある時は電話相談を挟まず119番へ連絡する。
家庭での初動──止血、洗浄、保護
手当てする人の手を洗う。 他人の傷を扱う場合は、可能なら使い捨て手袋を使う。血液へ直接触れないようにし、手袋がなければ清潔なビニール袋で手を覆う。
出血部位を直接圧迫する。 清潔なガーゼや布を傷へ当て、その上から連続して押さえる。途中で何度もめくって確認せず、血が染みても圧迫を続ける。出血が多い、または圧迫しても止まらない場合は119番へ連絡する。日本赤十字社は、保護ガーゼには圧迫による止血、血液や分泌物の吸収、傷の清潔保持という役割があると説明している。
流水で汚れを落とす。 出血が落ち着いたら、水道水などの清潔な流水で傷を十分に洗う。周囲の皮膚についた汚れも落とすが、傷へ脱脂綿をこすりつけたり、深く入り込んだ異物を針などで掘り出したりしない。総務省消防庁の応急手当教材は、汚れたすり傷や切り傷を放置すると化膿や治癒の遅れにつながる場合があるため、清潔な流水で十分に洗うよう案内している。
清潔に覆う。 洗浄後は、傷の大きさに合う絆創膏や創傷被覆材を当て、摩擦と汚染から守る。きつく巻いて皮膚の色や感覚が変わる状態は避ける。被覆材がはがれた、汚れた、漏れるほど滲出液を吸った場合は交換し、その都度傷の変化を確認する。
かさぶたより、清潔と適度な湿潤
傷を乾かして厚いかさぶたを作ることが、回復の必須条件ではない。厚生労働省の登録販売者試験用手引きは、創傷面から出る液に表皮再生に関わる成分が含まれるため、乾燥させない方が早く治るという考え方が広まり、創傷面を乾燥させない絆創膏も販売されていると説明している。
一方、傷を洗わず密閉すればよいという意味ではない。砂や泥が残る傷、感染が疑われる傷、深い傷には、家庭での湿潤療法を一律に当てはめられない。滲出液の量や傷の深さによって適する被覆材は変わるため、製品の対象となる傷と交換方法を表示で確かめる。判断できない場合は医師または薬剤師へ相談する。
消毒薬も、すべてのすり傷で最初に塗るものではない。まず流水洗浄を行い、消毒薬や外用薬が必要かは傷の汚染、感染、深さを基に医療者が判断する。複数の薬剤を自己判断で重ね塗りしない。
破傷風は「さび」だけで判断しない
破傷風の問題は、物がさびているかどうかだけでは決まらない。土などで汚れた傷や深い刺し傷では、傷の状態と過去の接種歴を医療機関へ伝える。母子健康手帳や接種記録が分かれば持参する。
厚生労働省は、破傷風菌が主に傷口から入り、口が開きにくい、顎が疲れるといった症状から始まる場合があり、予防には破傷風を含むワクチンの接種が有効だと説明している。外傷後の追加接種が必要かは本稿で判定せず、傷の状態と接種歴を医療機関へ伝えて相談する。
子ども、妊婦、持病や常用薬のある人
子ども。 成人と同じく、まず流水で砂や泥を落とし、清潔に覆う。泣いて洗浄が難しい場合も、こすって汚れを取ろうとしない。日本医師会の子ども向け資料は、流水で傷を洗って絆創膏を貼り、洗っても石や砂が取れない場合は受診するよう示している。頭を打った、傷が顔にある、広い範囲に及ぶ、手足を動かしにくい場合は、傷以外のけがも含めて受診を判断する。
妊婦。 止血と流水洗浄は同じ初動になる。一方、妊婦のすり傷に特化し、家庭で使う外用薬や鎮痛薬まで一律に定めた国内公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。薬を使う前に、産科、受診先の医師、薬剤師へ妊娠中であることを伝える。
糖尿病、免疫機能に関わる病気、血流障害がある人。 これらの人へ成人一般の家庭処置をそのまま当てはめる根拠となる、すり傷に特化した国内公的資料は本稿の執筆時点で確認できていない。家庭処置だけで長く様子を見ず、かかりつけ医へ相談する。
抗凝固薬や抗血小板薬などの常用薬がある人。 常用薬を理由に家庭での手順を変える、または薬を止める判断は本稿では扱わない。圧迫しても出血が止まらない場合は受診し、薬の名前が分かるお薬手帳や記録を医療機関へ伝える。
よくある質問
すり傷は、かさぶたになるまで乾かすのか
乾燥させて厚いかさぶたを作ることは必須ではない。汚れを流水で落とし、感染が疑われない浅い傷は、清潔な被覆材で適度な湿潤環境を保つ。
水道水と生理食塩水のどちらで洗うのか
家庭での初動では、水道水などの清潔な流水を使う。消防庁の教材も水道水を挙げている。洗っても異物が残る場合は受診する。
消毒薬は必ず必要か
最初に行うのは流水洗浄である。殺菌消毒成分はすべての細菌やウイルスに有効とは限らない。薬剤が必要かは傷の汚染、深さ、感染の有無によって変わるため、自己判断で複数の薬剤を塗らない。
被覆材は毎日交換するのか
製品と滲出液の量で異なるため、固定した日数では決めない。はがれた、汚れた、漏れるほど液を吸った場合は交換し、赤み、腫れ、痛み、膿、発熱を確認する。
どの傷なら受診するのか
深い、広い、異物が取れない、圧迫しても出血が止まらない、感覚や動きに異常がある、赤みや腫れが広がる、痛みが強まる、膿や発熱がある場合は受診する。大量出血、意識や呼吸の異常は119番の対象になる。
出典・参考資料
- 応急手当WEB講習 擦り傷、切り傷(総務省消防庁)汚れた傷を清潔な流水で十分に洗う初期対応を示す教材
- 救急蘇生法の指針2015(市民用)(厚生労働省・日本救急医療財団心肺蘇生法委員会)直接圧迫止血、傷の洗浄、深い傷や汚れのひどい傷の受診を示す市民用指針
- 試験問題の作成に関する手引き(令和7年8月、令和8年4月一部改訂)(厚生労働省)外皮用薬と創傷被覆、受診を勧める傷の変化を示す登録販売者試験の手引き
- 破傷風(厚生労働省)感染経路、症状、破傷風含有ワクチンによる予防を説明する公的資料
- すりむいたケガへの対応方法(日本医師会)子どものすり傷の流水洗浄、被覆、異物が残る場合の受診を示す一般向け資料
- 包帯(日本赤十字社)保護ガーゼの止血、吸収、清潔保持の役割を説明する応急手当教材