薬の過量服用(overdose)は、医薬品を決められた量を超えて服用することを指す。呼びかけに反応しない、呼吸が弱い・普段どおりでない、けいれんがある場合は、原因となった薬を調べ終える前に119番を呼ぶ。
国際オーバードーズ啓発デー(International Overdose Awareness Day)の公式キャンペーンは、2026年8月31日のテーマを「25 Years On. Still Needed」とし、予防、支援への接続、救命介入を広げる必要性を掲げた。日本では急性中毒への対応に加え、一般用医薬品の販売規制と、服用を繰り返す人を相談へつなぐ経路が焦点になる。
意識・呼吸の異常は119番──薬の特定を待たない
厚生労働省の救急案内は、意識障害、けいれん、急な息切れ・呼吸困難を、すぐに救急車を呼ぶ状態に挙げ、119番では住所、年齢、呼吸、顔色、会話の可否、症状を伝えるよう案内している。すでに過量服用した可能性があり、呼びかけへの反応や呼吸に異常があれば、119番の指令員に従う。
- 119番へ場所と状態を伝える。 意識、普段どおりの呼吸か、けいれんや外傷の有無、分かる範囲の薬名と服用時刻を伝える。
- 薬の包装と残りを確保する。 薬袋、容器、説明書、お薬手帳、残った錠剤を捨てず、救急隊へ渡す。
- 家庭で吐かせない。 日本中毒情報センターは、吐いた物が気管へ入る危険があるため家庭で吐かせる処置を勧めず、意識消失やけいれんがあれば直ちに救急車を呼ぶとしている。
- 指令員の指示以外の飲食や処置を加えない。 飲ませる物や応急手当は原因物質と状態で変わるため、119番または中毒110番の指示を優先する。
意識があり、呼吸と脈拍に明らかな異常がないものの、医薬品を飲み過ぎた可能性や受診の要否を相談したい場合は中毒110番がある。日本中毒情報センターの一般専用電話は365日24時間対応で、大阪中毒110番は072-727-2499、つくば中毒110番は029-852-9999であり、医療用医薬品と一般用医薬品による実際の急性中毒を扱う。意識・呼吸の異常やけいれんがある時は、中毒110番への相談より119番を先にする。
小児・妊娠中・高齢者、持病や常用薬のある人
小児、妊娠・授乳中、高齢者、持病や常用薬のある人に、成人一般の服用量や経過観察をそのまま当てはめない。意識や呼吸の異常、けいれんがあれば119番を呼び、年齢、体重、妊娠の可能性、持病、常用薬を分かる範囲で伝える。症状が明らかでなくても、飲んだ薬と量を自己判断で安全と決めず、中毒110番か医療機関へ相談する。
子どもの誤飲では、残った薬や包装から商品名と減った量を確かめる。包装を探すために119番通報を遅らせてはならない。妊娠中の胎児への影響や常用量での副作用は中毒110番の取扱対象外であるため、急性中毒への対応とは別に産科や処方医へ相談する。
救急搬送10,682人──全国値ではない日本の集計
消防庁と厚生労働省が政令市消防本部、東京消防庁、各都道府県の代表消防本部の計52本部を調べた資料では、医薬品の過剰摂取が疑われる救急搬送は2020年9,595人、2021年10,016人、2022年10,682人だった。2022年は10代が1,494人、20代が3,295人で、全体の女性7,980人、男性2,702人だった。
この集計は、救急活動記録の初診時傷病名に「OD」「オーバードーズ」「薬」と「過量」などの語がある事例を拾った参考値である。調査対象は全国すべての消防本部ではなく、誤飲など意図しない過量摂取も含みうる。10,682人を日本全体の年間発生数や、依存症の患者数として扱うことはできない。
2026年5月の販売規制──対象は8成分
厚生労働省は2026年5月1日、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、ジフェンヒドラミン、デキストロメトルファン、プソイドエフェドリン、ブロモバレリル尿素、メチルエフェドリンの8成分を含む外用剤以外の製剤を「指定濫用防止医薬品」として扱い始めた。従来の6成分に、ジフェンヒドラミンとデキストロメトルファンが加わった形である。
販売時には、薬剤師または登録販売者が他店や他の指定濫用防止医薬品の購入状況を確かめ、多量購入では理由を確認し、必要な情報を提供することが義務になった。販売規制は大量・頻回購入を減らし、支援が必要な購入者を相談先へつなぐ接点を増やす制度であり、手元にある処方薬や規制対象外の成分まで一括して管理する仕組みではない。
厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年度調査では、旧制度の「濫用等のおそれのある医薬品」を複数購入しようとした際の対応が適切だった割合は店舗86.8%、インターネット90.5%だった。調査期間は新制度の施行前に当たるため、この数字から2026年5月以降の規制効果は判断できない。
ナロキソンの役割──すべての過量服用には効かない
ナロキソン(naloxone)はオピオイド受容体への作用を遮断する薬だが、成分不明の過量服用を一括して治す薬ではない。医薬品医療機器総合機構(PMDA)が掲載するナロキソン塩酸塩静注は処方箋医薬品で、効能は麻薬による呼吸抑制と覚醒遅延の改善であり、非麻薬性中枢神経抑制薬や病的原因による呼吸抑制には無効と記載されている。
添付文書は、麻薬の作用時間がナロキソンより長い場合、呼吸抑制が再び現れる可能性があるため、反応後も監視が必要としている。ナロキソンへの反応は救急要請を取り消す根拠にならず、市販のかぜ薬や睡眠薬など複数成分による中毒の万能な解毒とはならない。
一般の人がナロキソンを受け取れる国内の全国配布地点を示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。海外の地域配布制度を日本国内の入手方法として案内せず、疑われる過量服用では119番を起点とする。
急性期の後──服用を繰り返す背景も相談対象
厚生労働省は、一般用医薬品には複数成分を含む製品があり、過量服用時は作用が重なって治療が難しくなる場合があるとし、本人がやめにくい時や家族が気づいた時にも専門窓口へ相談するよう案内している。急性中毒が落ち着いた後も、同じ服用を繰り返す、薬を集める、つらさや死にたい気持ちと服用が結び付く場合は、次の過量服用を待たず相談につなぐ。
厚生労働省の依存症対策ページは、保健所、精神保健福祉センター、都道府県・指定都市の依存症相談拠点を本人と家族の相談先として案内している。精神保健福祉センターでは薬物依存と家族の相談を電話や面接で受け、地域ごとにサービス内容が異なるため、事前に連絡先と受付方法を確認する。
「死にたい」「消えたい」という気持ちと過量服用が結び付き、すでに薬を飲んだ場合や意識・呼吸に異常がある場合は119番を優先する。まだ服用しておらず、直ちに身体の救急対応を要する状態ではないものの、誰かと話す必要がある時は、厚生労働省「まもろうよ こころ」が毎日24時間の「#いのちSOS」0120-061-338と「よりそいホットライン」0120-279-338、SNS相談を案内している。
よくある質問
飲んだ量が分からない場合、様子を見てもよいか
意識・呼吸の異常やけいれんがあれば119番を呼ぶ。意識があり呼吸と脈拍に明らかな異常がなくても、商品名、服用時刻、残量を手元に置いて中毒110番へ相談し、自己判断で経過観察時間を決めない。
ナロキソンがあれば119番は不要か
不要にはならない。ナロキソンの対象は麻薬による呼吸抑制などに限られ、効いても呼吸抑制が再び現れる場合がある。原因物質が不明な時は、ナロキソンの有無にかかわらず救急要請を遅らせない。
家族の過量服用が続く時はどこへ相談するのか
保健所、精神保健福祉センター、依存症相談拠点が本人と家族の相談を扱う。処方薬が関係する場合は、処方医にも実際の服用状況を伝える。すでに大量服用した場合や意識・呼吸に異常がある時は119番を優先する。
出典・参考資料
- International Overdose Awareness Day 2026 campaign resources(International Overdose Awareness Day/Penington Institute)2026年のテーマと8月31日のキャンペーン資料
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)意識障害、けいれん、呼吸困難の救急要請と119番で伝える情報
- 中毒事故が起こったら(家庭でできること、やってはいけないこと)(日本中毒情報センター)原因物質の確認、重い症状での救急要請、家庭で吐かせない原則
- 中毒110番・電話サービス(一般専用)(日本中毒情報センター)24時間対応の電話番号、対象となる急性中毒、相談時に伝える項目
- 濫用等のおそれのある医薬品の販売について(厚生労働省)資料12頁に52消防本部の2020年から2023年上半期までの救急搬送集計と限界を掲載
- 指定濫用防止医薬品の指定に関する通知(厚生労働省)2026年5月1日から適用する8成分の指定
- 指定濫用防止医薬品の販売等について(厚生労働省)購入状況や多量購入理由の確認、情報提供などの販売ルール
- 令和7年度医薬品販売制度実態把握調査(厚生労働省)2026年8月公表。店舗とインターネット販売の遵守状況
- ナロキソン塩酸塩静注0.2mg「AFP」添付文書(医薬品医療機器総合機構)効能、非麻薬性中枢神経抑制薬への無効、呼吸抑制再発時の監視
- 一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について(厚生労働省)一般用医薬品の過量服用の危険と本人・家族向け相談先
- 依存症対策(厚生労働省)保健所、精神保健福祉センター、依存症相談拠点の役割
- まもろうよ こころ(厚生労働省)自殺危機に対応する24時間の電話・SNS相談窓口