ネパール北部ラスワ郡の中国国境近くで8月26日、ボテコシ川の大規模洪水が発生した。水と土砂はトリシュリ川水系を下り、山間部の集落からチトワン郡などの下流域まで救助と遺体捜索の範囲が広がった。

ネパール外務省は29日午後2時、626体の遺体を収容し、約2400人が行方不明、4450人超を救助したと発表した。被害数は捜索と確認の進行に伴って変わるとも明記した

同じ29日に626から669へ──集計時刻と単位の違い

ネパール国家減災庁(National Disaster Risk Reduction and Management Authority、NDRRMA)の29日午前10時集計は、行方不明者2426人、救助者4451人、入院中の負傷者101人、捜索・救助・救援に投入した治安要員1万5224人としている

警察が同日午前6時までに収容した616体の地区別内訳では、チトワン郡が233体で最も多く、発生地のラスワ郡は13体だった。チトワン郡は洪水の起点ではなく、下流へ流された遺体の捜索と身元確認の拠点の一つである。

ネパール警察は同日午後4時、行方不明者を2362人、収容した遺体などを669と更新した。後者の内訳には遺体の一部211件が含まれ、親族へ引き渡された遺体は20体だった。午前の626と午後の669の差を、そのまま43人分の身元確認や死亡確認とみなすことはできない。

岩盤と氷河の崩落──狭い谷から下流へ

洪水はボテコシ川からトリシュリ川へ入り、住宅、橋、道路などを流失させた。道路の寸断は被災地への進入を妨げ、捜索範囲はラスワ郡、ヌワコット郡、ダディン郡、チトワン郡などへ広がった。

APが取材した地形学者クリステン・クック氏とダン・シュガー氏は、衛星画像からランタン・リルン(Langtang Lirung)の氷河直下にある岩盤が崩れ、岩石と氷が谷へ落下した跡を読み取った。土砂は急で狭い谷を下り、氷が解けて水量を増しながら集落へ達したと分析した

これは衛星画像に基づく初期分析である。ネパール外務省は29日の会見でも洪水の原因は完全には確定していないとし、政府の最終的な原因調査は示していない。

せき止め湖とトンネル救助 国際支援も進行

NDRRMAは衛星画像と初期評価から、上流で川がせき止められ、新たな湖が形成されたと説明した。湖が決壊すれば下流で再び急激な洪水が起きる恐れがあるとして、救助要員らに警戒を求めた。湖の水量と堤体の安定性は変化するため、29日時点の評価を固定的な安全判定には使えない。

ネパール政府は、生存者探知、迅速なDNA分析、遺体保存、泥水が入ったトンネルの救助に専門支援を求めた。インドの11人の技術調査隊が投入され、中国のトンネル救助隊も到着する予定とされた

英国政府は迅速展開チームが29日にカトマンズへ到着する予定とし、英国人の空港移動、行方不明の親族に関する情報、現地当局との調整を支援すると発表した。救援と復旧には500万ポンドを拠出する日本政府も28日、ネパール政府の要請を受け、テントや毛布などの緊急援助物資を供与すると決めた

邦人5人の安否と日本からの渡航情報

日本外務省は8月27日、ネパールで邦人5人の安否を確認中と公表し、ネパール側に捜索への協力を要請した。5人の安否確認結果を示す日本政府の続報は、本稿の執筆時点で確認できていない。

外務省海外安全ホームページのネパール欄は、本稿の執筆時点で洪水に特化したスポット情報や在ネパール日本大使館発の安全情報を掲載していない。最新の危険情報は洪水前の7月9日付で、治安情勢を扱い、被災中心地のラスワ郡を全土レベル1の対象に含めていない

危険情報のレベルだけでは、被災した道路、橋、宿泊施設、国境検問所の復旧状況は分からない。渡航予定者はネパール当局、航空会社、旅行会社の更新時刻をそろえて確認し、3カ月未満の滞在では外務省の「たびレジ」に旅程と連絡先を登録する必要がある。

よくある質問

なぜ遺体の収容が下流域まで広がったのか
水と土砂がボテコシ川からトリシュリ川へ流れ込み、人や建物を下流へ運んだためである。29日午前6時の地区別集計では、チトワン郡の収容数が発生地ラスワ郡を大きく上回った。

626と669のどちらが正しいのか
626は29日午後2時のネパール外務省発表、669は同日午後4時の警察発表である。後者は遺体の一部211件を含むため、同じ単位の確定死者数として比較できない。

日本の外務省は洪水を受けた新しい危険情報を出したのか
本稿の執筆時点で、洪水固有のスポット情報は確認できていない。既存の危険情報は洪水前の治安評価であり、現地の道路や行程の可否を示す情報ではない。