ラック電力密度(Rack Power Density)は、1台のラックに収容するIT機器が必要とする電力をキロワット(kW)で表した設計値だ。施設側が従来型サーバーの平均値から先に置く数字ではなく、採用する演算装置、ネットワーク、ストレージの構成から積み上げる。NVIDIAのDGX H100向け設計ガイドは、1台の最大消費電力を10.2kW、4台を収めるラックを40.8kWとしている。一方、DGX GB200のラックスケールシステムは約120kWで、演算トレーを液冷しながらネットワークとストレージなどには空冷を残す構成だ

40.8kWと約120kWは、どちらも特定製品の構成例である。ここから「AIラックは120kW」と一般化してはいけない。調達する機器の型番と台数が決まるたびに容量表を更新し、配電、冷却、床、ネットワークの担当者が同じ版を使う。施設とITを別々に最適化すると、電力は足りても配管を接続できない、冷却できても高速ケーブルが届かないといった不整合が残る。

容量表は部品表から作る

最初の成果物は、ラックごとの部品表と容量表である。見積書のシステム名だけでは足りない。計算ノード、ストレージ、スイッチ、管理機器、ラック電力分配装置(Rack Power Distribution Unit、rPDU)、冷却水分配装置(Coolant Distribution Unit、CDU)まで分け、次の項目を一行ずつ埋める。

  • 機器:メーカー、型番、版、数量、搭載位置、将来の増設数
  • 電力:想定ピーク、通常時の実測値、入力電圧、相、プラグ、電源装置の数と冗長方式
  • :メーカーが示す最大発熱量、吸排気の向き、必要風量、液冷で除去する熱と空気側に残る熱
  • 液冷:供水・戻り水温度、流量、圧力、水質、継手、漏水検知、CDUの電力と保守空間
  • 重量:本体、レール、rPDU、CDU、配管、電源・通信ケーブルを含む総重量と脚部の点荷重
  • 通信:ポート数、速度、ケーブル種別と長さ、接続先、管理系と演算系の分離

電源装置の銘板定格を単純に足した値と、サーバー全体の最大消費電力は同じとは限らない。容量表にはメーカーがシステム単位で示すピーク値を優先し、通常時の値は試験機または同一構成の実測から別欄に置く。配電・冷却の安全側の確認と、電気料金や日々の運用見積もりを一つの平均値で兼ねると、短時間の負荷集中と障害時の負荷移行が隠れる。

配電──コンセントから受電点まで逆にたどる

電源経路は、サーバーの電源装置からrPDU、バスウェイまたは分電盤、無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply、UPS)、受変電設備、受電点まで逆向きに追う。非常用発電機は通常経路と分け、起動までの時間、燃料、冷却設備への給電範囲を記録する。各段で定格容量、連続運転に使える容量、遮断器とケーブル、相の配分、保守時に残る容量をそろえる。

DGX H100向けの公式設計では、ラックへ三つの電源経路を通し、各経路がピーク負荷の50%を支えるN+1構成を採る。二つの経路が上流の同じUPSへ合流する構成には未対策のリスクが残り、受電後は遮断器を一つずつ落として冗長性を確認するよう求めている。これは同製品向けの条件だが、入口が複数あっても上流を共有すれば単一障害点が残るという確認方法は、ほかの構成にも使える。

A系とB系のラベルだけで冗長性を判断してはいけない。片系を止めたときに、残る変圧器、UPS、盤、バスウェイ、rPDUが対象ラックのピークを引き受けるかを単線結線図で確かめる。保守と故障が重なる条件を採るなら、その条件も容量計算と試験項目に明記する。

液冷でも空冷と床荷重は残る

液冷の採否は「ラックが高密度だから」で決めず、機器メーカーが示す熱の分担から決める。直接液冷ではCPUやGPUの熱を冷却水へ移しても、電源装置、ネットワーク、ストレージから空気側へ出る熱が残る。供水・戻り水温度、流量、圧力、水質、CDUの能力、継手の位置、漏水検知、排水経路、保守中の代替系統を一つの系統図に落とす。リアドア熱交換器を使う場合も、扉の重量、開閉空間、配管の曲げ半径を加える。

日本の実装例では、産業技術総合研究所が2018年、AI橋渡しクラウド基盤(AI Bridging Cloud Infrastructure、ABCI)向け施設にラック当たり70kVAの電力供給・冷却能力と1平方メートル当たり2トンの耐荷重を持たせ、32度の冷却水による直接液冷と空冷を組み合わせたと公表している。70kVAは同施設の設備容量の例であり、kWへ換算するには力率などの条件が要る。約120kWの製品例とそのまま横並びにはできない。

床の確認対象は面荷重だけではない。ラックの脚またはキャスターにかかる点荷重、アンカー、二重床、スラブ、搬入口、エレベーター、養生材、運搬機器まで続く。NVIDIAのH100向け資料も、ラック、サーバー、rPDU、センサー、ケーブルを合わせた重量を床構造で支え、荷受け場から設置場所までの経路は機器と運搬装置の合計重量に耐えるよう設計する必要があるとしている。耐震固定と構造計算は、建物と設置地域の条件に合わせて専門家が確認する。

ネットワークはラック配置と同時に決める

複数ノードの学習や大規模推論では、ラックを分散した結果として高速接続が余分なスイッチを通れば、演算装置が通信を待つ。容量表から、演算ファブリック、ストレージ、サービス通信、管理通信、帯域外管理を分け、ポート数とケーブル長をラック位置へ落とす。ラック、列、スイッチ、電源系統、冷却ループの境界も重ねれば、一つの障害で止まるノードの範囲が見える。

NVIDIAの配線設計資料は、ケーブルトレーの断面積、充填率、ケーブルと支持材の重量を計画段階で見積もり、採用品が決まった後は実際の径と重量で計算し直すよう求めている。性能試験では単体ノードの速度に加え、予定台数でのノード間通信、ストレージ読み書き、スイッチ障害時の再経路化、学習ジョブの停止と再開を測る。

日本で加える確認──受電とPUE

施設内の容量がそろっても、必要な時期に必要な受電容量を確保できるとは限らない。電力広域的運営推進機関(OCCTO)は2025年度の需要想定で、北海道、東北、東京、中部、関西、中国、九州の7区域について、データセンターと半導体工場の新増設を電力需要へ反映した。個別案件では、使用開始時期、契約電力、受電方式、増設段階を一般送配電事業者と照合し、ラック増設の予定と切り離さない。

電力使用効率(Power Usage Effectiveness、PUE)は、施設全体のエネルギーをIT機器のエネルギーで割る指標で、ラックの最大電力とは役割が違う。日本データセンター協会(JDCC)は、省エネ法の定期報告で使うPUEを事業所ごとに計測し、事業者全体の値へ集計する方法を案内している。PUEの改善目標を持っていても、特定ラックの遮断器、配管、床がピーク負荷に耐えることの証明にはならない。

AIラック1台に何kWを割り当てるべきかを一律に定めた日本の公的基準は、本稿の執筆時点で確認できていない。製品ごとの最大消費電力と冷却条件、施設の余力、法令、受電条件を案件ごとに照合する必要がある。

受入試験は通常・ピーク・障害の三場面

試験条件と合格線は、機器が届く前に決める。実機が使えない段階では等価負荷で配電と冷却を確認し、搬入後に実際のワークロードを加える。順序は次の通りだ。

  1. 機器の型番、ファームウェア、ラック位置、電源・通信・配管の接続を最終の部品表と照合する。
  2. 通常負荷と想定ピーク負荷で、各相の電流、ラック入口温度、戻り水温度、流量、圧力、ホットスポットを測る。
  3. 電源経路を一つずつ遮断し、UPS切り替えと発電機起動を含め、残る系統がIT機器と冷却を維持するか確かめる。
  4. CDU、空調機、ポンプ、漏水検知を個別に停止し、警報、隔離、復旧の順序を確認する。
  5. 予定台数で演算ファブリック、ストレージ、サービス通信を測り、スイッチ停止時の影響範囲を記録する。
  6. 単一ラック、単一列、単一電源盤、単一スイッチの障害を模擬し、ジョブ停止と再開に要する時間を測る。
  7. 電力、温度、流量、圧力、漏水、通信の警報しきい値を設定し、監視画面から担当者への通知まで試す。

引き渡し時には、最終の部品表、単線結線図、配管図、ラック配置図、ケーブル表、設定値、試験記録、未解決事項、復旧手順を同じ版番号で保存する。設備またはファームウェアを変更した後は、影響する容量計算と試験だけを選び直せるよう、各項目の根拠も残す。

よくある質問

ラック容量は定格値と平均値のどちらで決めるのか
配電と冷却はメーカーが示す最大値と障害時の負荷移行を基準に確認する。通常時の実測平均は電気料金、PUE、運用計画に使い、容量の安全確認と混ぜない。

電源装置が二重ならラックも冗長なのか
入口の数だけでは決まらない。二つのrPDUが同じ盤、UPS、変圧器へ合流すれば、その上流設備が単一障害点になる。単線結線図と遮断試験で受電点まで追う。

液冷を入れれば空調は外せるのか
機器構成による。CPUとGPUを液冷しても、電源装置、ネットワーク、ストレージが空冷のままなら空気側の熱負荷は残る。メーカーが示す液体側と空気側の熱分担から容量を決める。

設備の確認は機器到着後で間に合うのか
間に合わない場合がある。受電設備、配管、床補強、搬入経路、ケーブルトレーは短期間で変更しにくい。調達前に仕様を容量表へ落とし、搬入前の等価負荷試験と搬入後の実負荷試験を分ける。