パラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)は、約140万年前の東アフリカにいた絶滅人類の一系統だ。化石記録は大きな顎と臼歯を備えた頭骨に偏り、首から下の体格や仲間とどう移動したかは十分に分かっていなかった。ケニア北部のトゥルカナ湖東岸に残る足跡群が、その空白を埋める手掛かりになった。

8個体が残した湖岸の足跡

米国とケニアの国際研究チームは、GaJi10と呼ばれる遺跡の足跡を調べた。マックス・プランク協会の2026年7月27日の発表によると、足部の形態と動きのパターンを2024年に開発した分析法で比較し、約140万年前にパラントロプス・ボイセイ8個体が同じ湖岸を移動した痕跡と判断した。研究成果は米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、PNAS)に掲載された。

全ての個体は成体とみられ、足跡群は一つの場所をまとまって通った場面を記録している。ただし、足跡が同じ面に並ぶことは行動の近さを示しても、8個体の関係や移動の目的までは明らかにしない。

砂質の地層から化石の痕跡を調べる発掘現場(イメージ)

足跡から推定した最大1.8メートル

研究チームが注目したのは足跡の大きさだ。最大の個体は身長約1.8メートル、体重約75キロだったと推定された。パラントロプス・ボイセイは、これまで希少な体幹や四肢の骨格化石から同時代のホモ・エレクトス(Homo erectus)よりかなり小柄と考えられてきた。今回の推定は、少なくとも一部がホモ・エレクトスに近い体格だった可能性を示す。

ここで示された数値は、骨の長さや関節を直接測った結果ではない。足跡の寸法を体格へ換算した推定であり、保存状態、歩き方、地面の硬さによって痕跡の大きさは変わりうる。8個体の一部に従来の想定を上回る個体がいたという発見と、種全体が大型だったという結論は分けて扱う必要がある。

雄性中心の集団だった可能性

足跡の大きさと並び方から、8個体の多くは成体の雄性だったと研究チームはみる。雌性や幼い個体と明確に判断された足跡が見当たらないため、雄性が集団で湖岸を移動した場面だった可能性がある。共同著者のニール・ローチ氏は、雄性同士が時に共同行動を取る社会構造を示唆すると説明した。

社会構造という解釈には慎重さも要る。足跡は短い時間の行動を保存した記録で、集団が普段から同じ構成で暮らしていたかは分からない。性別も足跡から直接確認したものではなく、寸法などをもとにした判定だ。単一遺跡の一場面から、種全体の生活様式を決めることはできない。

近隣では2種が同じ地表面を通過

トゥルカナ湖東岸では、別の足跡群も古人類の共存を示している。2024年にScienceで公表された研究についてAP通信は、パラントロプス・ボイセイとホモ・エレクトスの足跡が同じ地表面に残り、両者が数時間から長くても数日の間隔でその場所を通ったと伝えた。骨格化石の年代比較より短い時間幅で、2種が同じ湖岸環境を使った証拠となる。

GaJi10の研究は、こうした共存の風景に体格と集団行動の情報を加えた。マックス・プランク協会によると、東トゥルカナでは6カ所を超える遺跡から数百の古人類の足跡が記録され、10万年以上にわたり湖岸が繰り返し利用されたとみられる。個々の足跡面は短い一場面にすぎないが、複数の遺跡を重ねることで、骨や歯だけでは追えない移動の実態が見え始めている。

よくある質問

足跡はパラントロプス・ボイセイのものとどう判断したのか
研究チームは、足部の形態と足跡に残った動きのパターンを、2024年に開発した分析法で比較した。骨格やDNAが足跡と一緒に残ったわけではなく、形態にもとづく帰属である。

身長1.8メートル、体重75キロは実測値か
実測値ではない。最大級の足跡の寸法から換算した推定値で、8個体全員が同じ体格だったことを意味しない。

8個体は家族だったのか
関係は確認されていない。研究チームは全てを成体、多くを雄性とみており、雌性や幼い個体を含む家族集団とは異なる可能性を挙げた。足跡だけで恒常的な集団構成までは判断できない。