イランの写真記者ヤルダ・モアイエリ(Yalda Moaiery)氏は8月9日、テヘランの革命裁判所から一審で禁錮15年を言い渡されたと明らかにした。本人に取材した仏紙ル・モンドによると、裁判所はカメラと携帯電話の没収に加え、文化・芸術活動、公職への就任、SNSへの投稿を禁じた

判決は、2026年の戦争をめぐり、イスラエルと米国を強化する目的で外国メディアに協力したと認定したとされる。モアイエリ氏は事件記録の閲覧を認められなかったが、裁判所職員が記録をめくった際、自分の写真と外国メディアへの取材対応が含まれているのを見たとル・モンドに説明した。

木製の法槌と法廷を模した机上の小物(イメージ)

本人不在の審理──停止された電話への召喚

起訴内容を審理した法廷は6月に開かれたが、モアイエリ氏は出席していなかった。同氏の説明では、当局が停止した携帯電話番号へ召喚の連絡が入ったため、審理を知らなかった。判決は一審であり、同氏は本人不在だった審理のやり直しを求める意向を示している。

記者保護委員会(Committee to Protect Journalists、CPJ)は、イラン革命防衛隊が2月3日にテヘランの自宅を捜索し、携帯電話、パソコン、カメラを押収したと記録している。当時、モアイエリ氏は1月の抗議行動と当局による弾圧を撮影していた。ル・モンドも、同紙がモアイエリ氏の写真を掲載した後、2月と3月に自宅捜索があり、機材が押収されたと報じた。

新法──情報提供とメディア活動も対象

判決の背景にある新法は、「国家の安全と利益に反するシオニスト政権および敵対国とのスパイ・協力に対する刑罰強化」を掲げる。Iran Internationalは、護憲評議会が2025年10月1日に法案を承認し、イスラエルや米国へのスパイ行為と情報活動を死刑の対象となる「地上の腐敗」(efsad-e fel-arz)に位置づけ、敵対的とみなす組織への情報、メディア内容、支援の提供には行為に応じて禁錮2〜15年を定めたと報じた

法案は2025年6月のイスラエルとの12日間の戦争後に国会を通過し、護憲評議会が条文の曖昧さを理由に一度差し戻した。修正後の法案は同年10月に効力を持ったが、日付の記載は一致しない。国連特別手続の2025年11月27日付書簡は10月1日施行とし、新法が情報発信やメディア活動、外国や国外メディアとの接触までスパイ行為の範囲に広げたと説明する。一方、アムネスティ・インターナショナルの2025年死刑報告は施行日を10月15日とし、曖昧な国家安全保障罪に死刑を広げたと記録している。本稿はこの不一致を踏まえ、「2025年10月施行」とする。

新法の影響は条文上の可能性にとどまらない。アムネスティ・インターナショナルは2026年5月、空爆で損壊した場所を撮影し、画像をメディアやオンライン上で共有する行為を「敵への協力」として法的責任を問うとの当局の警告を確認した。外国メディアとの協力や写真を問題にしたとされる今回の判決は、報道行為と国家安全保障上の犯罪の境界が当局の判断に委ねられている現状を映す。

2022年にも抗議取材で拘束

モアイエリ氏は紛争、災害、イラン国内の抗議行動を20年以上撮影してきた。世界報道写真財団(World Press Photo)の人物紹介では、マフサ・アミニ(Mahsa Amini)氏の死を受けた2022年の抗議行動を取材中に拘束され、3カ月収監された後、禁錮8年を言い渡された

国際女性メディア財団(International Women's Media Foundation、IWMF)の公式発表は、拘束日を2022年9月19日、保釈日を同年12月20日とし、モアイエリ氏を2023年の「Wallis Annenberg Justice for Women Journalists Award」に選んだ。IWMFは、同氏が紛争や災害を20年にわたり撮影してきた経歴と、抗議行動の取材中に拘束された事実を受賞理由の背景に挙げた。

判決文が示されない限界

正式な判決文の全文は、本稿の執筆時点で公開資料から確認できていない。罪名、証拠、15年という量刑の内訳は、モアイエリ氏の説明と国外報道から把握できる範囲に限られる。革命裁判所の支部番号も報道ごとに情報がそろわないため、本文では特定していない。

判決は一審で、モアイエリ氏は審理のやり直しを求める意向を示している。上級審が判断を維持するか、刑が執行されるかは確定していない。日本政府がモアイエリ氏の判決や新法について個別の見解を示した公表資料も、本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

禁錮15年の判決は確定したのか
確定していない。ル・モンドは一審判決と報じ、モアイエリ氏は本人不在で行われた審理のやり直しを求める意向を示している。

新法は報道活動をどう扱うのか
外国や国外のメディアへの情報提供や接触を、当局が国家安全保障に反すると判断した場合に処罰対象とする。提供した内容と行為の認定によって禁錮刑や死刑が規定される。

モアイエリ氏には死刑が言い渡されたのか
死刑ではなく、禁錮15年の一審判決だ。新法にはスパイ行為や情報活動を死刑の対象とする条項があるが、本件で公表された刑は15年である。