医療情報を「自分で見る」「別の医療機関と共有する」「研究開発に使う」は、それぞれ別のデータ経路だ。マイナポータルで診療歴や薬剤情報を確認できるようになっても、それだけで個人のカルテが医療AIの訓練用データに加わるわけではない。日本では目的ごとに仕組みが分かれ、本人の立場も利用者、患者、情報提供の対象者へと変わる。

一人の利用者が医療データを共有するか画面の前で考える様子(イメージ)

一つに見える医療データ、実際は三つの経路

第一は、本人が自分の情報を取得し、必要に応じて外部サービスへ渡す経路だ。デジタル庁の医療保険情報取得APIは、診療・薬剤情報、健診情報、医療費通知情報をマイナポータルから取得し、本人の同意を受けた外部サービスへ提供する仕組みである。健康管理アプリなどがAPIを使うにはデジタル庁の審査があり、利用者はマイナンバーカードで本人確認と同意を行う。ここでの本人は、自分の情報を使うサービスの利用者だ。

第二は、診療に必要な情報を医療機関の間で共有する経路である。厚生労働省は電子カルテ情報共有サービスについて、診療情報提供書の電子共有、健診結果の閲覧、臨床情報の閲覧、本人向け患者サマリーの閲覧という四つの機能を示している。転院先が診療情報提供書や検査結果を受け取る場面はこちらに属する。本人向けアプリへのデータ提供とは、利用者も責任の所在も同じではない。

第三は、個々の診療を離れ、研究開発へ二次利用する経路だ。次世代医療基盤法は、医療機関から医療情報を集め、国が認定した事業者が匿名加工または仮名加工を施し、医療分野の研究開発へ提供する基盤を定めている。AIモデルの開発に医療データを使う場合は、この研究開発の経路が関わりうる。マイナポータルの画面で自分の診療情報を見る操作とは別の制度である。

転院先の受付で診療情報の共有状況を確認する患者(イメージ)

マイナポータルは本人が情報を使う入口

マイナポータルの医療保険情報取得APIで外部サービスに情報を渡す主体は本人である。データの項目には診療情報、薬剤・処方・調剤情報、健診情報、医療費通知情報が含まれるが、利用者が提供に同意したサービスに限って連携する。APIを組み込んだ事業者が無条件で医療情報を取り出す設計ではない。

医療機関の窓口でマイナ保険証を使う場合も、情報提供の選択がある。デジタル庁の案内では、カードリーダーで本人確認した後、医師や薬剤師へ渡す過去の診療・薬剤情報と特定健診情報を本人が選び、同意した情報だけを医療機関や薬局が閲覧する。この同意の目的は診療と投薬であり、AI開発への包括的な提供同意ではない。

本人向けの情報取得と医療機関での情報共有を分けた図

診療情報の共有は重複検査を自動でなくさない

電子カルテ情報共有サービスは、紹介元から紹介先へ診療情報提供書を送る経路や、臨床情報を閲覧する基盤を整える。だが、情報が届けば検査を繰り返さずに済むと一律には決められない。検査の時期、画像や数値の品質、患者の状態の変化を踏まえ、再検査が必要かを判断するのは診療側である。

共有できる情報の範囲も、マイナポータルで本人が確認する医療保険情報と完全には重ならない。診療情報提供書、健診結果、臨床情報、患者サマリーは用途が異なり、どの情報を登録し、どの医療機関が閲覧できるかはサービスへの参加とシステム対応に左右される。全国の医療機関で同じ範囲の電子カルテ情報が直ちに共有される段階に達したと示す公的な普及率は、本稿の執筆時点で確認できていない。

本人による閲覧と医療機関間の共有と研究利用を三つに分けた図

研究利用では通知、拒否、加工方法を確認

診療情報は取り扱いに特別な配慮を要する。個人情報保護委員会のガイダンスは、診療録、診療・調剤の過程で得た情報、健康診断の結果などを要配慮個人情報とし、取得と第三者提供には原則として本人の同意が必要だと説明している。通常の個人データで用いられるオプトアウトによる第三者提供も、要配慮個人情報には原則として認められない。

一方、次世代医療基盤法は特別法として、医療機関があらかじめ本人へ通知し、本人が拒否しなければ、認定作成事業者へ医療情報を提供する枠組みを置く。本人にとっての確認点は、通知を受けたか、提供を拒む窓口がどこか、拒否後の情報がどう扱われるかである。マイナポータル連携を止める操作と、次世代医療基盤法にもとづく提供を拒む手続きは同じではない。

加工方法の違いも見落とせない。匿名加工医療情報は特定の本人を識別できず、元の個人情報を復元できないようにする。仮名加工医療情報は、他の情報と照合しない限り本人を識別できない形に加工する一方、利用者にも国の認定を求める。どちらも「名前を消したデータ」という一言では足りず、利用目的、提供先、照合の制限、研究終了後の扱いまで見る必要がある。

複数の人が医療データの基盤を組み立てる様子(イメージ)

参加の有無はサービス単位で決まる

医療データの提供を一つのスイッチとして捉えると、本人向けサービスの同意と研究利用の拒否を取り違える。確認する順番は、誰がデータを受け取るのか、目的は診療か本人向けサービスか研究開発か、同意または拒否をどこで示すのか、加工後の情報を誰が使うのか、の四点になる。

日本の制度では、マイナポータルを使った事実から医療AIの学習への参加を推定できない。反対に、マイナポータルを使っていなくても、医療機関から次世代医療基盤法にもとづく通知を受ける場面はありうる。データの入口ではなく、目的と法的な経路を分けて読むことが判断の前提になる。

同意、拒否、監督、二次利用の確認項目を示した図

よくある質問

マイナポータルで診療情報を見ると、医療AIの学習にも使われるのか
自動的には使われない。マイナポータルは本人が情報を確認し、同意した外部サービスへ渡す経路である。研究開発への提供には、次世代医療基盤法など別の根拠と手続きが要る。

マイナ保険証の情報提供に同意すると、研究利用にも同意したことになるのか
ならない。窓口で選ぶ同意は、医師や薬剤師が過去の診療・薬剤情報や特定健診情報を診療と投薬に使うためのものだ。研究利用の通知や拒否とは分けて扱う必要がある。

転院先で情報を共有できれば、同じ検査を受けずに済むのか
保証はない。電子カルテ情報共有サービスは紹介状や臨床情報を共有する基盤だが、届いた情報が現在の診療に足りるか、再検査が必要かは医療機関が個別に判断する。

研究利用を望まない場合、どこで拒否するのか
次世代医療基盤法にもとづく提供では、情報を提供する医療機関などからの通知に拒否方法と窓口が示される。マイナポータルの外部サービス連携を解除する操作とは別なので、通知文書ごとに確認が要る。