浸水した住宅では、床や壁、家具に残った汚泥と水分への対応が先になる。見える範囲へ消毒剤をまくだけでは、汚れの下や壁内に残る湿気を除けず、カビの発生も抑えにくい。

カビやダニは誰にでも同じ症状を起こすわけではない。環境再生保全機構は、ダニ、ハウスダスト、カビなどが本人のぜん息の原因と確認されている場合、原因に合わせた室内環境の整備が必要だとしている。部屋が湿っていたという事実だけで、鼻水やせきの原因をカビと決めるのは避ける。

先に確認する呼吸困難の警告サイン

成人で、息苦しくて横になれない、苦しくて動けない、唇や指先が青白い、呼吸音が弱くなる、呼びかけへの反応がおかしい場合は、環境の片付けを中止して119番へ連絡する。環境再生保全機構は、横になれない、動けない状態では速やかな救急外来受診か救急車を求め、呼吸の減弱、チアノーゼ、呼吸停止では直ちに救急車を呼ぶよう示している。ぜん鳴や胸苦しさが続く、夜に苦しくて眠れない場合も、清掃や除湿だけで様子を見続けず受診する。

子ども、妊婦、高齢者、持病のある人

子どもでは、遊べない、話せない、歩けない、食事がほとんど取れない、横になれない、眠れないといった普段の生活との違いも呼吸状態を見分ける手掛かりになる。環境再生保全機構は、顔色が悪い、ぼんやりする、明らかなぜん鳴がある、息を吸うときに喉元や肋骨の間がへこむ場合を、直ちに受診すべき強い小児ぜん息発作の兆候に挙げている。顔色が急に悪化した、反応が鈍い、会話できないほど苦しい場合は119番へ連絡する。

妊娠中の人、高齢者、呼吸器や心臓に持病がある人、常用薬がある人は、新たな息苦しさや持病の悪化を室内環境だけの問題と判断しない。ぜん息と診断されている人は医師と決めた行動計画に従い、処方薬の使い方を自己判断で変えず、症状が続く場合は医療機関へ相談する。乳幼児や体力が低下している人は、カビや粉じんが舞う清掃場所から離す。

浸水後──消毒より先に清掃と乾燥

厚生労働省は、家屋が浸水した場合、土砂の撤去、十分な清掃と乾燥を先に行い、その後に必要な消毒を検討するよう案内している。消毒方法が分からない場合の相談先は居住地の市町村窓口である。浸水の程度、汚染、建材、消毒剤の製品濃度が違うため、一つの希釈率をすべての住宅へ当てはめない。

厚生労働省の清掃資料は、ドアと窓を開けて換気し、汚泥を取り除いて乾燥させるとともに、粉じんから目と口を守るゴーグルとマスク、けがを防ぐ手袋と底の厚い靴を使うよう求めている。消毒剤を使う場合も、泥や汚れを落とす作業が先だ。

見えるカビと壁内の湿気を分けて対処

小さなカビ斑を薬剤で除く場合は換気し、手袋とマスクを着け、胞子を周囲へ広げないようにする。東京都の住宅指針は、カビへ直接掃除機をかけると胞子が飛散すると注意し、市販の塩素系カビ取り剤を酸性洗剤と混ぜないよう求めている。薬剤は製品表示に従い、換気の悪い場所で複数の洗剤を併用しない。

床下、壁の内部、断熱材まで水が入った住宅は、表面の拭き取りだけで乾燥を判断しにくい。内閣府の行政向け資料は、浸水した断熱材の撤去、汚泥の除去、床・柱・壁の清掃を行い、木材を十分に乾燥させる手順を示している。建材の撤去範囲を居住者が一律に判断する国内の公的な自己判定基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。壁の膨れ、剥がれ、強いカビ臭、床下や壁内への浸水がある場合は、自治体の住宅相談窓口や建築の専門家へ確認する。

湿気で壁の隅に生じた黒いカビ(イメージ)

湿度計で確かめる──40〜60%は住環境の目安

東京都の「健康・快適居住環境の指針」は、住宅の湿度管理で40〜60%を目安にしている。これは全国一律の法的基準でも、アレルギー症状を防ぐ境界値でもない。温湿度計を居間と寝室の生活する高さに置き、雨天、入浴後、就寝中など時間帯ごとの変化を見る。

東京都のダニ対策資料は、室温25〜30度、湿度60%以上をダニが生息しやすい条件に挙げ、布団、畳、カーペットなど湿気を含む場所の乾燥を促している。同じ東京都のカビ対策資料は、カビが好む条件の一つを湿度70%以上としている。室内の数値が高い状態なら、浴室と台所の換気扇、除湿器、エアコンの除湿運転を使い、結露水を拭き取る。除湿後も壁内や床下が乾いたとは限らない。

寝具は乾燥、吸引、洗濯を組み合わせる

寝具は汗と皮脂が残りやすく、ダニの生息場所になりやすい。横浜市は、寝具やクッションを乾燥させて掃除機で吸引し、ダニのフンや死骸を洗い流すため、こまめに洗う方法を案内している。シーツやカバーは洗濯表示に従って洗い、布団やマットレスは十分に乾かした後、表面をゆっくり吸引する。

乾燥させただけでは、残ったフンや死骸まで取り除けない。寝具の手入れと床の清掃を一組にし、畳の上にカーペットを重ねるなど湿気が抜けにくい状態を避ける。高温洗濯が使えるかどうかは素材と洗濯機で異なるため、温度を一律に決めず表示を確認する。

洗濯と天日干しで寝具を手入れする様子(イメージ)

鼻水やせきだけで原因を決めない

アレルギーポータルは、ダニやホコリによる通年性アレルギー性鼻炎の主な症状として、連続するくしゃみ、透明で水のような鼻水、鼻づまりを挙げている。一方、同じ症状は感染症や別の刺激でも起こる。カビを見つけた時期と症状の開始が重なっても、それだけで原因アレルゲンは確定しない。

夜間や早朝のせき、繰り返すぜん鳴、息苦しさがある場合は、発症日時、過ごした部屋、湿度、清掃作業との前後関係を記録して医療機関へ伝える。原因を調べる診察や検査と、室内の湿気を減らす作業は役割が異なる。すでにぜん息の治療中なら、症状が増えたことを主治医へ伝え、環境整備を理由に処方治療を中断しない。

よくある質問

湿度を60%未満にすればカビもダニもなくなるのか
なくなるわけではない。湿度は増殖に関わる条件の一つで、壁内や寝具の局所的な湿気、温度、汚れも影響する。湿度計の数値と、結露、カビ斑、建材の湿りを分けて確認する。

浸水後は家中を先に消毒するのか
厚生労働省の順序は、土砂の除去、清掃、乾燥が先である。消毒が必要な範囲と方法は、居住地の市町村と製品表示を確認する。

見えるカビへ掃除機をかけてよいのか
東京都の指針は、胞子を周囲へ広げるため直接の掃除機がけを避けるよう示している。換気と防護を整え、素材に合う方法で除去する。

除湿すれば鼻炎やぜん息は治るのか
除湿と清掃は、室内アレルゲンへの曝露を減らす対策である。症状の原因確定や治療にはならないため、繰り返す鼻症状、夜間のせき、ぜん鳴、息苦しさは医療機関へ相談する。