AI医療機器の規制は、AIという技術名ではなく、ソフトが患者や医療従事者の判断に何をもたらすかで入口が決まる。生活習慣の記録、診断画像の解析、治療方針の提示では、誤りが生む危害も利用者が結果を検証できる余地も違う。米国、日本、EUはいずれもこの差を制度に織り込むが、規制対象から外す条件、上市前審査、承認後の更新を扱う方法は同じではない。

米FDA──低リスク除外と医療機器審査を併用

米食品医薬品局(FDA)は、AI搭載製品を一括して規制対象にしているわけではない。2026年1月更新の一般健康製品に関する指針は、健康的な生活の維持や促進を目的とし、疾病の診断、治癒、軽減、予防、治療と無関係な一定のソフト機能は医療機器に当たらないと説明している。ここで外れるのは用途とリスクが限定された機能であり、AIを使う製品全般ではない。

臨床意思決定支援(Clinical Decision Support、CDS)にも別の線がある。FDAの2026年1月版指針は、医療従事者への推奨を示すソフトのうち、連邦食品医薬品化粧品法が定める条件をすべて満たす機能を医療機器の定義から除外する一方、定義に残るソフトには既存のデジタルヘルス政策が及ぶとしている。医療画像や検査機器の信号を解析せず、医療従事者が推奨の根拠を独立に検討でき、ソフトの出力だけに依存しない設計などが境界になる。

規制対象に残るAI医療機器は上市前審査を受ける。FDAは公開一覧に収録したAI医療機器について、用途と技術特性に応じた安全性・有効性の評価を含む上市前要件を満たしたと説明している。同時に、この一覧は承認文書などのAI関連用語から抽出したもので、網羅的ではないとも明記する。件数の多さだけで規制の緩急を測ると、収録方法の違いを見落とす。

医療従事者が放射線画像を確認する様子(イメージ)

日本──薬機法の該当性と承認後の変更計画

日本にも低リスクの除外がある。厚生労働省は、疾病の診断・治療を目的とし、意図どおりに動かなければ患者や利用者の生命・健康に影響するおそれがあるソフトを薬機法上の医療機器プログラムとし、健康への影響がほとんどない一般医療機器相当の機能を対象から外している。AIかどうかより、目的と不具合時のリスクが該当性を左右する点は米国と共通する。

対象に入った製品は、リスク区分と既存の認証基準の有無に応じ、登録認証機関による認証または厚生労働大臣の承認を経る。AI医療機器だけを別法で審査する仕組みではなく、薬機法の医療機器規制の中で性能や安全性を確認する形だ。厚生労働省が公表した会合議事録で、PMDAは2025年8月末までにAIを活用したプログラム医療機器55品目が承認され、内視鏡、CT、MRI、超音波、脈波、心電図などの解析に使われていると説明した。この55品目は日本のAI医療機器すべてを米FDAと同じ基準で数えた値ではない。

病院内に設置された医療監視機器(イメージ)

AIでは承認後の更新も審査設計の一部になる。新しいデータでモデルを改良するたびに性能が変われば、当初の承認範囲との関係を整理しなければならない。PMDAは医療機器変更計画確認申請制度「IDATEN」の通知に加え、AI関連医療機器とプログラム医療機器の変更計画に関するQ&A、申請書の記載事例を公開している。あらかじめ確認された変更計画に沿って改良する仕組みであり、「審査するか、自由に更新するか」という二者択一を避ける。

EU──医療機器規則にAI法の義務を重ねる

EUでは、医療機器規則(MDR)または体外診断用医療機器規則(IVDR)の適合性評価が先にあり、条件を満たすAIにはAI法が重なる。AI法第6条は、附属書IのEU調和法令が対象とする製品の安全部品となるAI、またはAI自体が製品であり、その製品の上市に第三者適合性評価が必要な場合を高リスクAIに分類する。医療機器と体外診断用医療機器は附属書Iに含まれるため、第三者評価が必要な製品ではこの条件が効く。

高リスクに分類されると、リスク管理、データとデータガバナンス、技術文書、ログ、人への情報提供、人による監督、精度・堅牢性・サイバーセキュリティが要件になる。MDRやIVDRの審査を終えればAI法への対応が不要になるわけではない。一方、すべての健康アプリや医療ソフトが自動的に高リスクへ入るわけでもなく、製品規制の対象と第三者評価の要否が分岐点になる。

建物の前に掲げられた欧州連合の旗(イメージ)

比較の焦点は件数より境界と更新

三制度の違いは「米国は緩く、EUは厳しく、日本はその中間」という一列の順位には収まらない。米国は一般健康用途と一定のCDSを医療機器の定義から外し、対象に残る機器は上市前審査と市販後規制で扱う。日本は薬機法上の該当性を目的と危害の可能性から判断し、認証・承認に加えてIDATENで予定された変更を扱う。EUは既存の製品安全規制に、高リスクAI向けの横断的な義務を重ねる。

比較するときは、第一にどの機能が医療機器へ入るか、第二に上市前に誰が何を審査するか、第三にモデル更新をどの手続きで管理するかを分けて見る必要がある。公開件数はその後の指標だ。FDAの一覧は網羅的ではなく、日本の55品目はプログラム医療機器の承認数で、EUは製品規制とAI法の双方を読む必要がある。分母と収録範囲がそろわない数字を並べても、審査速度や患者保護の強さは判定できない。

日本については別の情報差も残る。承認品目と制度の資料は公開されているが、AI医療機器の導入施設数、継続利用率、診療報酬上の評価を横断した公的統計は、本稿の執筆時点で確認できていない。上市許可の件数は入口を示すにとどまり、医療現場への定着や臨床上の価値まで表す数字ではない。

よくある質問

FDAは低リスクのAI医療機器をすべて審査対象から外したのか
外していない。一般健康用途の指針は、疾病の診断や治療などと無関係な低リスク機能を扱う。CDSの除外にも法定の条件があり、医療画像や機器の信号を解析する機能、医療従事者が推奨根拠を独立に検討できない機能などは同じ扱いにならない。

日本ではAIを使えば自動的に医療機器になるのか
ならない。判断の軸はAIの使用そのものではなく、疾病の診断・治療という目的と、不具合が生命・健康へ与える影響である。健康への影響がほとんどない機能は薬機法上の医療機器プログラムから外れる。

EUでは医療機器のAIがすべて高リスクになるのか
一律ではない。AI法第6条第1項では、対象製品がEU調和法令の範囲に入り、上市に第三者適合性評価を要することが条件になる。医療用途をうたうか、どのリスク区分に入るか、第三者評価が必要かを順に確認する必要がある。