ヨルダン川西岸北部のクスラで、パレスチナ人3世帯の住宅をイスラエル人入植者が取り囲み、住民が安全に外へ出られない状態が5夜続いた。少なくとも1軒では水道と電気が切られ、食料と飲料水が減っていった。

AP通信によると、マイク・ハッカビー駐イスラエル米大使は8月13日、包囲に関与した入植者を「テロリスト」と呼び、家族を脅す行為だとして強く非難した。米大使館はイスラエル軍、警察と対応を調整していると説明した。入植地を長く支持してきたハッカビー氏がこの語をイスラエル人入植者に使った点で、米政府として異例の非難となった。

包囲の5夜──水と電気が途絶える

8月9日、数十人の入植者がクスラ郊外の住宅3軒に到着し、扉を塞いで周囲にテントを張ったと住民側は説明している。クサイ・アブ・リダ氏は10代の息子と屋内に残り、井戸水を飲んでしのいだ。住宅の所有者でパレスチナ系米国人の兄ルイ・リディ氏は、米オハイオ州から防犯カメラを確認し、家族と連絡を取った。

イスラエル軍は複数回介入したが、リディ氏は、入植者がいったん移動しても軍の撤収後に戻る状態が続いたとAP通信に語った。水道と電気は一度復旧したものの、13日までに再び切られたという。軍は12日に住宅の食料と水を確認し、基本的な物資はあったと説明しており、住民側の訴えと隔たりがある。

有刺鉄線の向こうに立つ監視塔と検問所(イメージ)
有刺鉄線と監視塔を写したイメージ写真。(Photo by Daniel Rosehill on Pexels)

軍は拠点撤去、住民は再侵入を警戒

イスラエル軍は8月11日、住宅の包囲を「違法で非難に値し、容認できない行為」とし、クスラを軍事閉鎖区域に指定した。13日にはクスラと近隣の村で無認可拠点2カ所を撤去し、イスラエル人1人を拘束したと発表した。追加部隊を送り、巡回と防護任務に当たらせたとしている。

軍の措置が包囲の終結につながったかは判然としない。AP通信の8月14日続報では、食料と水を運ぼうとした活動家の行進を軍が住宅の手前で止めた一方、入植者は近くの谷に残っていた。アブ・リダ氏は一時退去後に帰宅したが、軍が離れれば入植者が戻るとの懸念を示した。拠点の撤去と住宅周辺からの恒久的な退去は同じではない。

クスラ、4月時点で攻撃記録最多

国連人道問題調整事務所(United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs、OCHA)は4月10日、2026年にクスラで死傷者または物的被害を伴う入植者攻撃を27件記録し、単一の地域として最多だったと報告した。この期間にクスラでは入植者によりパレスチナ人1人が死亡し、8人が負傷した。西岸全体では4月6日までに、同じ基準の攻撃が190以上の地域で580件を超えた。

AP通信の14日付記事によると、パレスチナ当局は2026年の入植者攻撃を1,476件と報告している。パレスチナ自治政府保健省は、同年に西岸で入植者とイスラエル軍に殺害されたパレスチナ人を計87人としている。87人は入植者による死者だけを示す数字ではない。イスラエル側は一部の死者が武装攻撃や投石に関与したと説明し、パレスチナ当局の集計は戦闘員と民間人を区別していない。OCHAとパレスチナ当局では対象期間と収録基準も異なり、件数は単純には比較できない。

ハッカビー氏の非難が異例な理由

ハッカビー氏はアーカンソー州知事を務め、長年にわたりヨルダン川西岸のイスラエル入植地を支持してきた。トランプ政権は第2期の発足時、暴力への関与を理由にバイデン前政権が入植者らへ科した制裁を解除している。その政権の大使が入植者を「テロリスト」と呼んだため、従来の政策姿勢との落差が際立った。

ただし、強い言葉が現地の治安維持や捜査に直結したかは確認できない。イスラエル軍と警察は対応の所管を互いに照会するようAP通信に回答し、住民は入植者が近くに残ったと訴えた。米大使館の調整が住宅周辺からの恒久的な退去や刑事手続きに結びついたことを示す公表資料は、本稿執筆時点で確認できていない。

日本政府も入植者暴力に懸念

茂木敏充外相は6月16日、イスラエルのギデオン・サアル外相との電話会談で、入植活動は国際法違反だとの日本政府の立場を伝え、入植地の拡大と入植者による暴力の継続に懸念を表明した。イスラエル政府に対し、入植活動の完全凍結を含む適切な措置を速やかに取るよう求めた

この申し入れはクスラの包囲より前に行われたもので、今回の個別事件への反応ではない。クスラの住宅包囲について日本政府が個別の見解を示した公表資料は、本稿執筆時点で確認できていない。

よくある質問

クスラで何が起きたのか
イスラエル人入植者が8月9日からパレスチナ人3世帯の住宅を取り囲み、住民が安全に外へ出られない状態が5夜続いた。少なくとも1軒では水道と電気が切られた。

軍の対応で包囲は終わったのか
恒久的な解消は確認されていない。軍は無認可拠点2カ所を撤去し、イスラエル人1人を拘束したと発表したが、14日の続報時点で入植者は近くの谷に残り、住民は再侵入を警戒していた。

入植者攻撃1,476件は国連の集計なのか
国連の数字ではなく、AP通信が伝えたパレスチナ当局の通報である。OCHAは4月6日までに死傷者または物的被害を伴う攻撃を西岸全体で580件超と記録したが、対象期間と収録基準が異なる。