AI向け計算基盤では、アクセラレーターの演算性能を引き上げても、必要なデータが届かなければ処理装置の待ち時間が増える。AMDは2026年6月15日、メモリー最適化を手がけるMEXTを買収した。AMDの公式発表は、MEXTの技術をデータセンター向け製品群へ組み込み、利用可能なメモリー容量の拡大と総保有コストの低減を目指すとしている。買収額と製品別の統合時期は明らかにしていない。

サーバー用メモリーモジュールとストレージ機器の接写(イメージ)

MEXTの仕組み──フラッシュをDRAMの補助層に

MEXTの予測型メモリー(Predictive Memory)は、アプリケーションのアクセス傾向を機械学習で読み、近く要求される可能性が高いページをフラッシュからDRAMへ先回りして移す。頻繁に使うデータは高速なDRAMに置き、利用頻度が低いデータは安価で大容量のフラッシュに退避させる階層化の一種だ。OSやアプリケーションからは、フラッシュをDRAMに近いメモリー領域として扱う設計である。

狙いは、搭載DRAMと同じ比率で物理メモリーを買い足さずに、扱えるデータ量を広げることにある。ただしAMDが発表で示した性能維持やコスト低減は、統合後の効果を見込む将来情報だ。対象ワークロード、フラッシュの構成、予測精度をそろえた第三者試験は公表資料で確認できず、導入効果を一律の数字には置き換えられない。

データセンターに並ぶサーバーラック(イメージ)

容量不足と帯域不足は別の制約

メモリーをめぐる制約には、モデルやデータが収まらない容量の問題と、演算器へデータを送る速度が足りない帯域幅の問題がある。MEXTが直接扱うのは前者だ。フラッシュを加えて実効容量を広げても、GPUに接続された高帯域幅メモリー(High Bandwidth Memory、HBM)自体の転送速度は上がらない。

2024年の論文「AI and Memory Wall」は、サーバーの演算性能が過去20年間に2年ごと約3倍で伸びた一方、DRAM帯域幅は約1.6倍、プロセッサー間の接続帯域幅は約1.4倍の伸びにとどまったと分析した。デコーダー型の大規模言語モデルでは、演算量よりメモリー転送が処理時間を決める場合がある。この演算性能とデータ供給速度の開きを「メモリーウォール」と呼ぶ。

基板に装着されたDRAMメモリーモジュール(イメージ)

TrendForceは、演算処理がメモリーからのデータ待ちで止まる構造を示し、GPUの近くにDRAMを積層するHBMがAIアクセラレーターの帯域確保で中心的な役割を担うと説明する。MEXTの階層化は、HBMやDRAMを不要にする代替策ではなく、高速メモリーの外側に低コストの容量を足す手段と位置づけるのが妥当だ。

予測が外れればフラッシュの遅延が表面化

先回りしたページが実際の要求と一致すれば、アプリケーションは低速な層への読み出しを意識せずに済む。予測が外れた場合はフラッシュからデータを取り出す時間が発生する。TechInsightsのアナリストはNetwork Worldに対し、ソフトウェアによる最適化は高価なDRAMの増設を遅らせる手段にはなるが、遅延に敏感な用途の高性能DRAMを置き換えられないと指摘した

この限界は、容量を増やす技術と帯域を広げる技術を分けて評価する必要性を示す。大規模モデルを搭載するための容量が不足する構成では予測型階層化が候補になる。一定時間内に大量のデータをGPUへ送り続ける処理では、HBMの帯域、チップ間接続、先端パッケージングの設計が引き続き性能を左右する。

回路基板に実装されたAIアクセラレーター(イメージ)

DRAM高騰がソフトウェアの採算を変える

買収の背景には、メモリー調達費の急増がある。TrendForceによると、2026年1〜3月のDRAM産業売上高は前四半期比81%増の970億ドルとなり、汎用DRAMの契約価格は同93〜98%上昇した。同社は、メーカーが供給を高容量のサーバー向け製品へ優先したため、PCやスマートフォン向けの供給が限られたと分析する。

DRAMの単価が上がれば、使用量を抑えるソフトウェアに割ける費用も増える。AMDにとってMEXTの買収は、CPUやGPUの単体性能に加え、メモリーとストレージを含むシステム全体の利用効率を販売価値に組み込む動きだ。ただ、2026年1〜3月の市況が今後も続くとは限らず、買収額が非開示のため投資回収の条件も評価できない。

半導体工場の製造設備と作業員(イメージ)

日本での提供時期は未確認

AMDの発表はMEXTの技術を同社のデータセンター製品群へ統合する方針を示したが、対応製品、提供地域、料金を明記していない。本稿の執筆時点で、日本国内の導入先や提供開始時期を示すAMDまたは顧客企業の公表資料は確認できていない。国内での調達計画やコスト削減効果を具体的に見積もる段階にはない。

よくある質問

「メモリーウォール」はメモリー容量の不足を指すのか
狭い意味では、演算性能の伸びにメモリー帯域幅が追いつかず、データ転送が処理速度を制約する状態を指す。容量、帯域幅、遅延は関連するが、同じ指標ではない。

MEXTは何を予測するのか
アプリケーションが次に要求する可能性の高いメモリーページを予測し、フラッシュからDRAMへ先回りして移す。予測精度と対象ワークロードによって効果は変わる。

MEXTの技術があればHBMは不要になるのか
不要にはならない。MEXTは低コストのフラッシュを使って実効容量を広げる技術で、HBMの帯域幅を増やさない。遅延に敏感な処理では高速なDRAMとHBMが引き続き必要だ。