ネパール北部ラスワ郡からトリシュリ川下流へ被害が広がった8月26日の洪水・土石流では、9月5日も捜索と道路の復旧が続いた。ネパール警察の同日午前8時集計では、死者が1342人、行方不明者が4886人に達し、DNA試料の採取など身元確認を終えた遺体1030体が埋葬された。

いずれもネパール国内の集計であり、中国側の被害は含まれない。死者と行方不明者の数字は、捜索、連絡の回復、身元確認に伴って更新される。

洪水10日後に2人救出、水力発電所で続く捜索

AP通信は9月5日、ネパール軍と韓国の災害専門家がラスワ郡の水力発電所にある全長225メートルのトンネルから中国人男性を救出し、ヌワコットでは民家から女性を救出したと報じた。洪水発生から10日後の救出で、男性はトリシュリ水力発電事業のトンネルから生還した3人目となった。

同報道で当局者は、被災した水力発電事業12件で約900人が行方不明となり、約500人が複数のトンネル内にいる可能性があると説明した。インド、中国、韓国、米国の専門チームが、泥や損壊した施設を捜索している。人数はいずれも当時の推計で、12事業を通じたその後の確認状況は示されていない。

豪州人7人の無事確認、36人不明

豪州のアルバニージー首相は9月2日、豪州人5人の無事が新たに確認され、不明者が43人から38人に減ったと発表した。チャーマーズ財務相は4日、さらに2人を確認し、36人と連絡が取れていないと明らかにした。無事が確認された豪州人は計7人となった。

36人は安否確認の対象であり、死亡が確認された人数ではない。名簿の減少は連絡の回復や所在確認でも起こるため、死亡者数とは分けて読む必要がある。

豪州政府は9月3日、ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州の消防機関から派遣するドローン要員を含む15人の災害支援チームを発表した。被災地の地図化と画像取得を担い、派遣済みの19人を補強する。人道支援の総額は1100万豪ドルとなった。

中国の監視データと国境の早期警戒網

ネパールのカナル外相は新華社のインタビューで、中国が共有した衛星とその他の監視データが災害対応を支え、追加被害につながる危険の把握に使われていると説明した。共有されたデータの頻度、解像度、捜索時間や警報精度への寄与を示す資料は、同記事に掲載されていない。

ロイター通信はネパール政府関係者2人の話として、国境集落ティムレに地震センサー、カメラ、超小型地球局(Very Small Aperture Terminal=VSAT)による衛星通信を備えた監視拠点を設ける計画を報じた。国家災害リスク削減・管理庁(NDRRMA)のウプレティ長官は、流された監視所の代替設備とカメラを設置し、河川流量をリアルタイムで把握して新たな洪水を検知した際にショートメッセージ(SMS)で警報を出すと説明した。

計画は報道時点で正式発表されていない。ロイター通信によれば、国境近くでは少なくとも4カ所の観測所が流され、洪水が午前8時32分に国境検問所を襲ってから公的な警報が出たのは午前9時13分だった。新しい仕組みでも下流へ警告を届ける猶予は数分にとどまる可能性があり、機器の設置だけで避難が完結するわけではない。

米議員27人、災害援助チーム派遣と衛星活用を要請

米議会議員27人は9月4日付のルビオ国務長官宛て書簡で、災害援助対応チーム(Disaster Assistance Response Team=DART)の派遣、高高度で使う捜索機材、熱・赤外線カメラ搭載ドローン、衛星画像、携帯電話の位置情報の活用を求めた。家族と議会への毎日の状況説明、ネパール、中国、支援国との捜索区域の調整も要請事項に含まれる。

書簡は行政府への政策要請であり、DARTの派遣決定ではない。記事が記した50万ドルと360万ドルの米国支援も、議員が求める追加の捜索・復興措置とは分けて扱う必要がある。

復旧・復興費40億〜50億ドル──確定前の試算

ネパールのワグレ財務相は、洪水後の復旧・復興に40億〜50億ドルが必要になるとの初期試算を示した。政府はインフラ、住宅、生計、必要資金を調べる災害後ニーズ評価を予定し、国家計画委員会のバッタ副委員長は作成に約2カ月を見込んだ。

40億〜50億ドルは確定した損失額でも、確保済みの援助額でもない。ネパール政府は救助と緊急支援を優先し、詳細評価を終えてから開発協力機関や支援国へ復興資金を求める方針である。

日本ではどうなる

日本外務省が公表した9月1日の日・ネパール首脳電話会談では、邦人5人となお連絡が取れず、日本側が一刻も早い捜索と救援への最大限の協力を求めた。5人の安否確認結果を示すその後の政府公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。日本政府は9月3日、ネパール政府の要請を受け、身元確認を支援する国際緊急援助隊・専門家チームの派遣を決めた。

外務省海外安全ホームページは9月3日、ラスワ郡などで交通網と通信網が寸断されているとして、被災地周辺へ近く渡航する予定がある人に必要性の再検討を求めた。航空便の運航は、山間部の道路、橋、宿泊施設、通信の復旧を意味しない。同ページが案内するネパール道路局の規制情報と、旅行会社、宿泊施設からの回答を突き合わせる必要がある。

中国側では9月4日時点で、緊急・支援車両以外のキドン検問所への交通が規制され、シガツェ市へ入る電子通行証の発行も停止している。災害発生地への立ち入りは禁止された。カイラス山巡礼やネパールとの陸路越境を含む行程は、通行証を取得できる前提では組めない。

短期渡航者が外務省の「たびレジ」に渡航国・地域、渡航期間、氏名、メールアドレス、電話番号などを登録すると、出発前と旅行中の安全情報を受け取り、現地の事件や事故の際に支援を受けるための連絡先となる。渡航予定がない人向けの簡易登録は国・地域とメールアドレスなどだけを登録する仕組みで、具体的な旅行予定がある場合の登録とは用途が異なる。

観光庁が掲載する標準旅行業約款では、募集型企画旅行について、天災や運送・宿泊サービスの中止などで安全かつ円滑な実施が不可能、またはそのおそれが極めて大きい場合、旅行者は出発前に取消料なしで契約を解除できる。ただし、国民生活センターは、悪天候の予報だけでこの条件を満たすとは限らず、自己判断で取り消す前に旅行会社へ事情を説明して相談するよう解説している。

航空券と宿泊を個別に手配した場合、運送契約と宿泊契約は別であり、自然災害時の取消料も各契約の約款や予約条件に従うのが原則である。日本出発の旅行者は、航空会社、予約サイト、宿泊施設の取消条件と連絡先を個別に保存し、旅行会社から届く変更案内とは分けて確認する必要がある。

ネパールの山間部にある道路と橋(今回の洪水現場ではないイメージ)

ネパールの山間部にある道路と橋のイメージ。今回の洪水現場ではない。Photo by Paul Huisman on Unsplash.

よくある質問

ネパール洪水の死者と行方不明者は何人か
ネパール警察の9月5日午前8時集計は、死者1342人、行方不明者4886人である。ネパール国内の数字で、中国側の被害とは別に読む必要がある。

中国が共有したデータと新しい警戒網は何をするのか
中国は衛星、水文、その他の監視データを共有した。ネパール側はティムレでセンサー、カメラ、VSAT衛星通信を使う監視拠点を整え、河川流量を把握して洪水検知時にSMS警報を出す計画だが、全体の設置数と運用開始日は公表されていない。

日本からの渡航と取消料はどう確認するのか
外務省のネパール向け、中国チベット自治区向けスポット情報を確認し、道路、通行証、宿泊の状況を各事業者へ問い合わせる。募集型企画旅行と個別手配では契約関係が異なるため、申込先の約款と取消条件を先に照合する。